Isis 2007.1.29:Club Quattro
2006年のフジロックで初めてアイシスのライヴを観たのだが、白昼のホワイトステージにおいてその異形ぶりを遺憾なく発揮し、そのパフォーマンスは鮮烈なものとして私の脳裏に焼きついた。以降彼らの存在が気になるようになって、その活動ぶりをチェックするように。そうしているうちに単独での再来日が決まり、久々に会社から直行でスーツ姿でライヴに参加した。
オープニングアクトは2組。まずは、ボリスという日本人スリーピースバンドだ。SEが鳴り響く中をメンバーがステ−ジに登場し、ドラマーが激しくどらを打ち鳴らして演奏がスタート。それとほぼ同時にスモークが炊かれ、ステージ上はほとんど見えなくなってしまう。オープニングの曲こそアイシスに通じるハードコアなインストだったが、ストレートなギターロックの曲もあって、爆音をかき鳴らしている。
スモークが晴れると、メンバー3人の姿が明らかになった。中央奥にドラマーがいて、長髪を振り乱しながらスティックを振りかざしている。この人はヘッドフォンマイクもつけていて、コーラスも担当していた。ではメインヴォーカルの人はというと、向かって右に立つダブルネックのギターの人。この人もやはり長髪で、顔面が隠れてその表情を伺うのは難しい。そして向かって左にいたのは、やはりギターだがか細い女性だった。そして主メロはこの女性が担っていて、ダブルネックの人はむしろノイズ担当。ラストではまたスモークが炊かれ、鮮烈な印象を残して彼らのステージは終わった。
この最後のスモークのせいで火災報知器が反応してしまい、警備員が駆けつけるなどひと騒ぎあったようだ。そういうこともあって、セットチェンジが終わってもなかなか次のバンドが登場せず、しばし待たされた後でやっとジーズ・アームズ・アー・スネイクスが登場。アメリカの4人組だが、このバンドの特色は大きく2つある。まずひとつは音そのもので、ラウドでヘヴィーなリフが連射され、キーボードやプログラミングといった電子音も効果的に適用している。
そしてもうひとつは、ヴォーカリストのパフォーマンスだ。チェックのシャツにベストを着込み、細身で金髪。ぱっと見はさわやかな大学生風なのだが、まずその声はデスメタルのような低音シャウトで、そしてほぼ全曲でステージを降りてフロアにダイブ!オーディエンスもこの人を支えたりうまく支えられなかったりで、しかし当人はそんなことはお構いなしとばかりに歌いながら暴れている始末。あるときはフロア左後方のバーカウンターの上に仁王立ちし、あるときはギタリストも一緒になって2人でダイブし、と、痛快というかハチャメチャなライヴだった。
この後のセットチェンジは迅速に行われたものの、開演からは2時間半が経過してやっとアイシスの番に。4人組のはずだがもうひとりアフロヘアのギタリストがいて、この人はサポートだろうか。ドラマーが後方に陣取り、残る3人が前方やや左で横一列にというポジション取りは、フジロックのときと同様。がしかし、フジでは直立不動で淡々と演奏に耽っていたのに対し、ここでは各メンバーがそれぞれに躍動している。
向かって左があご髭をたくわえたギタリストで、この人は若干首を前後に振りながらギターを弾く。その右隣がスキンヘッドのベーシストで、この人はベースのみならずプログラミングも操作しつつ、やはり少しだけ首を前後に振っている。そしてその右に陣取るのが、フロントマンのアーロン・ターナー。長身であり、長い手足を器用に使い、首どころか上半身を大きく前後に揺さぶりながら、ギターをかきむしっている。
序盤は音が小さめで、このままだと前の2バンドのインパクトを超えられないなあと不安に思ったのだが、アーロン自身もそれを察知したのか、スタッフに指示を出して適時調整させていた。やがて爆音が場内を支配するようになり、オーディエンスはノイジーでヘヴィーでメタリックな世界観にさらされた。ライヴハウスという密室の空間にして、この凄まじいまでの音圧を体感できてしまうというのは、至福の喜びであり、極上の贅沢のようにも思える。
曲は、演奏そのものを徹底的に突き詰めたインストと、アーロンが時折ヴォーカルを入れる曲の、大きく2パターンに分類できる。しかしヴォーカルといってもほとんど咆哮に近いものがあり、何を歌っているのかを聴き取るのはかなり困難。というか、歌詞そのものに意味合いを持たせるというよりも、ヴォーカルまでもが楽器の一部であり、メッセージ性を廃して記号化しているように見て取れた。
曲が終わっても次の曲との間を空けることもなく、電子音のSEが響いて場の空気が間延びすることはない(場内は異様な雰囲気にのまれてしまっているので、これをしなくても間延びすることはないと思われるが)。そしてこの電子音はそのまま次の曲への呼び水になっていて、生楽器の演奏とうまくシンクロしている。轟音で圧倒する中にありながら緻密な音もいくつも発していて、このバンドの音に対するこだわりというのが伺える。
本編は約1時間程度で終了したが、メインのバンドということもあり、この日この場に集まった人たちの大半がアイシス目当てということもあって、当然アンコールを求める拍手と歓声が自然に沸き起こる。バンドは再登場して、長尺の曲を1曲演奏。最後にアーロンが「アリガトー」と言い放って、ステージを後にした。一見強面だが、実は生真面目でストイックで、そしていい人たちなのかも。
ハードコアでインスト中心のバンドというと、モグワイやマーズ・ヴォルタといったバンドの名が頭をよぎる。能力的にはアイシスも彼らに決して劣ってはいないと思うが、現時点ではアンダーグラウンドな存在に留まってしまっているのが実情だろう。このままアンダーグラウンドなところを突き進むのももちろんアリだとは思うが、個人的にはもっと多くの人にこのバンドの音に触れ、良さを知って欲しいと思っている。
アイシスに対するのと同じ思いを先の2バンドについても持っていて、どちらもフジロックのステージに立つべきだと思う。バンドにとっては、新たなファンを開拓できてより自分たちの音楽性を広く知ってもらえるだろうし、フジロックのオーディエンスにしてみれば、彼らの音に触れれば何らかの衝撃を受けるはずだ。ジーズ・アームズ・アー・スネイクスはホワイトステージ、ボリスはフィールド・オブ・ヘヴン辺りが似合う気がしている。
(2007.2.1.)