Primal Scream 2006.9.22:Zepp Tokyo

日本大好きプライマル・スクリームの今回の来日公演日程は、まず11日の福岡に始まり、大阪~名古屋を経て札幌や仙台にまで足を伸ばしていた。そして最終となる東京の日程は、20日及び21日となっていた。しかし、あいにくと私は両日とも他のライヴを予定に入れていて、このままなら行くことは物理的に不可能だった。ところが22日に追加公演が出てくれたので、渡りに船とばかりこのチケットを入手。・・・なのに、場内はお世辞にも満員とは言えず、だいたい6割くらいの入りだった。1階フロアの後方両サイドには黒い幕が張られ、人を入れないようにしていた。





 定刻より10分ほど遅れて客電が落ち、エスニックにしてビートの効いたSEが流れるとそれに合わせて場内からは拍手が沸く。やがて、メンバーがゆっくりとステージ向かって右の袖から登場し、それぞれ持ち場につく。オープニングはなんと、オーラスとして演奏されてもおかしくないアンセム、『Movin' On Up』だ。


 さてメンバー配置だが、中央にはもちろんボビー・ギレスビー。相変わらずひょろひょろの体型で、スーツが似合っている。髪は伸ばしていた。向かって右にはベースのマニ。この人も相変わらずで、メンバーにもオーディエンスにも愛嬌を振りまいている。ボビーの後方にはドラムのダレン・ムーニー、その左にはキーボードのマーティン・ダフィ、そしてその奥には2人の黒人女性コーラスが陣取っている。彼女たちが曲の終盤でゴスペル調をコーラスを入れることで、『Movin' On Up』は原曲に近いイメージで堪能できた。


 そして今回のキーパースンだと思ったのが、2人のギタリストだ。まずボビーの向かって左にアンドリュー・イネス。帽子を被っていてその表情までは伺えないが、大柄で存在感ありありで、ぱっと見ニール・ヤング風。この人今までこんなに目立ってたっけ?と思うくらいで、メインのリフをほとんど弾き、自分の立ち位置に留まることなく、マニの方に何度も歩み寄ってきてプレイする。そればかりかオーディエンスに向けて手拍子を誘ったり、フロア前方のオーディエンスにタッチしたりと、ボビーやマニをもしのぐアクションだ。


 もうひとりは、マニの向かって右に陣取っている、明らかに他のメンバーより若い人。このバーナード・バトラー風の青年は、実は先日のサマーソニックで来日もしていた、リトル・バーリーのバーリー・カドガンだそうだ。サポート参加ということもあってか、自分の立ち位置から離れることはあまりなく、リズムギターに徹するのがほとんど。それでも、時折マニとのコンビネーションを見せたり、ジェフ・ベックのようにギターを上の方に掲げて弾いてみせたりした。正規のギタリストであるロバート・ヤングの姿がここにはないが、何かあったのだろうか。





 過去3作はエレクトロパンク路線だったが、新譜『Riot City Blues』は久々となるロックン・ロール路線で、ライヴでは曲順とかアレンジとか、どうするんだろうと思っていた。まず曲順に関しては、あまり流れを重視しているようには感じなかった。新譜の『Dolls』から『Jailbird』へというのはともかく、その次に『Shoot Speed/Kill Light』とくるも、また新譜の『Suicide Sally & Johnny Guitar』(デヴィッド・ボウイ風で個人的に好きな曲)となっていて、結構ごちゃまぜ。そしてアレンジだが、こちらは今現在のバンドのあり方を反映しているのか、電子音や爆音の洪水!ではなく、肉体性溢れるパフォーマンスで生音を重視した仕上がりになっている。


 エレクトロ路線の曲は、やはりというか相変わらず圧倒的だ。共にアルバムのトップを飾っている『Kill All Hippies』~『Burning Wheel』は、イントロが響いただけで期待感が煽られるし、実際の演奏そのものも充実している。一方新譜からの『When The Bomb Drops』~『The 99th Floor』という辺りも、曲そのものは決して斬新ではないのだが、かつて一作毎に作風が変化した、プライマルの柔軟な音楽性がよみがえってきたのかなと思え、もうキャリア20年に届こうかというこのバンドに対し、まだまだ期待していいはずだという気持ちが沸いて来る。


 『Medication』を経ていよいよ終盤戦となり、ここからはプライマル黄金のアンセムが連発。ポップな中に狂気がチラつく『Kowalski』。サイレンのイントロに身を引き締められ、炸裂する轟音と視覚を狂わすかのようなフラッシュライトに幻惑される『Swastika Eyes』。そして、新譜の顔と言っていい『Country Girl』だ。原曲ではマンドリンが使われているが、この場ではそれはなくバンドバージョンで押し切った。この曲も、現在のヒット曲というだけでなく、プライマルのキャリアを代表する1曲になりうる輝きを放っている。そして、どのアルバムでもこのように際立った曲を生み出せるところに、このバンドの嗅覚の鋭さがあると思うのだ。そして本編ラストは、問答無用の『Rocks』だ。





 そしてアンコールへ。まずはなぜか黒人女性コーラスのひとりがMCを務め、オーディエンスとのコール&レスポンスをして場を温めた。そして曲は、なんと『Screamadelica』からの『Damaged』だった。ゆったりとした曲調はこの日のライヴの中では明らかに異質だったが、この違和感が個人的にはすこぶるよかった。続いては『Rise』~『Accelerator』と、エレクトロパンク炸裂で蹴散らした。


 すぐさま2回目のアンコールとなり、『City』~『Skull X』という、引き続いてのエレクトロパンク炸裂。最後はアンドリューがピックをフロアに投げ、ダレンもドラムスティックを投げまくってステージを後にした。ステージはフラッシュライトが閃光しまくっていて、また残響音がいつ終わるともなく延々と鳴り響いた。さすがにこれで終わったかなと思ったのだが、しかしスタッフが出てきて音を消した後、ギターやベースのチューニングをするのを見て、まだあるなと直感した(ここで帰ってしまった人もいた。嗚呼もったいない)。


 そして、3たびのアンコールに。この日は満員にはほど遠い集客状況だったが、しかし歓声の大きさやノリの良さは決してパワー不足を感じさせなかった。バンドがここまでやってくれたのは、この日が来日最終公演だからというだけではないはずだ。そしてオーラスは、ジョン・レノンのカヴァーである『Gimme Some Truth』だ(シングル『Country Girl』のカップリングとして収録)。オリジナルはジョンのソフトな個性がにじみ出た穏やかな曲調なのだが、プライマルバージョンはギンギンのハードなロックンロールで、原曲の面影を見出すのはちょっと難しい。しかし、これでいいのだと思う。





 ここ数年ずっとプライマルを観続けてきた上でこの日の公演に臨み、まず感じたのはケヴィン・シールズの不在だ。ケヴィンがいたときのプライマルはドリームチームの様相を呈していて、誰が際立つということよりも、バンドが発する音がひとつの巨大なエネルギーの塊と化し、殺人的な凄まじさを以って観る側を襲ってきたような感覚があった。今回はそうした凄まじさはなく、メンバーひとりひとりの肉体性が発揮されたパフォーマンスだったと思う。


 バンドは恐らく、前作『Evil Heat』とそのツアーで、クリエイターとしてもパフォーマーとしても、行き着くところまで行ってしまったのだ。だからこそベストアルバムや(日本限定とはいえ)ライヴアルバムのリリースに踏み切り、そのキャリアにひと区切りつけたと思うし、そして今後同じような路線を続けるかそれとも別の路線に行くのかを考えたはずだ。その結果はじき出されたのがロックン・ロール路線だが、音そのものはむしろエレクトロパンク路線を経たことで、更に肉厚になったと思う。そしてこれはバンドの新たなる挑戦であり、そういう現在のプライマルのあり方を、私は支持したい。




(2006.9.23.)
















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