Kasabian 2004.11.6:Shibuya-AX

 アルバムがリリースされてもいないタイミングでサマーソニックに出演したにもかかわらず、入場規制騒ぎにまでなったというカサビアン。毎年出てくるイキのいいニューカマーの中でも頭ひとつ抜け出した感があり、まさに今観なくてはならないバンドだろう。ふだんニューカマーに疎い私でさえ、再来日となる単独公演に、こうして足を運んでしまった。





 定刻通りに客電が落ちるが、まずはオープニングアクトで、グレート・アドベンチャーという日本の3ピースバンドだ。3人とも黒いヘルメットをかぶり、サングラスをかけて登場。ドラマーは重いビートを刻み、ベーシストはいきなり弾け気味で、ステージ左端の機材の上によじ登って手拍子を煽る。そしてもうひとりは、テルミンで浮遊感のある電子音を出しながら、ステージ上を動き回っている。あれ、このバンドギターレス?と思ったら、テルミンを手にしていた兄ちゃんが、やがてギターを弾き始めた。


 こうして、ジャムセッション風の演奏が少し続く。インストバンドなのかなと思ったら、やがてギターの兄ちゃんが歌い始めた。どうやら英語のようなのだが、まるで聞き取れない。う~む。演奏力はなかなかのものと思ったし、バンドとしてのコンビネーションもいい。ビート一辺倒ではなく、プログラミングも駆使していて、音の幅もある。ベースの暴れっぷりも相変わらずで好感が持てる。が、ヴォーカルが不明瞭というか、インパクトに欠けるというか、何を言っているのかさっぱりわからないというか。ギターの兄ちゃんはギターやプログラミングの方に徹して、ヴォーカリストは別にちゃんと用意した方がいいんじゃないかな、なんて思った。





 この後セットチェンジとなり、グレート・アドベンチャーのメンバーも自ら機材を片付ける。ステージ後方には、今やバンドのトレードマークとなったテロリストのイラストが掲げられる。この間、フロアにはどんどん人が集まってきて、特に出口付近は人が溢れ、ドアが閉められない状態に。カサビアンTシャツを着た人も多い。この日の公演は確か完売のはずで、この後登場するバンドに対する期待感の大きさが伺える。こうして約20分後、ついにカサビアンが登場した。


 客電が落ちた瞬間に場内の歓声のヴォリュームが上がり、そしてオーディエンスは一斉にステージ前方に押し寄せる。長いイントロの後、やっとヴォーカリストがステージに登場し、曲が始まった。メンバーのポジションは、ステージ向かってやや右にヴォーカル。その左隣にはギターで、この人は曲によりキーボードを弾き、コーラスやバックヴォーカル、中間部でのヴォーカルも担当していて、どうやらこの2人が軸になっているようだ。右端にはベース、左端にはもうひとりのギターで、この2人はまるで地味。そして後方にはドラマーで、この人はメンバーではなくサポートらしいが、そのビートは存在感たっぷりだ。





 CDで聴いたときは、よくまとまっているというか、整いすぎの感があった。プライマル・スクリームっぽく思えるのは、キーボードやシンセの音が似ているからだと思うのだが、ライヴの場ではこれらはあまり前面に出ることはなく、むしろ生楽器の演奏のぶつかり合いにより、生々しくそしてダンサブルなたたずまいになっている。このダンスグルーヴは、プライマルよりもむしろストーン・ローゼズの方を思い起こさせ、実際ヴォーカルの右腕を振り上げるアクションなどは、イアン・ブラウンを彷彿とさせる。ステージ後方からはヴァリライトが閃光し、それがメンバーを背中越しに照らすのだが、これも功を奏している。


 とにかく、いい意味でCDと異なっていることが個人的にはとても嬉しく、こりゃサマソニでもすごいことになったはずだわなと、納得させられた。しかし、フェスティバルはふだんのライヴよりも雰囲気が独特であり、アーティスト側が一定以上のライヴをしさえすれば、極上の空間に生まれ変わってしまうことが多い。一方、単独公演では自分たちのファンが大半を占めるという利点はあるものの、純粋にバンドの力量が試される場にもなる。そしてこのダンス・グルーヴは、自分たちの力量のみで、場内を極上空間に変えることに成功していることの証なのだ。





 ほとんどの曲がテンポよく進み、また新曲も披露。場内のテンションも下がることがなく、2階席のオーデイエンスまで立って踊っていたのにはびっくり。そのまま本編が終了し、勢いが落ちないままにアンコールに突入。今度はヴォーカルとギターの位置が入れ替わり、ギターの人がリードヴォーカルを担当。こんな具合で、曲毎に担当が変わったりはするが、かといって雰囲気が変わることはなく、グルーヴは一貫している。この後はインストナンバーで演奏力の高さをみせつけ、ラストはやはり『Club Foot』!アルバムの冒頭を飾っていて、現時点ではバンドの顔的な曲なのだが、ここまで引っ張られたという飢餓感もあったのか、場内のテンションもここで最高潮に達した。





 私がニューカマーの単独公演に足を運ぶことがほとんどないのは、話題だけが先行しているアーティストが、フタを開けてみたら実はしょぼかった、というように裏切られるのが怖いからだ。であればもう少し時間をかけて見極めて、それからでも遅くはないでしょという気持ちがある。のだが、今回のカサビアンについては、まさに足を運んで大正解だった。新人バンドらしいイキのよさはもちろんだが、逆に新人とは思えない風格というか独自の雰囲気があったし、それがオーディエンスと呼応する形になったライヴだと思う。今の彼らに足りないのは、キャリアだけではないだろうか。





(2004.11.8.)



















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