Manic Street Preachers 2005.2.13:Zepp Tokyo

グレイテストヒッツツアーを観たときには、この後バンドは解散してしまうんじゃという心配をしたくなるくらい、充実したライヴをしてくれたマニックス。実際解散の噂はあったようだが、それから2年が経ち、まずは洗練されたイメージが色濃い新作をリリース。そして再来日も決定し、2年ぶりに日本の地を踏んでくれた。


 さてライヴだが、まずはオープニングアクト。デトロイト7という日本のバンドだ。3ピースであり、ヴォーカルとギターを担うのはなんと女性。どうしてもこの人に注目してしまいがちになったが、そのヴォーカルは単調で、表現力に欠けていると感じた。バンドとして演奏力は申し分なし、音もガレージロックのたたずまいで好感が持てただけに、少し残念。彼らは過去にもリーフやBRMCなどのオープニングアクトを務めた経験があって、現在はワンマンのツアー中のようだが、この先頭角を現すことができるだろうか。





 セットチェンジには15分ほど費やされ、花がデコレーションされたマイクスタンドが出てきたところで、場内からは拍手が沸いた。そして場内が暗転すると割れんばかりの歓声が起こり、その中をマニックス登場。オープニングは、新譜のトップでもある『1985』。ジェームスの声量が予想を遥かに超えて大きく、歌い出した瞬間にオーディエンスをぐっと引き込んだ感がある。いいライヴになるなという予感がする。


 ステージは、正面にジェームス。黒を基調としたシンプルな格好で、思ったほど太ってはいなかった(笑)。向かって右にはサングラスをかけた大柄のニッキー。ショーンはジェームスの真後ろのドラムセットの中にいて、どうやら長髪のようだ。サポートは、向かって左にいるキーボードの人のみ。ギタリストをサポートとして入れたという話をネットのニュースで見かけていたのだが、その人はいなかった。つまりは、今回もジェームスがひとりでギターを頑張ることになる。





 サード『The Holy Bible』からの『Faster』は原曲そのままに切れ味鋭く、そして5枚目からの『If You Tolerate This Your Children Will Be Next』では、ジェームスの声量の大きさとパワーを改めて実感する。ニッキーは飛び跳ねたり体を前後左右に揺さぶったりということを頻繁にしていて、この人こんなに動く人だったかな?と再認識。ステージには装飾は何もなく、強いて言えばライティングが効果的に機能しているくらいか。そして、オーディエンスの並々ならぬ熱気が、バンドを後押しする。


 『Empty Souls』では、イントロや間奏のときにサポートの人による鍵盤を叩く音が心地よく響いた。冒頭にも書いたように、新譜『Lifeblood』には洗練されたイメージを感じているのだが、それを象徴するような音色だ。そしてジェームスはギターをフライングVに交換し、ニッキーが少ししゃべった後で、近年のツアーではラストとして演奏されてきた『You Love Us』を、早くも放ってしまった。まだ序盤のはずだが、もうライヴが終わってしまうのではないかと思わされるくらい、尋常ではない空気が漂い、フロアの方は大騒ぎになっている。ここで場内は、最初の沸点に達した。


 マニックスのライヴはいつもそうなのだが、選曲が新譜に偏重したりグレイテストヒッツ的になるということはなく、新旧織り交ぜた中での現時点での集大成を披露してくれる。リッチー・エドワースに捧げると言ってから始まった『Yes』。新譜からの『The Love Of Richard Nixon』に、今やライヴでは欠かせない曲になった感がある『Kevin Carter』や『La Tristesse Durera』。珍しいところでは(もしかして今回のツアーでは必須か)、『The Holy Bible』から『Die In The Summertime』なんて曲も。ジェームスは、声量は凄いが高い音になると喉が辛そうだった。がしかし、そんなことなどちっぽけに思えるほどに、1曲毎にライヴは熱を帯びてくる。「Ahhhhhhh~Ahhhhhhh♪」という歌い出しの『The Masses Against The Classes』が、2度目の沸点になった。





 ジェームスひとりだけのアコースティックコーナーになって、曲は珍しい『Archives Of Pain』。たたずまいこそ地味だが、個人的に意外だったのと、今回はサード『The Holy Bible』からの曲が結構演奏されていることに気付く(年末に10周年アニヴァーサリーエディションがリリースされたからかな)。続くは『Small Black Flowers That Grow In The Sky』で、こちらはこのコーナーではお馴染みといったところだ。


 再びエレクトリックとなって(ニッキーは上着を着替え、帽子をかぶって出てきた)、ジェームスの声量が如何なく発揮される『You Stole The Sun From My Heart』に、新譜からの『I Live To Fall Asleep』。そして次だが、ジェームスはワンコーラスほど歌った後、何を思ったかガンズの『Sweet Child O'Mine』のイントロのリフを弾き出す。実はこれは布石で、続いて『Motown Junk』となるのだ。場内はまたしても尋常ではない騒ぎになる。更には『Motorcycle Emptinss』で、サビに差し掛かると大合唱になり、オーディエンスは宙に向かって腕を伸ばす。もう何度目かわからないが、とにかく沸点だ。それにしても、初期の曲はライヴでは圧倒的に強いな。





 尋常ならない空気が持続したまま、とうとうラストの『A Design For Life』へ。ここでジェームスはマイクスタンドを持って移動し、ステージ左端で歌う。そこは改めて言うまでもなく、本来ならリッチーが立ってギターを弾いていたであろうポジションだ。リッチーが失踪してもう10年になるが、未だにバンドにおけるリッチーの存在感は大きく、また3人になったバンドの、リッチーへの想いが薄れていないことが伺える。今後リッチーが生還してバンドに返り咲く、ということはおよそ考えにくいのだが、それでも3人はリッチーの居場所をバンドの中に確保しているのだろう。


 実は私にとっては、4枚目の『Everything Must Go』がマニックスの全アルバムの中で最も理解しにくい作品だった。ロック色は薄く、といってポップでもない、グレーな音楽性。この作品でマニックスは英国の国民的バンドにのし上がるのだが、何度聴いてもそれがピンと来なかった。英国人の感性はそんなところにあるのかと、考えを整理するのが精一杯だった。それがだ。この場において、この曲『A Design For Life』は見事なまでにアンセムとして響き渡り、またもや大合唱になっている。ライヴハウス規模の場内が、まるで何万人もいる会場であるかのような、錯覚に陥る。この場に居合わせているだけで、全身総毛立つような瞬間が続く。ジェームスがサビを力強く熱唱するその姿が、愛しく思えてくる。そしてラストのショーンの乾いたドラムが、曲の幕を引いた。





 ライヴに外れなし。これは何度か彼らを観続けてきた上でたどり着いた、私のマニックスに対する評価だ。凝った演出や豪華なステージセットがあるわけでもなく、そして絶対にアンコールはやらない。彼らのライヴにおける「武器」はそれこそ音楽そのものだけなのだが、ジェームスの声は私たちの心を震わせるし、3人の一挙手一投足からは目が離せない。今の彼らには初期のようなスキャンダラスな面はないが、逆に言えばもうそういったことは必要がないのだ。




(2005.2.19.)
















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