椎名林檎 2003.9.27:日本武道館 Second Encore
これで終わりか、それとも更なるアンコールはあるのか・・・。場内からは拍手が鳴り止まないが、やがてスクリーンが稼動し始め、場内は静まり返る。映っているのは楽屋裏で、やがて林檎嬢本人が姿を見せ、やや上気した表情で椅子に腰掛ける。どうやらリアルタイムの映像のようだ。やがて2人のメイクさんが彼女のセットに取り掛かるが、ここから映像がCGに移行。看護婦や着物といった、これまで彼女がPVやジャケット撮影などでまとってきた衣装がずらりと並ぶ。
続いては彼女の顔がどアップになり、やはり映像はこれまでのPVやジャケットなどでの表情を、次から次へと映し出す。しかし、彼女の唇の左上にある「ホクロ」が軸になっているような映像で、彼女の表情は移り変われど、そのホクロの位置だけは変わらない。すると、やがてそのホクロがぽとりと落ちたではないか。彼女のトレードマークのようなイメージだった、あのホクロが。
ここで映像は、CGから再びリアルタイムの楽屋裏に切り替わる。スーツ姿の東京事変メンバーが、ステージに向かって歩いて行く。そして少し間があって、黒いドレスに着替えた林檎嬢が姿を見せる。やがて5人はステージに再登場。しかし彼女は何もコメントを発しないまま、曲が始まってしまった。聴いたことのない曲で、一瞬誰かのカヴァーかなとも思ったのだが、実は次にリリースされるシングルであり、NHK「みんなのうた」でオンエアされることも決まっている、『りんごのうた』だ。
マラカスを振りながら、淡々と歌う林檎嬢。スクリーンには、その彼女の表情が再びどアップになる。そして、やはりホクロはない。この映像、彼女の顔からホクロが消えたことをことさらに強調するように捉え、観る方としてはスクリーンとステージで実際に歌う彼女とに交互に視線をやりながらも、困惑を隠し切れない。演奏を終えると、彼女もメンバーもひと言も発することなく、ステージを後にした。
再びスクリーンが稼動し、字幕が流れる。
(以下のメッセージはうる覚えのため、だいたいのニュアンスで書く)
やっと、自分が名前がわかりました
皆さんが仰るとおりの、「りんご」です
ここで不意に、客電がついた。すかさずステージ上にスタッフが登場し、ライヴが終了したことを告げる。会場に集まった1万3千人、そのほとんどが呆気に取られた状態のままで、彼女のライヴは終わってしまった。
この日のライヴ、チケット代はかなり高めに設定されていたのだが、それは全員に「おみやげ」を渡すという試みもあったからだ。終演後は規制退場となり、ブロック毎に指示されて外へ出た。そして外には物販のブースのようなテントがいくつも用意されていて、チケットの半券を見せることで「おみやげ」を受け取ることができた。
おみやげは、大きめのビニール製のバッグに入った箱だった。中を開けてみると、今回のツアー名でもある雙六だった。かなり豪華で、しっかりと作られている。そしてこれは、同行した私のヨメさんがぽつりと言ったことだが、終演後におみやげを受け取る光景は、まるで葬式の帰りのようだった。
アンコール以降の彼女が発したメッセージには、いろいろ考えさせられる。私は追加として武道館公演が決まった当初から、もしかして彼女が引退宣言をするのではという不安を、ずっと抱えてきた。だけど『りんごのうた』は11月にリリースされるし、この公演を中心としたライヴDVDも12月にリリースされるという動きもあって、どうやら「完全引退」ではないようだ。最後のメッセージは「改名宣言」にも受け取れるが、実は『りんごのうた』の歌詞の一節でもあって、あまり深刻に考えない方がいいのかもしれない。
ただこの公演を以って、彼女はそれまでの活動にひと区切りをつけたのではないかと思われる。リリース予定の『りんごのうた』が「節目シングル」と題されていること、映画のエンドロールのような字幕、そしてホクロ・・・。これにはいろいろと詮索させる裏があって、実は活動再開後彼女はそれまでの事務所から独立していて、現在権利を巡って係争中なのだとか。こうした生臭い争いもあって、区切りをつけなければならない事情があるのかもしれない。
疲れたのなら、どうぞお休み下さい。
だけどゆっくり休んだ後は、再び私たちの前に、またその元気な姿を見せて下さい。
(2003.9.30.)
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