Phoenix (Christian Dior Party) 2004.5.15:シンコー倉庫
何とはなしにネットしていて東芝EMIのサイトに行き着き、フェニックスのシークレットライヴが開催されることを知った。これが招待制で、サイトでは50組100名を募っていた。だめもとで応募したのだが、これがなんと当選。自宅に大きな封筒が送られてきて、開催日時と場所、段取りなどが記されていた。これを読み、今回のライヴが私がふだん足を運んでいるライヴとは大きく異なることを知る。
というのは、ライヴはクリスチャン・ディオールのパーティーの一環として行われるからだ。場所は大井競馬場近くのシンコー倉庫というところ。付近には駐車場もないとのことで、原宿にあるディオール表参道店前に行き、そこからシャトルバスに乗って現地に行くことになっていた。私は表参道までクルマで行ってコインパーキングに停め、シャトルバスを利用することにした。
パーティーは午後10時開始で、ということはつまりオールナイトだ。フェニックスの登場は12時過ぎくらいとされていて、それに間に合うようにと9時半過ぎに表参道に着いたのだが、シャトルバス乗り場前には長蛇の列が。あたー。結局、1時間くらい並んだ後やっとバスに乗ることができ、バスは首都高に乗りレインボーブリッジを経て、30分程度で倉庫に着いた。受付で送られてきた封筒(これがそのまま案内状になっていた)を渡し、シルバーのリストバンドを渡される。
倉庫内、入ってすぐのフロアには鉄骨でできたU字型のアーチがあって、スケボーのパフォーマンスがされていた。そして奥のフロアに入ると、そこは1000人規模の広さ。あくまで体感だが、クラブチッタを横に広げたくらいのスペースだったと思う。正面にステージがあって、フェニックスのライヴは恐らくここで行われる。向かって右の壇では飲み物の受付をしていて、そして反対側はどうやらVIP専用のようだ。私はフェニックス目当てで来たのだが、もともとディオールのパーティーなので、ディオールの顧客であろう人たち(セレブっていうの?)の方が圧倒的に多い。モデルと思しき背の高い人たちや、着飾った年配の方々、また外人客も結構いた。
場内はとりあえずDJタイムで、ニュー・オーダーやベックやノー・ダウトといった曲がかかっている。そのうちにエディ・スリマンというデザイナーが登場。人だかりができ、カメラのフラッシュが炊かれ、そしてVIPの壇の方に吸い込まれて行った。フェニックス目当ての身としては、早く始まんねえかなあと、時間ばかりが気になっている状態。12時を回った辺りから場内のライトが暗くなったり明るくなったりという演出がされ、それから30分くらいして、DJがストップ。メンバーがステージに姿を見せる。
ライヴは『Too Young』でスタート。同じフランス出身のタヒチ80にも通ずる、洒落たポップナンバーだ。メンバーは4人と聞いていたが、ステージ上には6人いる。ヴォーカルが正面中央、ギターが向かって左、ベースが向かって右という配置。後方右にドラム、左にキーボードが2人といった具合だ。ドラマーとキーボードのひとりが、どうやらサポートのようだ。続く『Everything Is Everything』『Run Run Run』になると、キーボードのひとりが前に出てきてギターを弾いている。
ライヴが始まるまでは場内は終始暗くて、仮に芸能人とすれ違ったとしても気付かないほどだったのだが(笑)、ステージのライティングにより場内も幾分明るくなって、他の客の表情が読み取れるようになった。正直通常のライヴとは違い、ディオールありき、パーティーありきなので、バンドと客とが全然マッチしない、お寒い雰囲気が漂う状態になったらどうしようなんて想像もしたのだが、思いのほか客のノリもいい。もともとフェニックスがこのパーティーに起用されたのは、ディオールのデザイナーが彼らの音楽を気に入っていて、ショウでも曲を流したりしていたからなのだそうだ。
実は私はファースト『United』しか聴いていないのだが、彼らの音楽というのは洒落たギターポップのみに終始しておらず、驚くほどにフレキシブルだ。ライヴの場だからかもしれないのだが、やたらファンキーなアレンジの曲があったり、70'sハードロックを研ぎ澄ましたようなラウドな曲もあって、掴みどころがない。この辺りが、アメリカやイギリスのバンドにはない、いい意味での節操の無さだと思う。そしてどの曲でも、キーボードの音色が印象的だ。それは演奏中ばかりでなく、曲間にメンバーが楽器を替えたりミネラルを口にしたりしているときにも、BGMとして効力を発揮している(そしてそれは、サポートのキーボードがやっている)。
パーティーの中でのライヴということなので、ちょこちょこと2、3曲やっておしまいかなという気もしていたのだが、結局ライヴは45分くらいに渡ったと思う。特にヴォーカルがノリノリで、マイクスタンドを客の方に向けたり、終盤の『If I Ever Feel Better』のときには、スピーカーによじ登って歌うやんちゃぶりだった。3月にリリースされた彼らのセカンドアルバム『Alphabetical』は、なんとファーストから4年ぶりのこと。ベテランアーティストならまだしも、若いバンドならちょっとありえないインターバルだが、このマイペースぶりも掴みどころがなく、また同時に頼もしいとも思う。
本来の目的を達したので、この後はすかさず会場を後にした(帰り際に小さな香水をもらった)。雨が降っていたのには少しあせったが、なんとかすぐシャトルバスに乗れて、表参道まで戻った。完全送迎で飲み物も飲み放題でしかもライヴまで観れて、これで無料なんて、さすがはディオールのパーティーだな。こういう場に居合わせることができたのは、自分にとっては貴重な体験だったと思う。
(2004.5.17.)