U2 2006.11.29:さいたまスーパーアリーナ
当初は今年4月に実現していたはずだった、8年ぶりとなるU2の来日公演。しかしメンバーの家族の病気のため延期となり、更に半年以上待たされる格好に。しかしその代わりなのか、バンドはツアー再開に合わせるかのようにオールタイムのベスト盤のCDとDVDをリリースしてくれ、待つ側のU2熱はいやが上にも高まった。会場もドームではなくアリーナクラスとなり、そしてフロアはオールスタンディング形式になっていた。
私の座席は200レベル10列目で、これはなんと1階スタンド席の最前列だった。ステージ向かって右側のポジションで、ステージはもとよりアリーナの様子、そしてそのアリーナに突き出している花道までもが、手にとるようによく見える絶好のポジションだった。ちょうど真下が関係者用の通路になっていて、開演30分前に一斉に大勢の報道カメラマンが入ってくるのもわかった。
予定より10分ほど過ぎたところで開演を知らせるSEが鳴り響き、やがて客電が落ちる。暗くなっているステージ上にメンバーが陣取りスタンバイしているのがかろうじてわかるが、ライヴの口火は意外なところから切られた。花道はアリーナAブロック内にΩ状に突き出しているのだが、その右側の花道の先にピンスポットが当たり、そこにボノが立っていたのだ!そしてボノは日の丸の旗を大きく振り、ここでアダムのキーボードにより『City Of Blinding Lights』のイントロが流れた。これだけで、もう鳥肌が立ってしまった。
ボノはアリーナや客席をゆっくりと見回し、やがて日の丸の旗を肩にかつぎながら歌い、ゆっくりと花道を歩き出す。ステージに戻ると旗を脇のところに置き、センターの立ち位置に立って熱唱する。ボノは、黒づくめの衣装にサングラス。向かって右のラリーは赤の柄物のシャツ姿。結構がっちりした体格に見える。向かって左のジ・エッジは、赤いTシャツ姿で帽子をかぶっている。そして3人を後方から見つめるラリーは黒のシャツ姿で、メリハリの効いたビートでサウンドの屋台骨を担っている。
続くは、もっかの新譜『How To Dismantle An Atomic Bomb』の顔的な曲の『Vertigo』。サビはもちろん大合唱となり、この後何度も訪れる、場内が一体となる瞬間の「最初」がやってきた。ステージセットは、先日リリースされたばかりの『U2 18 Singles』の初回盤に同梱されているDVDでも確認できる、ミラノ公演と同じものだ。ステージ後方は巨大な電飾スクリーンに覆われていて、曲に合わせて閃光する。また左右の上部にはモニターがあり、左はジ・エッジとラリー、右はボノとアダムを、それぞれ捉えている。花道はアリーナ方向のほか、左右真横にも突き出していた。
前回のツアー名にも冠されていた曲、『Elevation』。まずはジ・エッジによる野太いリフだけが流れる中でボノが「Fhhhhhhhhhh♪」と歌い、それに呼応するようにオーディエンスも「Fhhhhhhhhhh♪」と返す。この掛け合いが何度かされた後に「E!Le!Vation!」の大合唱となり、フル演奏に切り替わる。前回のツアーはとうとう日本公演が実現せず、ファンの身としてはリリースされた2本のツアーDVDを観て楽しむくらいしかできなかったのだが、この日は違う。U2は画面の中にではなく、今目の前にいるのだ。
ここまでは割と「最新型」のU2だったが、続くリフには思わずはっとさせられた。デビューアルバム『Boy』からの『I Will Follow』だ。懐かしくもあるが、曲そのものが持つ瑞々しさや美しさは、リリースから26年が経った今でも少しも色褪せることなく、輝きを放っている。更に今度は、対照的にゆったりとした柔らかいリフがしばしジ・エッジによって奏でられ、やがてボノが『I Still Haven't Found What I'm Looking For』を歌い始める。直訳すれば「僕はまだ探しているものを見つけられない」となり、「終わりなき旅」という邦題がつけられているこの曲は、U2自身の生きざまを表現したテーマ曲のようだ。そしてボノは、最後に少しだけだが『In A Little While』のフレーズを歌った。
そして『Beautiful Day』だ。世紀末に放たれた『All That You Can't Leave Behind』の顔的な曲で、抜けのよさがなんとも気持ちよく、U2がこれまでに成し遂げてきた仕事の重みを感じさせるような圧倒的な曲だ。サビに差し掛かったときに、ビートが炸裂しボノがシャウトしそしてライトが一斉に閃光し、これらが見事にシンクロして極上の空間が生み出される。なんという、至福の瞬間なのだろう。そして終盤、ボノは今度は身をかがめながら『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』~『Blackbird』の一節を早口でシャウトする。更には、「世界初...いや宇宙初だな」というMCの後で、『U2 18 Singles』に収録されている新曲『Window In The Skies』を披露してくれた。
ジ・エッジがアコースティックギターを弾きながら、ゆっくりと向かって左の花道の方に歩き出す。一方でボノが『Walk On』を歌い出す。アウンサン・スー・チー女史に捧げられた曲であり、前回ツアーのオーラスだった曲だ。それが今回はシンプルなアレンジとなり、沸点に達したショウの熱を冷ますかのような役割を果たしている。そして今度は、ジ・エッジと入れ替わるようにボノが花道の方に行き、先端までたどり着いたところで、亡くなった自分の父のことを少しだけ話す。そして始まったのが、『Sometimes You Can't Make It On Your Own』だ。
巨大スクリーンの左から3分の2は歌うボノを映し、そして残る3分の1は人を模したCGが淡々と歩く映像になる。この曲のPVは、ボノがフードをかぶりながら街中を淡々と歩くだけというシンプルなものでありしかもモノクロだが、その中にボノの父親に対する思いを感じることができる。しかしライヴはまだ前半で、クールダウンに入るにしては少し早いかなと思ったのだが、それはこの後繰り広げられる怒涛の展開に入るための助走だったのだと、嫌と言うほど思い知らされることになる。