ストレイテナー 2006.5.14:NHKホール
ストレイテナーはこれまでライヴハウスを中心にライヴを行ってきたと思われ、ホール会場しかも3階席まであるNHKホールでというのは、バンドにとって最も大きな会場でのライヴになるのではないだろうか。しかしチケットは発売即完売してしまい、このバンドが去年から引き続き勢いに乗っていること、そして多くのファンがこのバンドを待ち望んでいることが伺える。
定刻よりやや遅れて客電が落ち、SEが流れて、これだけで早くも場内は総立ちになり、熱気は膨れ上がる。そんな中を、メンバー3人がゆっくりと登場。オープニングは『Traveling Gargoyle』で、演奏が始まるのとほぼ同時にステージが照明で明るく照らされ、3人の姿が明らかになる。3人の調子はよさそうだ。そして序盤はほとんど曲間を空けることなく、『White Room Black Star』『戦士の屍のマーチ』『Reminder』『The Remains』が次々に連射される。
ステージは、後方に電飾の塔があり、またスポットライトが閃光している。見た目はシンプルなセットではあるが、これでもふだんライヴハウスでライヴをやっているバンドにとっては、結構な装飾のはずだ。機材は中心部に凝縮され、ドラムセットのナカヤマの手前右にホリエ、左に日向が陣取り、広いステージを狭く使っている。3人ともラフな格好で、気負わず等身大の自分たちでいようというさまが伺える。
『Play The Star Guitar』で、場内のテンションが更に一段上がったような気がした。洋楽テイストが色濃く、個人的にも気に入っている曲だ。そして最初のMCタイムになり、ホールでのワンマンは初めてだということが、ホリエから明かされる。やっぱり。しかしホールだろうと、ライヴハウスと変わらず演るので、みんなも楽しんでいってほしいという力強い宣言がされ、場内は沸いた。
バンドは3月に新譜『Dear Deadman』をリリース。いくつかのイベントを経た後に全国ツアーをスタートさせ、この日は2公演目になる。当然ながらライヴはこの新譜からの曲が軸となる。私は昨年リリースの『Title』でこのバンドを知ったのだが、『Title』はハードさとポップさのバランスが絶妙で、こういう音を出せる日本のバンドが出てきたのかと、嬉しくなりファンになった。『Dear Deadman』は『Title』の路線を継承しながらも、更に磨きがかかったように思え、各曲はソリッドに仕上がっているように感じている。それはライヴの場でもあまり印象が変わることはなく、彼らは徹底してソリッドに演奏している。
この日の私の座席は、3階席の上から2列目という、非常に恵まれた(苦笑)、いや、かなりステージから遠いポジションだった。しかし音量が物足りないと感じることもなく、彼らの演奏はひしひしと伝わってきた。アングルとしては上からメンバーを見下ろすという格好になり、細かな動作こそ判別できないが、3人の姿そのものは手に取るようにわかった。マイクスタンドの前に立って、ギターを弾きながら熱唱するホリエ。時折ステージ前方ににじり寄るなど、結構自由に弾きまくっている日向。そして、的確にリズムを刻むナカヤマ。基本的に演奏の力量のある3人なので、安心して見ていられる。ナカヤマは何度かドラムセットの上に仁王立ちになり、客席を伺っていた。
「当初他の曲を演るつもりでずっと練習していたんだけど、急遽変更して」という、ホリエのMCの後で始まったのは『Tender』だ。2年前にシングルカットされ、バンドがその後メジャーシーンに躍進する足掛かりになった曲と思っている。演奏する予定のなかった曲を急遽演奏したということは、上り詰めていくときの最初の気持ちを今一度確認しようという、バンドが自らに課した戒めだろうか。更に『Killer Tune』では後方の電飾が大きく光り、演奏ともシンクロして、視覚的にも聴覚的にも圧巻の演出だ。
終盤は『The Novemberist』や『Melodic Storm』、そして『Magic Words』と、再び新譜『Dear Deadman』ワールドが繰り広げられる。この新譜、よくできてはいるがシンプルに収まりすぎているという気がしていたのだが、この場では重厚さを増しスケール感もたっぷりで、まさに最後の追い込みをするに相応しい仕上がりになっていて、いい意味で裏切られた。そして『Farewell Dear Deadman』を経て、これで終わりかという雰囲気が一瞬漂ったのだが、ここでオーラスとして『Rocksteady』が放たれた。終了後、ナカヤマと日向が「ありがとう!」「最高!」と礼を言い、そして袖の方にはけて行った。後方の電飾は、「STRAIGHTENER」の文字が左から右へと繰り返し流れていた。
ライヴは約1時間半で、アンコールは行われずに客電がついてしまった。しかし客席を離れる人はほとんどおらず、延々と拍手の波がうねり続けた。やがて係員が退出を促し、ライヴ終了を告げる場内アナウンスが入って、それでようやく客は動き出した。アンコールがないことは、初日の模様をネットで調べて知っていたので、特に意外ではなかった。むしろこの拍手の渦が、ライヴ終了の余韻を心地よくしてくれて、これはこれでよかったなと感じた。
バンドはこれから全国を廻り、そのツアーは7月まで続く。その後は各地で行われるフェスティバルへの参戦が逐次発表になっていて、そこでバンドは新たにファンを獲得するものと思われる。個人的には、フジロックフェスティバルへの参戦が決まったのが嬉しい。バンドがフジに参戦するのは今年が初めてだが、どうやらホリエは客としてここ数年苗場を訪れていたようで、とすればフジの素晴らしさは既に知っているはず。そのフジの舞台において、彼らがどんなライヴをしてくれるかが、今から楽しみだ。
(2006.5.17.)