Blues Explosion/The Kills 2004.12.9:横浜Blitz

会場の横浜Blitzは、先月横浜みなとみらい地区にオープンしたばかり。さすがに外装も内装もきれいで、洗練されている。キャパシティとしては、赤坂Blitzよりも少し小さめのように感じ、むしろShibuya-AXと同じくらいだろうか。しかしウイークデーの公演ということもあるのか、場内はガラガラだった。1階フロアは、後方には人を入れないようにロープが張られ、また私のいる2階席も、半分は空席だった。2階からフロアを見ていて、ラッセル・シミンズがフロア内を歩いて行くのが見えたのだが、誰も気付いていなかった。開演直前になっても、まるで緊迫感がない。





 そんな中時間になり、まずはオープニングアクト。男女2人組のザ・キルズで、個人的には観るのは去年のサマーソニック以来となる。最小に近い編成でありながら、いい雰囲気を持ったユニットで、彼らがエントリーされていたことも、今回チケットを取った理由のひとつだ。ステージ上には既にジョンスペの機材がセッティングされていて、2人はその前のマイクスタンドの前に立って、演奏を始める。


 男性ギタリストのホテルがリズムマシーンを操り、それが合図になって曲が始まる。女性ヴォーカルのヴィヴィは、マイクスタンドを軸にするようにして右に左にと動き回りながら歌う。長髪に顔面が覆われてしまっていて、表情がまるでわからない。一方のホテルは、なぜかロボットチックのぎこちない動きをしながら、ギターを弾いている。ステージは、最初のうちは暗かったのだが、演奏に合わせるようにして時に後方のスポットライトが点灯したり、明るくなってステージ全体の様子がわかったりするようになる。


 さて音の方だが、メリハリの効いたビートに乾いたギターの音色とヴィヴィのシャウトが絡む形で、サマソニで観たときとは幾分様相が違う。このユニットの持ち味は、ちょっとけだるい独特の雰囲気だと思うのだが、サマソニではその雰囲気を前面に押し出すような演奏だったはずだ。今回はより生々しく、そしてけだるさの中にも要所でシャープさが見られ、カッコよさが格段に増している。来年2月にセカンドアルバムをリリース予定とあって、恐らくそこからの曲が多かったのかな。曲によってはヴィヴィもギターを弾き、2人で弦をつき合わせてノイズを出したりも。ラストではヴィヴィがステージに跪いてのけぞり、ホテルがギターで攻めるようなエロな仕草をし、その後ギターをハウリングさせっぱなしにして、2人で礼をして去って行った。





 BGMで同じ曲ばかりがリプレイされる中を、セットチェンジが行われる。ドラムセットには、新譜『Damage』と同じようにバンド名が書かれている。やがて後方には、同じ字体で書かれたボード(旗だったかな?)が、するすると上から降りてきた。なので、これが現在のロゴというか、トレードマークなのかな。今まではジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンと名乗っていたのだが、今回ブルース・エクスプロージョンと短縮されている(レポート上は、「ジョンスペ」で書かせてもらう)。


 やがて客電が落ちて、メンバーがゆっくりと登場。オープニングは『Sweet N Sour』で、ジョンは早速歌う合間に足を屈伸させて膝をつくという、お馴染みのアクションを何度も繰り返す。ジュダは対照的にさりげなく小刻みに体を揺らしながらギターを弾き、ラッセルは派手なアクションはないながらも、そのビートは重くそして鋭い。ジュダとラッセルは黒っぽい普段着のような地味な格好で、ジョンはシルバーのスーツにオレンジのシャツという、派手ないでたちだ。機材はステージ中央にぎゅっと凝縮され、そのせいかステージがやたら広く感じる。そして、こうしたこれらのことは「いつものこと」であり、このいい意味での変わらなさ加減に、見ていて安心させられる。





 3曲目辺りで、早くも新譜のタイトル曲である『Damage』が。ミディアムテンポの中を重いビートが刻まれ、ジョンとジュダが、「Damage!」という掛け声を連呼。やがてテンポは少しずつ早くなり、ラッセルのドラミングも激しくなる。以降も選曲は『Hot Gossip』『Help These Blues』『Fed Up And Low Down』など『Damage』からが大半となって、これはジョンスペのライヴとしては珍しいことのように思えた。私が彼らのライヴを観るのは、今回が5回目なのだが、それまでは特に新譜にこだわることなく、常にその時点でのベストを披露するという姿勢があったような気がしたのだ。


 しかし、ほとんど曲間を切らさず、マシンガン連射のように次から次へと演奏を続け、観る者を引き込む技量の凄さは相変わらずだ。観ている方は徐々に訳がわからなくなる感覚に陥り、そしてそれは、きっとバンドにとっても同じだと思う。残念ながらこの日は客が少なく、オーディエンスの側からのエネルギーが希薄だった。なのに手を抜くこともなく、よく必死でやってくれてるなと、なんだか嬉しくなってきた。ジョンはギターを交換することなく、ジュダが交換したのも確か一度だけ。それでほとんど弾きっぱなしなのだから、よく弦が切れずにもつなと思うし、指の方もおかしくならないなと感心する。ドラムセットの脇には例によってテルミンがあり、終盤でジョンは手をかざして電子音を発していた。本編ラスト、珍しくぴたっと演奏を終えて一瞬静寂が訪れ、ジョンはきちっと礼をしてステージを後に。正直この終わり方には、ちょっと面食らった。





 アンコールは『She Said』でスタート。個人的には前作『Plastic Fang』が快心の出来だったので、そこからの曲がライヴのオープニングやアンコールの幕開けに起用されていることを嬉しく思った。思うに、今回バンド名が短縮されたのは、前作で思い切りやりたい放題やって、何かが吹っ切れたのではないだろうか。彼らの本質は変わってはいないのだが、それでもやはり前作はバンドにとっての区切りの作品になり、そして『Damage』は次のステージに向けての一歩になっているのだと思う(今回日本のレコード会社も変わっているので、レーベル移籍とか、そうしたこともあったのかもしれない)。


 本編が『Damage』中心ならば、アンコールでは『Blues X Man』や『Wail』といった、お馴染みの曲が連発。こういう選曲は多くのバンドにとっては別に驚くべきことではないが、ジョンスペに限ってはやはり違和感がある。だけどそれは、決して否定的な違和感ではなくて、このバンドが従来持ち合わせていたライヴ職人ぶりに、スタジオレコーディングで得た手ごたえが加わったという、前向きなものだ。ラストでジョンは絶叫しながらジュダとラッセルを紹介し、するとまたもぴたっと演奏を終えてきちっと礼をし、そしてステージを後にした。





 バンドのパフォーマンスそのものが「いつものように」よかっただけに、今回集客が鈍かったのはほんとうに残念だ。土日ならまだしも、ウイークデーで場所が横浜となれば、多くのファンは翌週の東京公演の方を選んでしまうのかな。もともとこのバンドは毎年のように来日しているし、今年も既に7月に来日していて、確かに「またあ」という感は拭えない。しかしこの日のライヴでは、彼らがいい意味で以前と同じでありながら、前のめりであろうとするさまが確認できて、私はよかったと思う。




(2004.12.11.)
















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