Echo & The Bunnymen 2003.11.10:The Garden Hall

降りしきる雨の中、体を震わせながら整理番号順に並んで開場時間を待っていると、入り口から3人の外人が外に出て来た。うちひとりはなんと半袖のTシャツ姿で、寒くないのかなと見ていたのだが、やがて時間になって中へ入場。チケットの番号が早かった私は、なんと最前列をゲットできてしまった。Tレックスの曲がBGMとして流れる中、柵に寄りかかりながら1時間ほど待った。





 7時5分過ぎくらいに客電が落ち、場内がざわつく中メンバー入場。そしてキーボードの人は、さっきのTシャツ兄ちゃんだった。なんだ、メンバーだったのか。。。それはともかく(笑)、『Show Of Strength』でライヴはスタート。ステージは、中央にはもちろんイアン・マッカロク。ジャケットにジーンズというラフなスタイルで、サングラスをかけている。体型は中肉中背で、その面影は80's当時とあまり変わっていない。向かって左がギターのウィル・サージェントなのだが、こちらはかなりご立派な体格になっていて、そして長髪のためほとんどその表情がうかがえない。オリジナルのバニーズはこの2人だけで、他はイアンの右にベ−スとギター、後方にはドラムとキーボードという配置だ。


 イアンは集中力を欠いたように見え、ギターもサポートの人の方がメインのリフを弾いていた。曲調がミディアムのせいもあったかもしれないが、なんだこれが今のバニーメンなのかと、個人的には少しあせってしまった。それが、続く『Rescue』で空気は一変。今度はウィルがしっかりメインのリフを弾き(以降ほとんどそうなった)、散漫と思われたイアンの素振りも、それがこの人のペースであることに気づく。そして後半の間奏になったところでウィルのギターソロが炸裂し、2人にライトが当たったとき、その光線の色と当たり具合により、2人からオーラが出ているのを感じて私はゾクゾクした。再結成、または延命を続けているバンドやアーティストの中に、こうした瞬間を見出せるかどうかというのは、私にとってとても重要なことだ。





 バニーメンは80'sに隆盛を極めたが、やがて(音楽的に)袋小路に迷い込み、イアンはソロに転じ、90's前半はバンドは一時解散していた。それが復活を果たしたのは97年のことで、以降作品のリリース環境はメジャーとの契約を切られる苦しい状態だが、ことライヴの場においては、彼らの力量は健在だ。今回の来日はフジロック'01以来約2年ぶりで、そのフジロックのときは、アレック・エンパイアやニール・ヤングと時間が重なったこともあって、私は20分程度しか彼らのライヴを観ていない。しかしそれでも、単なる懐メロに留まらない、緊張感を維持したパフォーマンスに痺れたものだった。そしてそれは今回も同様なのだが、特に結成25周年という節目になっていることが、一層彼らの背中を後押ししているように見て取れる。


 再結成以後の作品ではかつての疾走感や躍動感は薄くなり、ただその代わりに表現力が多彩になったというか、懐が深くなったような印象を受ける。それはウィルのギターに顕著に表れていると思っていて、ニューウェイヴ然とした耳に焼きつくフレーズのみならず、時には実験的とも思えるリフを展開。しかし演奏のバランスが崩れないのは、革ジャン姿のもうひとりのギタリストや、ラモーンズのTシャツを着たベーシストといった、メンバーでありながらオリジナルバニーメンのフォロワーでもある、若き血たちであろう。そしてこうした面々を従えているイアンは、何度もマルボロに火をつけてはくわえるということをやっていて、余裕というか風格を感じさせる。時折体を小刻みに揺らすさまなどは、どことなくリアム・ギャラガーを思い起こさせる。


 バンドの顔的な曲は随所に散りばめられ、そのたびに場内のテンションは上がる。『Seven Seas』、『Killing Moon』、『Back Of Love』・・・。しかしCDで聴くと地味に思えていた他の曲も、不思議とこの場では地味には感じられず、これらの曲が持つパワーが伝染したかのように生き生きとしている。フジロックは舞台そのものがマジックを持っているが、今のバニーメンはそうした追い風を受けずとも、自らの能力のみで質の高いライヴができているのだ。





 本編は必殺『The Cutter』で締め、そしてアンコールは『Nothing Lasts Forever』。先ほどイアンの面影にはリアムを彷彿とさせるものがあるといったようなことを書いたが、この曲のオリジナルではそのリアムがバックコーラスで参加している。『Be Here Now』のレコーディング時に、たまたまスタジオが隣合わせだった がために気楽に参加したのだそうだ。そしてこの場においてだが、なんとイアンはいつのまにかルー・リードの『Walk On The Wild Side』を歌っている。かと思えば、バニーメンの出身地でもあるリバプールの偉大なる先人である、ビートルズの『Don't Let Me Down』を歌ったりもしている。


 続くは『Lips Like Sugar』で、先ほどがオアシスのリアムがからんでいるなら、この曲はコールドプレイにカヴァーされている。今年の7月には彼らのライヴにイアンが飛び入りして一緒にこの曲を歌ったそうで、こうしたUKの現役アーティストたちにフォローされていることも、このバンドが備えている魅力のひとつだ。そもそもバニーメン自体、ドアーズやヴェルベット・アンダーグラウンドからの影響を隠していない。こう考えると、ポール・ウェラーがフーやスモールフェイセズと、90'sギターバンド勢との橋渡し的なポジションを占めていたように、偉大なる先人たちのアティテュードを若きアーティストたちに伝えるという役割りを担っているのかもしれない。





 2度目のアンコール、ラストはこれも代表曲のひとつである『Ocean Rain』だった。スローな曲調の中に、このバンドが生き延びてきた意地と誇りが、にじみ出ていた。今回の来日公演は東京1回きりで、しかも日程がウイークデーということもあってか、客入りは決して芳しくなかった。しかし私は思う。今現役で活躍している若いバンド/アーティストの中で、いったい何組がエコー&ザ・バニーメンのように、20年後25年後にステージに立っていられるのだろうかと。




(2003.11.12.)



















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