赤い月に吠える夜 2004.10.7:Shibuya-AX
In The City Tokyoという、毎年開催されているイベントがあって、今年は渋谷周辺の複数のコンサート会場で、10月1日から10日までの期間中、ライヴや映画上映、セミナーなどが行われた。その一環である、「赤い月に吠える夜」と題されたイベントに、縁あって足を運ぶことになった。
開演時間は午後6時半で、ウイークデーのライヴとしてはちと早め。そしてほぼ時間通りに客電が落ちると、ギター1本を手にした男が登場。ヒートウェイヴというバンドの山口洋で、アコースティックギターを弾きながら何曲か歌う。私にとっては全く予備知識のない人なのだが、やや太めの声には味わいを感じた。パンフレットに明記されているのはこの後登場する2組だけで、「and more...」がすなわちこの人だった。本人もMCでこれをネタにし、「どうも、アンドモアです♪」と挨拶。この人の持ち時間は20分という短い時間で、気取らずリラックスしたパフォーマンスに、場内も和やかな雰囲気に包まれた。
続くは、Go! Go! 7188で、私にとってはこのバンド名以外に予備知識はない。3ピースなのだが、ギター&ヴォーカル、及びベース&バックヴォーカルが女性だ。どうやらベースの人がリーダーらしく、たまに「ありがとうっ」と短くMC。一方のヴォーカルの人は、歌以外はひと言も発しなかった。3ピースということもあってか、ビート重視の音になっていて、時にはガレージロックにもなり、また曲によっては合間にレトロさが漂うフレーズがちらつく。エステのCMで流れていた曲を3曲目くらいに演っていた。
あまり間を空けずに、次々に曲を演奏する彼ら。固定ファンも決して少なくないらしく、フロア前方は腕を突き上げたり軽いモッシュ状態だったりという具合。またドラムの男のMCによると、近く4枚目のアルバムがリリースされるそうで、そこそこのキャリアのある人たちのようだ。そしてライヴ以上にびっくりしたのが、暮れに武道館で単独公演を行うこと(入場時にもらったチラシの中に入っていた)。AXくらいの大きさでやるならまだ納得できる演奏だったが、この人たちほんとに武道館でやる(やれる)のかな?と、ちょっと不安になった。余計なお世話か(苦笑)。
この後約20分のセットチェンジを経て、この日のトリであり私の目当ての人でもあった、アーニー・ディフランコが登場。ステージ上にはほとんど機材がなくなり、ウッドベースの男性を従える形で、アーニーがアコースティックギターをかきならしながら熱唱する。演奏者もたった2人と少なければ、音の方もシンプル。ではあるが、この人は自分だけの雰囲気を持っている。そしてこの雰囲気が、とてもカッコいい。
1曲終わる毎にギターを交換し、少しMCをしてまた演奏、というスタイル。私は過去に1度だけこの人のライヴを観たことがあって、それは2001年のフジロックだったのだが、このときは場内のテンションが異様なまでに高かった。それからすると、この日のライヴは、じっくりめというか、おとなしめというか。ただフジは舞台そのものが異空間だし、オーディエンスのテンションは概して高めだ。なので、アーティスト側が平均点以上のライヴをすれば、そこでもう化学反応が発生し、非日常の空間と時間を体験できる。それを知っている身としてはやや物足りない気もするのだが、むしろ彼女の普段のライヴというのは、こんなたたずまいなのかなとも思う。
しかし、静かだと感じていたのは私だけではなく、なんとアーニー本人もそう思っていたらしい。終盤のMCで、アメリカでのライヴは大騒ぎになるわ~といったようなことを言っていて、ああやっぱりそうだったのかと思ってしまった。でもね、英語圏ではないこの国で、英語で客に話しかけたってそうそうコミュニケーションは成立しない。曲も必ずしもアグレッシヴなものばかりではなく、しっとりめの曲だって少なくはなかった。そして何より決定的だったのは、この日の公演は彼女の単独ではなく、複数のアーティストが集うイベントであったこと。Go! Go!目当てのファンも多く、アーニーのライヴ中に帰ってしまう人も結構いた。静かになってしまった原因は、ひとつではないのだ。
それでもラストはきっちりと締め、アンコールでも2曲ほど披露。小柄な彼女にとって、決して軽量ではないであろうアコギを抱え、激しくかきならしながら小刻みに上体を揺らして歌う。その歌も時にはマシンガンラップのような早口になることがあり、この独自のたたずまいはやはり素晴らしい。こうして彼女のライヴも終了し、約3時間に渡ったイベントも無事に幕を閉じた。
In The City TokyoのテーマはJスタンダードだそうで、実際他の日及び他の公演地では、日本人アーティストの出演がほとんどだったようだ。今回こうして彼女のライヴを観れたことは嬉しいは嬉しいのだが、外国人であるということだけでなく、このイベントに彼女を招いたことの意図が、正直よくわからない。またアーティストの組み合わせも、果たして適切だったのか(Go! Go!側は彼女と同じステージに立ちたかったみたいだが)。イベント開催のいい部分とそうでない部分の、両方について考えさせられる結果になった。
(2004.10.12.)