Theatre Brook 2003.12.27:Liquid Room
開場時間の30分前にリキッドルームに着いたのだが、このときはまだ誰もいなくて、正直あせった。もしかしたら、ガラガラのライヴになるんじゃ・・・。しかし、時間が経つにつれて徐々に人が集まってきて階段に並ぶようになり、そして開場。開演時間の頃には、フロア内はおおよそ埋まった。女性ファンが多いな。
客電が落ち、イントロのSEが響く中メンバー4人が登場。ジャムセッションのように演奏が始まるが、いつのまにか『ドレッド・ライダー』へ。佐藤タイジはステージ向かって右に陣取り、右膝を少し曲げてそこにギターを乗せるようにしてかきならす。続くはなぜかクイーンの『We Will Rock You』となるが、英語詞をほとんど違和感なく歌い、パワフルなギタープレイをするタイジは、ワイルドでそしてセクシーだ。
ステージは、タイジのほぼ後方にドラマー、その左にキーボードのエマーソン北村、タイジの左にはベーシストといった配置。演奏は、ドラムやキーボードにより曲間は切れ目なくつながれる形となり、その間にタイジはギターを替える。ステージの右には、タイジのギターを交換するためのローディーが、常に構えているといった具合だ。
カヴァーは先ほどのクイーンのみに留まらず、サンタナの『Europe/哀愁のヨーロッパ』なんてのも(どこかでジョン・レノンの『Imagine』もチラリ)。アフロヘアを振り乱し、のけぞるようにしてギターを弾くタイジには、サンタナよりもむしろプリンスやジミ・ヘンドリックスの姿がダブって見える。タイジ曰く「まだタイトルのない」新曲というのも披露された。あまりキャッチーではなく、シングルには不向きかなと思うが、恐らくは何度も繰り返して聴くうちに味わいが出てくるような曲だ。
一方の『オレタチフューチャー』はポップで聴きやすいが、私がシアター・ブルックに対して思い描くイメージとは少し違う。そのイメージというのは、タイジのギター及びソウルフルなヴォーカルが軸になったロックバンド、というようなものなのだ。確かにタイジの歌とギターが軸になってはいるが、このバンドが持つ世界観は、そんな限定的ではないことを、このライヴの中で嫌というほど思い知らされることになる。
音楽性としては、フォークっぽい曲があるかと思えばフュージョンのような曲もあり、『蜃気楼』でのタイジのギターはボサノヴァ調だったりする。エマーソン北村のキーボードは時にアンビエントなテイストを出しているし、とにかく変幻自在というか、まるで70'sのスティーヴィー・ワンダーや、バンド・オブ・ジプシーズのジミヘンのようなクロスオーバーな世界だ。そしてどの曲もジャムセッションの様相を呈していて、1曲1曲がとても長い。しかしこうしたことは、演奏の上手い人たちでなければできないことだし、そしてライヴの場でこそその真価を発揮するのだろう。
ライヴは二部構成になっていて、第一部は『何もないこの場所から』で締めくくられた。20分のインターバルの間には、フロアの両サイドに設置されたスクリーンに、ダライ・ラマの映像が流れる。タイジがその思想に共感したのかな?そしてなぜか『戦メリ』のテーマをSEにして、第二部がスタート。まずはゲストということで金子隆博という人が登場し、フルートでセッションに参加した。
このままクロスオーバー路線で行くのかなと思っていたら、続く『Tepid Rain』でギアチェンジした感があり、以降はストレートなロックナンバーによる怒涛のステージとなる。第一部では朱色のスーツ姿だったタイジだが、第二部では白いスーツに。今年のフジロックのイメージが、頭の中によみがえる。しかしフジロックはあくまで限られた持ち時間の中で行う言わばダイジェスト版のライヴで(それでも相当なインパクトがあったが)、彼らの本領が存分に発揮されるのは、今回のような単独公演に違いない。
ヴォーカルにエコーが効き、終盤に幻惑ムードが漂う『捨てちまえ』、そして『悲しみは河の中に』では、終盤でこの国の政治姿勢をチクリと批判する。続く『ありったけの愛』だが、シアター・ブルックが誇るこの必殺の名曲は、終盤では即興の歌詞が披露される。さて、この場においては何が飛び出すのかと、そのときが来るのをじっと待ち構えていたのだが、タイジが歌ったのは「反戦」だった。
タイジはなおも続け、最後は「Stop Bush !! Stop Bush !!」と連呼。場内も、この歌詞に反応してどよめいた。アーティストは、その表現行為の中において政治批判や反戦を唱えることができるが、では私たちひとりひとりにできる行為の最たることといえば、それは選挙に参加し投票することだと私は思う。この日この場に集まった人のうち、先日の選挙に行った人は、いったいどれくらいいるのだろう。
この後メンバー紹介及び各々のソロを経て、第二部のラストはなんと30分以上にも渡る長い長いジャムセッションとなった。ここで先ほどの金子隆博が、今度はサックスで参加(この人は元米米クラブのフラッシュ金子で、石井竜也の妹の旦那でもあるそうだ)。息が続かず苦しそうだったが、その横でタイジは自由にギターを弾きまくる。よく体力が続くなと、観ている方が心配になってしまうくらいのタフネスぶりで、だけど本人にはギリギリまで切り詰めてやっているといった悲壮感はなく、むしろ楽しんでいるようだった。最後は、いつのまにかニール・ヤングの『Rockin' In The Free World』になっていた。
二部構成で途中休憩があったとはいえ、ここまでで約3時間が経過。アンコールなしでこのまま終わっても不思議はなかったが、メンバーはTシャツに着替えて再登場。曲は『純粋無垢』『まばたき』の2曲だったが、ここまで来てまたもジャムセッション風のいつ終わるとも知れない演奏が延々と続き、この2曲だけで30分近くが経過。これでここでのライヴは終わったが、この後バンドは南青山のマンダラというライヴハウスのオールナイトのイベントに出演し、またライヴをするんだそうだ。ほえ~。
私はライヴの最中のタイジのMCで初めて知ったのだが、リキッドルームは年内いっぱいで閉鎖されてしまうのだそうだ。歌舞伎町のど真ん中という立地は新宿駅からも結構歩くし、ビルの7Fまでは階段を延々と登らなければならず、入り口にたどり着く頃には息も絶え絶えになってしまう。トイレもあまりきれいではなく、満員のときはロッカーの数も足りなくなる。なので、正直私にとってはあまり好きなコンサート会場ではなかった。
だけどいったんフロア内に入ってしまえば、天井は低く、ステージとの距離感もあまり感じず、密閉感に包まれてライヴを楽しむことができる。音が割れたとか聞き取りにくかったという不満を覚えたことも、あまりなかったと記憶している。そしてタイジによれば、リキッドは日本最高のハコだそうで、それはバンドメンバーやスタッフにとっても同じ思いだそうだ。今回のライヴはシアター・ブルックにとっても、また私にとってもリキッドのラストになるが、ヴォリューム満点でかつ魂のこもったライヴを体験することで締めくくれたのを、とても嬉しく思っている。
(2003.12.28.)