Foo Fighters 2006.12.4:日本武道館
先日アコースティックライヴが行われたばかりだが、今回は「通常の」ロックスタイルのライヴだ。会場の規模はホールから武道館へと拡大し、そしてアリーナがオールスタンディングになっていることもあってか、場内を包む雰囲気は随分様変わりしていて、若々しく熱気に満ちていた。もちろん単純に比較することはできないが、この日の方が若いファンが多かったように感じたし、また女性客も結構見受けられた。
予定を10分近く過ぎたところで客電が落ちた。バンド4人がステージ向かって右の袖の方からゆっくりと登場し、それぞれ持ち場につく。しかしデイヴ・グロールはまず前の方に歩み寄り、オーディエンスにアピール。まずは向かって右の東側、続いて左の西側にだ。そしてやっと正面の自分の立ち位置に戻り、マイクスタンドの前に立って「Ohhhhhhhhhh Yeahhhhhhhhhh!!」という咆哮を挙げ、そしてガガッガガガッとギターをカッティングし始めた。オープニングは間違いなく『In Your Honour』になると思っていたのだが、なんと『All My Life』だった。
意表を突かれはしたが、すぐに気持ちを切り替えた。個人的には『In Your Honour』は去年のフジロックで観ていて、逆に『All My Life』は今回が初めてになったので、むしろこの方がありがたいと思ったのだ。重ねてありがたいのは、いきなりトップギア状態で突っ走るデイヴの気合いの入りようだった。黒の衣装に身を包み、長髪を振り乱しながらギターをかき鳴らし、そして間奏に差し掛かるとステージ上を右に左にと歩き回ってはオーディエンスを煽る。オーディエンスのリアクションも上々で、とてもライヴが始まったばかりとは思えない熱狂ぶりだ。
続く『My Hero』を経て、軽快な伴奏をバックにしながらのデイヴのMCとなる。ツアーで来日するのは8年ぶりだ・・・ブドーカンは初めてだが、素晴らしい会場だ・・・みんな来てくれてありがとう・・・(客席に向かって指を指しながら)次の曲は、オマエ、オマエ、オマエたちに捧げよう・・・。こう言った後に始まったのが『Best Of You』だ。まずはデイヴひとりだけでの歌とギターなのだが、途中からフルバンドのモードにシフトして爆音が炸裂し、無数のスポットライトが演奏にリンクして閃光する。ショウは、早くも沸点に達してしまった。
メンバーの立ち位置は、中央にもちろんデイヴ。向かって右にベースのネイト・メンデル。グリーンのTシャツを着ていて、だいたいは直立不動状態で弾いている。かなりポッチャリ体型だ。向かって左にはギターのクリス・シフレット。グレーのシャツ姿で、結構小柄に見えた。そしてデイヴの真後ろに陣取るのが、ドラムのテイラー・ホーキンス。赤いスリーブレスのシャツと長い金髪が眩しく、両腕を大きく掲げて振り下ろすようなスタイルで叩くのが印象的で、刻まれるビートはハードでソリッドだ。ステージは、バックドロップに「FF」と記されたバンドのエンブレムが掲げられ、そして上部はもとより側面にもスポットライトが配置されていた。
『Times Like These』を経て、デイヴの長いMCコーナーに。アコースティックライヴに来てくれた人は・・・去年のフジロックに来てくれた人は・・・といったようなことから始まって、8年前の「事件」について自ら話し始めた。赤坂ブリッツでの公演のとき、デイヴは体調が悪く、ライヴの途中でステージを後にした。当初はトイレに行って用を足してそれで生還するつもりだったが、体調があまりにもひどくて戻ることができず、そのライヴは結局途中で中止になってしまったのだ(後でネットで調べてみたら、このときデイヴはウィルス性の病気にかかっていて、公演中止直後に病院に直行したらしい)。
そうしたエピソードが披露された後に(しかもかなりリアルに/笑)始まったのが、『Up In Arms』だった。今回は会場が武道館で1万人ものオーディエンスが集まっているが、もしかしたらそのときブリッツにいた人のうちの何人かは、この場にいたことだろう。では私はというと、当初このときのツアーは見送るつもりでいた。しかしネット上でこの事件を知り、デイヴがこの逆境をどうやって乗り越えるのかを観なければならないと思い立って、最終公演のリキッドルームに行ったのだった(そのときにデイヴは、ブリッツ公演が途中で中止になってしまったことを詫びていた)。
しかし、前半は驚くほどにベストヒットばかりを畳み掛けていた。それが『Learn To Fly』を経たところで、曲重視から演奏重視にシフトする。『Starcked Actors』で、まずは原曲の通りに歌い演奏されていたが、「原曲の」終盤になったところでデイヴはステージ向かって右の隅に行くとそこにしゃがみ込んでリフをさらっと弾く。すると、呼応するように今度はクリスがさらっとリフを弾く。再びデイヴ、そしてクリス、といったような掛け合いがあって、果ては2人揃ってのジャムセッションのようなギター合戦に。
すると、今度はテイラーのドラムソロになって、他3人はいったんステージから捌けていく。テイラーの独壇場がしばし続いた後、まずデイヴひとりがギターを弾きながら生還してリフを刻み、テイラーと2人でのセッション。次いでネイトとクリスが戻ってきて加わり、再び『Starcked Actors』の終盤の演奏につなげて行くという展開だ。メタルバンドがライヴでよくやる展開に似ているようにも思えたが、曲をCDの通りに演奏するだけではない、ライヴバンドとしての懐の深さを見せ付けられたひとときでもあった。
いよいよ終盤戦となり、懐かしい感のあるファーストアルバムからの『Big Me』が披露されたかと思えば、一転して最新作『In Your Honour』からはエッジが効いた『DOA』、そしてサードからは『Generator』、更にはサントラに提供されている曲『The One』と、どのアルバムに偏ることもなく、満遍なくセレクトされた曲が次々に連射される。そうした中で個人的に特に嬉しかったのは、セカンド『The Colour And The Shape』からの『Hey, Johnny Park!』だった。なぜなら、フーファイがリリースしているアルバムの中で、今でも私が最も好きなのがセカンドだからだ。
もちろん他の作品がダメとか劣っているという意味ではなくて、バンドはアルバム毎に挑戦を続けていて、音楽性を拡大したり、あるいはより深く追求したりして、それ相当の結果を出すことに成功している(特にこの日のライヴで、私はサードの良さを再認識させられた)。そうした中、個々の曲がそれぞれ際立っている上に、アルバムとしての統一感もあるというのが、私がセカンドに対して抱いているイメージであり、だから好きなのだ。そして本編を締めくくったのも、セカンドからの『Monkey Wrench』だった。
アンコールは、デイヴとオーディエンスとの掛け合いから始まった。デイヴはまず東スタンドを指差し、オーディエンスが歓声を挙げ両手を挙げて応える。続いて西スタンド、更に南や南東南西といった正面方向、そしてアリーナ。これを2、3度繰り返し、場内がすっかり温まったところで『Break Out』に突入だ。歌い出しはデイヴが熱を込めつつも丁寧に務め、そしてサビに差し掛かったところでデイヴはオーディエンスに合図を送る。
こういう大合唱ができる曲があるというところも、このバンドが持ち合わせているよさのひとつだ。そしてこういう大合唱は、会場が大きければ大きいほど一体感が増し、大合唱をやり遂げたときに沸き起こる感動は、何倍にもなって跳ね返ってくる。私たちオーディエンスにも、そしてバンドにも。
テイラーがリードヴォーカルを取る『Cold Day In The Sun』を経て、いよいよオーラス。デイヴは最後に、今度はブドーカンで6回(10回だったかな?)のロックショウを演る!みたいなことを言ってくれた。曲はもちろん『Everlong』。やはりセカンドからであり、そして私が最も好きなフーファイの曲でもある。「全てがリアルなこの瞬間はいつまで続くのだろう~こんな気持ちを二度と味わえるだろうか~」と歌われるサビは、ライヴに臨むバンドの素直な心情が吐露されているようでいて、この箇所を聴くだけで感動的な気持ちになる。そしてこの曲は、今でこそオーラスの定番のようになっているが、元々はそれほど重要な曲ではなかったはずだ。しかしライヴの場で演奏され続けることによって磨かれていき、そのよさが浸透していったのだと感じている。オアシスの『Acquiesce』のように。
セットリスト的には新譜に偏ることなく、キャリアを総括したかのような構成になっていた。8年ぶりの単独公演ということで、バンド側が日本のファンに配慮してくれてこうなったのだろうか。その8年というインターバルも影響しているとは思うが、フーファイの武道館進出は遅すぎたくらいだと私は思っていて、そしてこの日のライヴは、彼らならこれくらいやってくれて当然という、密度が濃く充実した内容だった。
今までフーファイターズのライヴは結構観続けてきていて、このバンドのことやデイヴ・グロールのことはそれなりに把握していたつもりだった。しかし今回の来日公演で、アコースティックとロックの2種類のショウを体験したことで、私は何もわかっていなかったのだと思い知らされた。今まで私は、デイヴのことを優れたパフォーマーでありエンターテイナーであるくらいにしか思っていなかった。Tシャツに短パンの軽装でギターをかき鳴らしながらシャウトする、そんなイメージしか持ち合わせていなかった。
この日のライヴを観てびっくりしたのは、デイヴは他の誰よりも運動量が多かったにもかかわらず、ほとんどの曲で自らがリードギターを担っていて、クリスがリズムギターに回っていたことだった。そして先のアコースティックライヴから感じたのは、ソングライターとしての資質であり、オーガナイザーとしての一面であり、ストーリーテラーとしての才能だった。ドラムやギターをこなせることは既に知られているが、恐らくこの人はほとんどの楽器を操れるマルチミュージシャンだと思う。音楽そのものに対するこだわりが並々ではなく、そしてそれを実現できてしまう驚異的な手腕(もちろん努力も)があったのだ。
(2006.12.5.)
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