Eagles 2004.10.30:東京ドーム
実に9年ぶりとなった今回の来日公演は、「Farewell Ι Tour」と題されていた。パンフレットによると、解散ツアーを銘打ちながら何度もツアーを重ねているアーティストを皮肉ったつもりが、自分たちの最後のツアーのタイトルになってしまった、とのこと。なんじゃそりゃという言い分だが、とにかくこの日の公演は売り切れだそうで、2階席までぎっしりと埋まっている。そんな私の座席は幸運にもアリーナAブロックで、ステージに向かってやや左の前から4列目という好ポジションだ。
予定時間を5分ほど過ぎたところで、客電が落ちた。暗いステージの中をメンバーが入ってきて、それぞれの持ち場につくのが見える。やがてステージが明るくなり、『The Long Run』でスタート。ドン・ヘンリーがステージ中央に立って歌う。左にはグレン・フライとティモシー・シュミット、右にはジョー・ウォルシュとサポートのギタリストがいて、これがフロントライン。ドラムはパーカッションの人が代わりに叩き、右後方にはサックスやトロンボーンといった4人組のホーンセクションがいた(曲によっては、ピアノのサポートも入った)。
続いては、グレン・フライがMCの後に歌い始めた『New Kid In Town』。このときはドン・ヘンリーがドラムを叩き、サポートの人はパーカッションに。『Wasted Time』ではまたまたドン・ヘンリーがフロントに出てきて歌い、といったふうに、曲毎にメンバーの配置や担当が目まぐるしく変わる。ステージには特に凝った装飾はなく、ただ後方の人にも見やすいように、ステージの上の方に横長のスクリーン、及びステージ外側の両サイドにスクリーンが設置。また後方には大きさの異なるモニターが複数配置され、スクリーンセーバーのような映像が流れていた。『Wasted Time』の後にはこの曲のリプライズがBGMとして流れ、スクリーンには若い頃のメンバーが映し出されていた。
ティモシー・B・シュミットがリードヴォーカルの『I Can't Tell You Why』は相変わらず瑞々しく、『One Of These Nights』ではドン・ヘンリーがドラムを叩きながら歌った。そして尋常ではなかったのが、観客のリアクションだ。私個人は9年前の公演も2回観ていることもあり、わりかし観察モードだったのだが、場内は1曲毎に大きなどよめきが起こり、それがドーム名物の残響音に乗っかり、引いては返す波のように響いた。来日が9年ぶりということは、今回初めてイーグルスを観る人も多いのだろうか(私も9年前のときは舞い上がっていたが)。
グレン・フライがリード・ヴォーカルの『Lyin' Eyes』、ドン・ヘンリーのソロ作である『The Boys Of Summer』。そして、ジョー・ウォルシュがリード・ヴォーカルの『In The City』へと続く。グレン・フライはMCも多く、自らはあまり出すぎることがない。この人はバンドのまとめ役的な存在なのだろうか。一方のドン・ヘンリーだが、自分が歌うときに前ににじり寄るさまは、周囲にお膳立てしてもらったあげくにいいとこ取りするように見えなくもなかった。体型はすっかりご立派になり、そして声の調子も今ひとつだった気がする。もともとこの人の声はしわがれていて、それが味になっているのだが、『The Boys Of Summer』のときはかなり微妙だった。ジョー・ウォルシュはいたってマイペースで、イーグルス加入前から淡々とバンドやソロ活動を続け、解散後も淡々とソロ活動に戻って行った、この人の生きざまがそのまま出ているように見えた。
こうして1時間ほどの時間があっという間に過ぎ去り、15分ほどの休憩となった。そして第2部はアコースティックセットでスタート。初期の名曲『Tequla Sunrise』で幕を開け、そしてティモシー・B・シュミットの『Love Will Keep Us Alive』。94年のMTVアンプラグドを思わせるような曲配置だな。ここでもやはりよくしゃべっていたのはグレン・フライで、この日はティモシーの誕生日だったのだとか。一見童顔だが、この人も50代のはず。しかし体型はスリムなままだわ、足は細いわ、そしてハイトーンヴォイスはまるで錆付いていない。
珍しいドン・ヘンリーのMCでは、3年前の9.11のことに少し触れ、そしてもっかの新曲である『Hole In The World』へ。幸せへの祈りを感じさせる、荘厳な面持ちの曲だ。そして、恐らくは今回のツアーの目玉のひとつであろう、『Take It To The Limit』。当時大ヒットした曲だが、ヴォーカルはランディ・マイズナーのハイトーンヴォイスだった。ここではグレン・フライが代わりに歌い、無難な仕上がりになっていた。
さて、ここからが怒涛のソロ合戦。まずはグレン・フライの『You Belong To The City』で、印象的なトランペットから入り、そしてグレンはキーボードを弾きながら歌う。サビではティモシー・B・シュミットとのツインヴォーカルになっていた。ドン・ヘンリーは壮大な雰囲気を醸し出す『Sunset Grill』と、ソロになって最初のヒット曲『Dirty Laundry』を。意外だったのは、ジョー・ウォルシュがなんと3曲も歌ったこと。『Walk Away』『Life's Been Good』『Funk #49』で、間奏では自身のスライドギターも披露していた。また、いずれもサポートメンバーの妙技が冴え渡っていて、セッション風の空気も漂った。
イーグルスというバンドにとっては、ソロ曲合戦自体は特に珍しいことではないようだ。というのは、82年にリリースされている『Eagles Live』の中に、既にジョー・ウォルシュのソロが収録されていて、つまりは再結成ツアーならではの試みというわけではないからである。とはいえ、ソロの曲が歌われているとき、他のメンバーは脇や後方で演奏しながら何を思うのだろう、なんて考えてしまう。特に自身のソロを1曲も歌わせてもらっていない、ティモシー・B・シュミットなどは。そこにはメンバー間の厳密な力関係が存在しているのだろうか。それともそんな気難しい雰囲気はなくて、実は皆楽しんでいるのだろうか。
『Heartache Tonight』でギアチェンジし、本編ラストは『Life In The Fast Lane』。この後少しの間があくが、もちろんメンバーは再登場だ。まずはトランペットのイントロが少しあって、見るとサポートのギタリストがダブルネックのギターを抱えている。来るな、と感じた次の瞬間、ジャーンという永遠不滅のイントロが響き、場内の歓声も最高潮に達した。
もちろん、『Hotel Calfornia』だ。ドン・ヘンリーはドラムセットの中に納まったまま歌う。この頃になると、序盤で気になっていた声のかすれ具合もなくなり、しわがれ声がそのまま映えている。しかし私の耳に焼きついたのは、この人の声よりもギターのフレーズだった。そのフレーズは、本来ならドン・フェルダーによって発せられるはずなのだが、この人は現在イーグルスのメンバーではなく、よってここにもいない。それを担っているのはサポートのギタリストで、実はこの人はこの曲のみならずここまで印象的なフレーズを一手に引き受けていた。『Hotel Calfornia』においても、後半部のジョー・ウォルシュとのギター合戦を見事にこなしていて、見た目の印象は薄いが音での貢献度は絶大であることが、明確になってしまった。そしてそれは、ドン・フェルダーの不在を意味しているのだ。
2度目のアンコールは、またもソロ合戦に。ジョー・ウォルシュの『Rocky Mountain Way』で、ジョーはこの曲のためだけにヴォコーダーを駆使。続くはドン・ヘンリーによる『All She Wants To Do Is Dance』で、このときグレン・フライは、序盤ステージ右後方でダンスし(笑)、途中から慌ててキーボードに陣取っていた。
そして3度目のアンコール。とても古い曲を、というグレン・フライの紹介によって始まったのは、『Take It Easy』だ。初期イーグルスの代表曲であり、カントリーロックの代名詞的な曲だ。グレン・フライとジャクソン・ブラウンとの共作であり、私はジャクソン・ブラウンのバージョンも何度か体験している。ジャクソンのライヴはたいがいホール会場だが、ドーム球場でのフルバンドでの『Take It Easy』というのも、なかなか乙なものだ。
『Hotel Calfornia』に『Take It Easy』と、決定的な曲がアンコールになって披露され、それらを受けての幕引きは、これまた名曲の『Desperado』。ピアノのイントロが響いたときはどよめきが起こったが、その後の数秒間、場内はしぃんと静まり返る。5万人のオーディエンスが、ドン・ヘンリーが歌い出すその瞬間を、待っているのだ。そして哀愁を帯びたメロディと歌が展開されていくのだが、多くのアーティストにカヴァーされているとか(最近は平井堅のバージョンがCMで流れている)、実はシングルカットされていないとか、いろいろ考えるだけでも面白い。そして曲が終わり、水を打ったように静かだった場内は、拍手と歓声に包まれた。
イーグルスのアメリカでの存在感の大きさは、私たちの想像をはるかに超えているはずだ。というのは、全米でこんにちまで最も売れ続けているアルバムは、マイケル・ジャクソンの『Thriller』ではなく、イーグルスの『Their Greatest Hits (1971-1975)』なのだから。しかしここ日本でも、イーグルスの曲は多くの人に親しまれ、ライヴ会場には多くの人が集まっている。今回のツアーは解散ツアーと銘打たれている一方で、バンドは新作の制作に取り掛かっているという話も聞く。とすれば、何年か先には「Farewell Π Tour」とでも銘打って、また世界を回っているかもしれない。
(2004.11.4.)
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