Madonna 2006.9.21:東京ドーム

大阪公演や東京初日では、開演が大幅に遅れたそうだ。そういう情報が行き渡っているのかいないのか、予定時刻を回っても場内はのんびりムードで、これからライヴが始まるんだという緊張感はまるでなかった。通路を行き来する人が途切れないばかりか、ステージを背にして記念撮影する人も少なくない。この日の公演は、望遠レンズ使用やフラッシュ撮影が禁止と告知されていたのだが、裏を返せばこれらをしなければ撮影OKということだ。もしかすると、カメラ使用が公認された日本初のライヴではないだろうか。





 結局、予定より1時間10分遅れてやっと客電が落ちた。ステージ両サイドの花道にダンサーが現れ、一方中央部からアリーナ席に向かって長く突き出している花道には、上の方から巨大なミラーボールがゆっくりと降りて来た。妖しい光がドーム内に反射される中、やがてダンサーたちも花道に集結し、そしてついにミラーボールがオープン。その中には、黒いボンデージスーツ姿のマドンナが立っていたのだ。


 曲は『Future Lovers』から、ドナ・サマーのオリジナルでブロンスキー・ビートもカヴァーしている『I Feel Love』へ。花道でのダンサーとの戯れもしてみせるマドンナだが、やがてゆっくりとステージに歩いて行く。ステージにはバンドが陣取っていて、向かって右にベース/プログラミングとドラム、左にはギターとキーボードとコーラスが。しかし彼らのセットは台の上に設営されていて、曲により台が可動して、ステージ上にはスペースが広く取られることが多かった。


 『Like A Virgin』になると、マドンナは向かって左の花道へ。そこには鉄棒に据え付けられた黒いシートがあって、そこにまたがって歌う。下は円形の台になっていて、その円の外側をゆっくりと鉄棒が回り、マドンナは立ち上がって棒に腰をこすりつけたりしている。ステージ両サイドには巨大なスクリーンがあって、そこでは主にマドンナを映すほか、アリーナ前方に詰めている客のアップも抜いたりする。そしてステージにも、上部に通常のスクリーンと、可動式の筒状のスクリーンがあって、この2つは独自の映像を流している。このときは馬の映像を流していたのだが、どうやら落馬事故を起こした自分をパロディーにしている意味合いだったようだ。





 『Jump』を経てマドンナはフェードアウトし、いったん場内が暗くなった後、ダンサーが出てきて踊ってつなぐ。するとステージ中央部には、巨大な十字架が横たわっているのが見えた。やがてその十字架がゆっくりと起き上がるのだが、そこには磔になったマドンナが!そしてその状態で、『Live To Tell』を歌う。既に各所でキリスト教冒涜だとか、中止しろとか、物議を醸していたパフォーマンスだ。しかし、そんな外野の雑音などものともせず、パフォーマーとして貫き通すマドンナの堂々たる姿勢にこそ、感動を覚える。そして映像では、貧困に苦しむ難民の姿が映し出され、AIDSの危険性を訴え、これらを救済する団体のURLが紹介されていた。


 『Isaac』は冒頭にインド風の歌が入るのだが、この場でも実際にインド風のシンガーが登場して歌い、それを引き継ぐようにマドンナが歌い上げていた。『Sorry』は、この意味を指すことばが各国語で散りばめられているのだが、間奏のところでは日本語の「ゴメンナサイ♪」が入り、場内は一段と沸いた。ちなみにこの日のマドンナ、「コンバンハ、トキオーーー♪」とか、「アリガトーゴザイマーーースッ♪」といったように、結構頻繁に日本語のMCもしてくれた。





 『Like It Or Not』を経て、マドンナはまたもやフェードアウト。今度は映像が場をつなぐ役を担っていて、そこではブッシュ、ブレア、キム・ジョンイル、ライス国務長官、ビンラディンなどのショットがランダムに映り、合間にマドンナのショットと、「Don't Talk」「Don't Speak」といったメッセージが挿入される。日本には来なかった前回のツアーは、作品を反映する形で政治色が色濃く出ていたが、今回はそういうのはあまり前面に出して来ないのかなと思っていたので、少し意外だった。


 そして再登場したマドンナだが、今度は黒のエナメル地のジャケットをまとい、金髪のヅラをかぶっていた。ギターを弾きながら『I Love New York』を熱唱。このときライティングが最も激しかった。続いてはジャケットを脱いで黒のTシャツ姿になって『Ray Of Light』を。ここでダンサー6人が登場してマドンナのバックで踊り、曲の中盤になると花道の方に躍り出てきていたのだが、なんとこの6人、祭の出店で売っているような戦隊ヒーローもののお面をかぶっていた(笑)。そして6人の後方でギターを弾きながら歌うマドンナ。このダンスチューンをバンドバージョンでやったのも意外だった。


 『Let It Will Be』では花道に寝転びながら歌い、そしてクールダウン。ステージのへりに腰掛け、改めてじっくりとMCをする。この日の公演がワールドツアーの最後であることを自ら語り、そしてバンドメンバーを紹介する。どうやら毎回紹介しているわけではなく、この日がラストということで特別にしたようだ。また気になったのが、このときマドンナが着ていたTシャツで、胸元に「JAPANESE DO IT BETTER」と書かれていた。スペシャルなメッセージだったのか、それとも既存のブランドTシャツのものを、単に気に入って着ていただけなのかな。





 『Paradise (Not For Me)』ではインド風シンガーと並び、椅子に腰掛けてデュエットしたマドンナ。そしてまたまた衣装をチェンジして、今度は白のスーツ姿になり、同じスーツを着たダンサーを従えて『Music』を熱唱(この曲だけ口パク説も)。バンドモードから再びダンスモードにシフトし、いよいよ終盤戦に差し掛かる。そしてすぐさまスーツを脱ぎ捨て、白地に紫のラインが入ったレオタード姿になって、今度は『Erotica』~『La Isla Bonita』を。後者は原曲はスローなのだが、この場ではダンスチューンとして機能していた。


 歌い終えるとステージ上に倒れたマドンナだが、ダンサーが白いマントをかぶせると、それを巻いて立ち上がる(ジェームズ・ブラウンのように蘇生?)。マントの内側には赤や青の模様があって、それが一瞬ステージが暗くなったときにきらびやかに光る。光ると言えば、懐かしいファーストアルバムからの『Lucky Star』だ。多数のダンサーがステージで踊り、マドンナ自身も2人のダンサーを従えながら左右の花道を行き来して、いよいよクライマックスが近づいている予感が漂う。





 そして、ついにそのときは来た。まず、2人の男性ダンサーがステージを降り、アリーナ席の通路を走り、いつのまにか用意されていたお立ち台に駆け上がる。隣接する客と適度にハイタッチを交わし、ステージ左右の花道に舞い戻って、しばしそこでブレイクダンス。そうしている間に、ステージには他のダンサーが固まっていて、その中心にいるのがもちろんマドンナだ。薄い紫のレオタード姿になったマドンナは、やがてダンサーを従えながら前方に歩み寄り、そして『Hung Up』を歌い始める。


 中央の花道には、オープニングで登場した巨大ミラーボールが再び降臨し、回転しながら妖しい光を放つ。一方ステージにも複数のミラーボールが吊るされ、場内は更にきらびやかに彩られた。曲が終盤になると、マドンナは「Time goes by so slowly~♪」という一節を、客に歌うように呼びかける。まずアリーナの左に向かい、そして右に。最後にまたステージに舞い戻って、約2時間に渡るライヴを締めくくった。最後に筒状のスクリーンが降りてきて、「Are you confessed?」というメッセージが流れた。








 アンコールこそなかったが、ダンスといい、バンドといい、数々の仕掛けといい、視覚効果といい、発せられるメッセージといい、これら全てがあまりにも計算し尽くされたステージで、圧倒的なライヴだった。私にとって初の生マドンナということもあったのだが、正直言ってこの日会場入りするまで、これほどまでに心が動かされるとは予想できなかった。確かにチケット代は高額だったが、会場に足を運ぶ価値は充分あったと思う。


 マドンナの新作は『Confessions On A Dance Floor』で、このツアーはConfessions Tourと題されていた。大掛かりなセットを組んでスタジアムをダンスフロアとし、その中でマドンナが「告白」したこと。それは、老いや衰えといった、目の前に現実的に立ちふさがる障害と向き合いそして克服し、自分はこれからもポップスターでありトップパフォーマーであり続けるという、決意表明ではなかっただろうか。




(2006.9.22.)




















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