Audio Forma #2 2003.9.14:青山Cay
東京圏に住むようになってもう10年以上になるが、やっぱりココは贅沢な街だなと思う。海外アーティストの公演は毎日のように行われているし、大物アーティストのライヴが小規模の会場でひっそりと行われることも、しばしばあるからだ。今回の「Audio Forma」はカフェバーを会場とし、エレクトリック・ミュージックを手がけるアーティストによるイベント。そしてその中心にいるのは、細野晴臣と高橋幸宏のユニット、スケッチ・ショウだ。
「Audio Forma」は、#1が既に12日に六本木で開催されている。そのときは5組の出演だったが、今回の#2は総勢9組が出演。開場及び開演はなんと夜の10時で、つまりオールナイトになる。会場は青山にあるCayというカフェレストラン。今までもこうしたイベントが行われてきた様子で、フロア内は後方にカウンターがあり、ステージは前の方に。ステージといってもフロアとの段差はほとんどなく、見上げるという感覚はほとんどない。PAやDJブースは左横にあって、既にDJプレイがスタートしていた。
このDJは徳井直生という人で、しかしかかっている音はボワボワした環境音楽のようなインストばかり。フロア内にはかなりの人がいてみっちりしているのだが、音が音なだけに踊る人はほとんどなし。そして、眠くなる~(苦笑)。場内は数箇所にタイムテーブルの紙が貼り出されているのだが、スケッチ・ショウの出演は深夜1時20分とある。今からこんなに眠くて、果たして自分の体力が持つのだろうかと不安になる。
こうして1時間ほどDJプレイが続いたが、やがて音がフェードアウト。qodibop(クォディバップと読むのかな?)というバンドのライヴが始まった。ギター、ベース、ドラムのスリーピース編成で、曲はオールインスト。それぞれの生音が心地よく響くが、時折キーボードやパソコンを駆使しての電子音も混合され、コーネリアスの『Point』を思い起こさせるようなサウンドを発する。札幌のバンドだそうで、東京では今回が初ライヴとのこと。なかなかよかったです。
DJプレイを挟み、今度は澤井妙冶で、Acoなどのプロデュースをする傍ら、複数のプロジェクトをこなしている人らしい。まるでシャドーボクシングのような仕草をして、機材からノイジーな電子音を発したり(たぶんテルミンのような原理になっているのだと思う)、トーキング・モジュレータを使って、マドンナの『Material Girl』をかなり崩したアレンジで演るなど、結構エキセントリックなプレイだった。
続くは、青木孝允と黒川良一。ここまではフロアの中盤辺りで観ていたのだが、次のスケッチ・ショウに備えてステージの前3列目くらいまで移動。ステージ上は卓が2列に並べられていて、i-bookが何台もあり、後はコードがうにゃうにゃと伸びていて、他の電子機材につながっているという具合だ。この2人のユニットは音だけでなく映像も操り、後方のスクリーンに抽象的な画像が流れる。黒川良一は、スケッチ・ショウのライヴにおける映像も手がけている人らしい。
10分ほどのセットチェンジの後、ついに高橋幸宏と細野晴臣が登場。場内の歓声もこれまでで最大となり(当たり前か)、前の方に人が押し寄せてくる。まずは「もう12時をまわって敬老の日です」「もう寝てる時間ですよー」といった、場内を和ませるような2人の会話が。2人とも黒を基調としたいでたちで、細野晴臣はテレビなどで見るまんまの印象だが、高橋幸宏はほっそりとしていてびっくりした。
曲は大半がインストだが、2人ともヘッドフォンマイクをつけていて、時折かすれた声で歌うという具合。細野晴臣はベースではなくi-bookを操り、高橋幸宏はオモチャの鉄琴?のようなパーカッション。それとサポートがひとりいて、i-bookを操作したり、トランペットを吹いたりしている。いちおう曲と曲の間の切れ目はあるのだが、ほとんど手を休めることなく演奏は続行された。この秋にはスケッチ・ショウとしてのセカンドアルバムをリリース予定で、恐らくはそこからの曲が中心になったものと思われる。
今さらYMOでもないのかもしれないが、その音楽性は当時においてだけでなく、今現在でも有効に機能していると思うし、国内のみならず世界進出を果たしたことも、素晴らしいことだ。増してや昨年暮れのスケッチ・ショウのライヴに坂本龍一が加わったり、今年レーベルがソニーに移ったことでアルバムが再発され新たなベスト盤が出たりと、やっぱりYMO再開という期待感を抱いてしまう(再開は坂本龍一次第という様子だが)。
私がメンバーをナマで観るのは今回が初めてで、それがわずか数メートル先に2人がいるのかと思うと、興奮を抑えろという方が無理な話だ。だけどその数メートル先にいる細野晴臣と高橋幸宏は、あくまで淡々と機材を操作している。そしてその音楽もYMOの再構築をしているのではなく、といって現在乱立するダンス/テクノ系の音とも一線を画しているように思う。2人で、今の世に通用するような何か新しいことをやってみようじゃないか。そんなたたずまいだ。
スケッチ・ショウのライヴは1時間近く続き、その後も4組のアーティストによるライヴが組まれていた。しかし、ここまでほとんど立ちっぱなしで疲れていたことや、2人の姿を間近で観れたことに充分満足したこともあって、ここで会場を後にし帰宅の途についた。細野晴臣が、出てきたときに「外はどしゃぶりです」なんて言っていて、まさかと思ったのだが、路面は濡れていた。にわか雨が降ったようだった。
2000年、電気グル−ヴ。2001年、ブライアン・イーノ。2002年、スピリチュアライズド。2003年、モグワイ。これは何の羅列かというと、フジ・ロック・フェスティバルのホワイトステージの大トリを務めたアーティストである。この日のスケッチ・ショウを観て思ったのは、生楽器の演奏によるグルーヴ感と、映像などの視覚効果がプラスされれば、翌年のホワイトのトリとして充分相応しいのではないかということだ。どうでしょ?
(2003.9.15.)