Crossover Japan'04 2004.5.30. 代々木競技場

日本のフュージョンバンドが集うイベント、クロスオーバージャパン。開催は昨年からで、そのときは会場はよみうりランドだったそうだ。2回目となる今回は代々木競技場になり、5月とは思えない陽気の中を、薄暗い屋内で長時間過ごすことに(苦笑)。では今回、なぜに私がこのようなイベントを観に足を運んだのかというと、それはあるひと組のバンドが目当てだったのと、チケット代が半額になるというサービスがあったからだ。


 予定時間(午後1時半!)を少し過ぎたところで場内が暗転し、進行を務める人がイベントの概略を説明。昨年は、高中正義がトリを飾ったそうだ。今回も7組がエントリーされているが、出演順もタイムテーブルも事前に明らかにはされず、そのときになるまでどのバンドが出てくるのかわからないという状態(もしかしたら、パンフレットには記されていたのかもしれないけど)。そして進行担当は出演する全ミュージシャンの名前をひとりずつ読み上げ、その名前がステージ両端のスクリーンにもクローズアップされる。呼ばれた人は走ってステージに登場し、自分の持ち場につく。この手法は、全てのバンドのスタート時に取られた。





ディメンション

 ギター、サックス、キーボード、ベース、ドラムの5人編成。オリジナルメンバーは3人で、ベースとドラムはサポートのようだ。ゴツゴツした硬質なサウンドで、ギターとサックスが前面に出ている。この2人は、それぞれステージを右に左にと動き回っていた。ドラムが少し強すぎた気がしていて、バンドのコンビネーションとしては今ひとつ。



松原正樹 & 今剛

 4人のメンバーをバックにし、松原と今の2人のギタリストが牽引。後半は、それぞれの曲を交互に演奏。自分の曲のときはギターを好きなように唸らせ、相手のときは地味に引き立て役を務めていたように見えた。せっかく共演するのだから、ギターバトルを繰り広げてくれてもよかったのでは(ムリかな)?



プリズム

 このプリズムこそ、私がこのイベントで最も観たかったバンドだ。75年、四人囃子を脱退した森園勝敏ら4人で結成され、エリック・クラプトンのオープニングアクトを務めたこともあるという。その後メンバーチェンジを繰り返しながらも、現在も活動中。この日はまずは現メンバーの4人で近年の曲を1曲披露し、次いで森園を含むかつて在籍していたメンバー4人が合流。90's初頭の、8人イエスのような状態になる。


 軸になっているのは和田アキラのギターで、森園のはすっかり脇役に徹している。というか、もともとこのバンドではこういう役回りなのだろうか。演奏する人数は多いが、バンドとしてのコンビネーションも好調で、ここがこのイベントの前半のハイライトだなと痛感。ちなみにここでの8人中5人は、深町純と高中正義の合間に、アコースティックによる短いセッションをしてくれた。



藤井尚之

 アリーナ席のど真ん中辺りにミニステージ(ローリング・ストーンズのライヴのBステージのイメージ)があって、ココいつかは使われるんじゃないかと思っていたのだが、佐藤竹善のセット準備中に、アナウンスも特になく、いつのまにか演奏が始まっていた。BGMとしてはいい感じの優しい音色で、フロントでサックスを吹いていたのは、帽子を深くかぶった藤井尚之だった。オフィシャルサイトには告知はあったが、この日のオープニングでは紹介されなかったので、シークレット扱いだったのかな。



佐藤竹善

 バンド演奏ではなく、4人のコーラスを従えてのアカペラでのライヴ。このイベントはフュージョン系のバンドの集まりということもあって、他のバンドは全てインスト演奏であり、このときだけがヴォーカルありになった。そして曲はシカゴの『Hard To Say I'm Sorry』、ビリー・ジョエル『Longest Time』、オフコース『生まれ来る子供たちのために』などで、恐らく全てカヴァー。すっかりまったりタイムになっていた。



深町純 & ジャパン・オールスターズ

 ジャパン・オールスターズは5人編成で、その中心に位置するはやはりドラムの村上"ポンタ"秀一。テレビなどでは頻繁に観ているが、実際に生で観るのは初めてだ。この日本のセッション界の大御所が放つリズムを屋台骨にしつつ、管楽器が映え、更に深町のキーボードが絡み合って、圧倒的な音量で攻め立てる。アーティストとしての風格を感じさせるライヴだった。



高中正義 クロスオーバー・ジャム

 トリだとばかり思っていた高中が、よもやの登場。さすがにバンドも豪華で、パーカッションに斉藤ノブ、キーボードには難波弘之、ドラムの則竹裕之は元Tスクエアのメンバーという具合。こうしたメンバーを従えつつ、更に高中のギターは驚異的に映えていた。優しく抱えるようにギターを持ち、のけぞりもしなければ、前かがみになることもない。指さばきも特に鮮やかなようには見えず、つまりは非常に地味なのだ。しかしその音は代々木競技場の屋根を突き破り、天にまで達せんとばかりに唸っている。かと思えば、発売予定の新譜から新曲を少しだけと言い、3曲程度をほんとに1分程度のショートバージョンで披露。緊張感ある演奏の中にも、余裕と遊び心を感じさせてくれる。


 終盤、バンドの演奏が続く中で高中はいったんステージから姿を消し、これで終わりかななんて思ったら、大きなサーフボードを抱えて再登場。真ん中辺りをバスタオルで隠していて、ちらちらと少しずつ見せて行く高中。するとなんと、隠されていた真ん中の部分はくり抜かれていて、そこには弦が張り巡らされていた。つまり、サーフボード型のギターだったのだ。いくら遊び心とはいえ、ここまでやるか、ふつう(笑)。そして、このどでかいギターを難なく弾きながら、ステージを右に左に移動してみせる高中。そのままステージを後にしてしまい、それでもなおギターの音色だけが響いて、残されたバンドもそれに合わすようにして演奏を続けた。



角松敏生

 午後1時半から始まったイベントも、既に8時を過ぎた。そしてラストは角松で、これまたバックが豪華。村上"ポンタ"秀一に、斉藤ノブに、ディメンションの青木智仁に、そしてサックスには、元Tスクエアの本田雅人だ。今までの流れを汲むかのように、角松は一切歌わず、ひたすらギターを弾くのみ。インストオンリーのアルバムも何枚か出しているそうで、またこの日出演した先人たちへのリスペクトの意味も込めている様子だ。


 で、でも・・・。高中を観た後ではパワーダウンの感は拭えず、またMCもやたらに長くて、ダレた雰囲気が漂った(本人は気付かないのか?)。終盤、メンバーのソロが順に繰り広げられ、村上"ポンタ"秀一と斉藤ノブの妙技が見られたことはよかったが、大トリはないだろうというのが正直なところ。時刻が9時を回ったところで演奏は終わり、こりゃ高中がトリで角松はクロージングだな、なんて自分に言い聞かせながら、会場を後にした。








 私自身、もともとフュージョンに明るいわけではなく、今回のバンドも全て初見ということもあって、楽しめたところもあれば、退屈~不満に感じた部分もあった。まず後者から言えば、椅子席にずっと座りながらとはいえ、トータル8時間は長すぎる(各バンドの演奏時間はだいたい40~50分、セットチェンジは15分前後だった)。また佐藤竹善はアカペラではなくバンドで出て欲しかったし、アカペラなら藤井尚之のようにミニステージを使って、時間を短縮する方向にして欲しかった。タイムテーブルや出演順を事前に明かさなかったのも、角松を大トリに持ってきたのも、角松ファンを途中で帰らせないための方策だったのでは?と、邪推したくなる。


 では楽しめたところだが、まずは目当てだったプリズムが、予想を大きく上回る出来であり、特に和田アキラのギターが凄まじかったこと。そして、なんと言っても高中正義に尽きる。この人のギターは、海外に出てもぜんぜん恥ずかしくない輝きを放っていると思うし、そして何より、フジロックに出てくれ!いや、出るべきだ!あのギターは、野外でならより一層パワーが増幅されて聴く側に伝わって行くと思うし、この人を知っている人も、知らない人も、まるごと魅了させることができるはずだ。




(2004.6.6.)



















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