Kasabian 2007.1.13:横浜Blitz
個人的に横浜Blitzに来るのは4度目になるのだが、過去3回はいずれも2階席で、1階スタンディングは今回が初めてだった。整理番号は比較的早めだったので、開場前に列に並び、時間になって入場。1階フロアは思ったほど広くはなく、Shibuya-AXよりも狭いのではと思った。なおこの公演にはMTVのカメラが入っていて、入場の様子を捉えていたし、2階席左側にもカメラが設置されていて、ライヴの様子が撮影されていた。
定刻より10分ほど遅れて客電が落ちた。やがてSEが流れ、ステージ向かって右後方からはスモークが炊かれ、これで早くも場内がざわつく。そんな中を、ヴォーカルのトムを除く4人のメンバーが登場し、インストナンバー『Brown Acid』でライヴは始まった。ステージ上は暗めにされていて、後方のライトがランダムに閃光することで、4人の姿がかろうじて断片的に確認できる。
やがてトム・ミーガンが登場してバンドに加わり、ステージも明るめになって『Shoot The Runner』へ。トムはハンドマイクを手にして熱唱し、ステージ上を自在に動き回り、手拍子でオーディエンスを煽り、「ヨコハマーーー」「カンパイーーー」と、日本語のMCも連発。バンドの顔としての役割を十二分に果たしている。しかし一方でしきりに水分を口にしていて、もしかしたらノドの調子が今ひとつなんじゃないかとも思ってしまった(この時期乾燥してるしな)。そして、トムのすぐ左に陣取っているのがギター&ヴォーカルのサージ・ピッツォーノ。長髪でヒゲをたくわえ、背丈もメンバーの中では最も長身。存在感が群を抜いている。トムの右にはベース、奥にはドラム、そしてサージの左にはおもちゃ風のサングラスをかけたサポートのギタリストが陣取っていた。
カサビアンの曲には電子音がつきものだが、ここライヴの場ではメンバーは生楽器の演奏に終始していて、スタッフもしくはサポートの人がプログラミングを請け負っていた。曲間にも電子音がそれとなく流れていて、場内の雰囲気が間延びすることはなく、熱気が持続されている。そして次の曲へとなだれ込むのだが、電子音と生演奏とは絶妙に融合していて、ライヴならではの生々しさが一層増幅されている。ステージにはライトが設置されている以外には装飾はないが、その分メンバーのアクションそのものに目が行くし、彼らはそれに応えるパフォーマンスをしている。
曲は2枚のアルバムからランダムにセレクトされて演奏され、それらがライヴの流れをちゃんと形成している。そして中盤のハイライトになったのが、新譜のタイトル曲でもある『Empire』だ。直訳すれば「帝国」だが、ここではメンバー間でやりとりされる「最高!」の意だそうだ。曲そのものはわかりやすくはあるが、名曲でもなく決定的なインパクトもないと思っていて、ライヴの場でどう組み込まれていくのかかなり興味があった。それが、冒頭でもなく終盤やアンコールでもなく、中盤に放たれたということで、ライヴの流れにメリハリをつけることに成功していて、うまくやったなと思った。
『Empire』で場内の温度が一段上がった感があり、そのままの勢いでライヴは一気に突き進んだ。名曲のひとつだと思っている『Processed Beats』を経て、『The Last Trip』~『The Doberman』で押し捲って本編を終了。『The Doberman』は、終盤にトランペットの音が入るのだが、ここではそれがSEでカバーされ、代わりになのかトムがペットを吹くマネをしてみせた。
アンコールは、まずドラマーが真っ先に登場し、ドラムソロを始める。やがてサージとベーシスト、サポートのギタリストが登場し、『Apnoea』へ。そして最後にトムが登場して加わった。そして、次の曲に入るときにベースとギターがポジションを入れ替わり、楽器もチェンジ。一方サージはステージにしゃがみ込んでいる。この時点で、場内はざわつき出した。賢明なファンはわかっているのだ。この後に何が起こるのかを。そして、ついにそのときはやってきた。
電撃のイントロが鳴り響き、オーディエンスの熱狂ぶりがこの日最高潮に達した。「来る」とわかってはいたが、改めてこのイントロを体感し、全身に電流が走った。曲はもちろん、決定的なアンセム『Club Foot』。サビの「Ahhhhhhhhh−−−♪」はもちろん大合唱になり、場内の騒ぎっぷりも最早尋常ではなくなり、フロアは総モッシュ状態になり、特に前の方は暴れ放題。しかしこれも納得の状況で、この日この場に集まった人たちのほとんどは、この瞬間が訪れるのを待っていたのかもしれない。
更に追い討ちをかけるように『Stuntman』へとなだれ込み、もう何でもアリのような、感覚が麻痺してしまいそうな状態に。しかしここで終わるのかと思いきや、トムが「see you Summer Sonic!!」と言い放ち、『L.S.F.』がオーラスに。全てが終わった後、メンバーは機嫌よく手を振ったり挨拶したりした。最もクールそうに見えるサージが、ステージを降りてフロア最前に詰めているオーディエンスとタッチを交わしたのにはびっくりした。
セカンドアルバムをリリースし、ソングライターとしてもパフォーマーとしても、確実にその力量は厚みを増している。今回明確になったと感じたのは、トムとサージのツートップ体制で、この2人がバンドを牽引し、後の3人が脇を固めるというフォーメーションが、現在のカサビアンのバンドスタイルなのだろう。実際、サージはほとんどの曲を手掛けていることもあり、実質的にバンドの軸のような存在で、自らしっかりバンドを支える一方、トムには好きなようにやらせているようにも見える。そして、これってなんだかオアシスみたいだ(オアシスとカサビアンは、相思相愛の仲でもあるのだが)。
しかし、曲のレベルにしても演奏の表現力にしても、まだまだ未完成であり発展途上にあるというのが、正直なところだ(もちろんいい意味で)。個人的には、このバンドの成長を物凄く楽しみにしている。数年後にはフジロックのグリーンステージのトリとして、もちろん大抜擢ではなく堂々と、ステージに立ってほしいと思っている。それから逆算すれば、この日のパフォーマンスはまだまだ物足りないものがあったし、裏を返せば、まだまだ伸びしろがあるという期待感を抱かせてくれるのだ。
(2007.1.16.)