King Crimson 2003.4.16:東京厚生年金会館
開演時間は午後7時。私が会場に着いたのは、7時8分過ぎだった。チケットの半券を切って貰っていると、クリアな音がスピーカーから聴こえてくる。開演前のBGMかなと思いきや、中に入ってみて、その音を発しているのが他ならぬクリムゾン当人たちであることを知った(曲は『Level Five』だった)。きっかり時間通りに始まっていたのね・・・無念。しかし、CDで流すBGMだと勘違いしてもおかしくないくらいの演奏の緻密さ(と静かに聴き入るオーディエンス)によって、すぐさまクリムゾンワールドに引き込まれていく。
続いては、新作『The Power To Believe』からの数少ない「歌もの」である、『Happy With What You Have To Be Happy With/しようがない』。エイドリアン・ブリューの声は相変わらず通りがいいが、不思議とエコーがかっているようにも聞こえ、それが幻惑的な効果を生み出す。そして歌ものとは言いながら、もちろん主役は演奏そのものであり、重厚なサウンドだ。
ステージは後方にスポットライトが横一列になったレーンがあって、これが時にメンバーを照らしたり、また逆にバックの方に結晶のような模様を映したりする。メンバー配置は、正面中央がブリュー。その真後ろにドラムセットが一段高く設置されていて、パット・マステロットが鎮座している。パットはめがねにひげをたくわえていて、『Red』のジャケットの頃のフリップに少し似た風貌に。左はトレイ・ガンで、足を大きく開きつつ、直立不動に近い体勢で重そうなスティックベースを弾く。上下真っ白のぴったりスーツは、まるで宇宙服のようだ。
御大ロバート・フリップは向かって右で、例によって例の如く椅子に座ってギターを弾いている。がしかし、本人は真横を向いている状態で、1階席後方の私の位置からだと、フリップのギターさばきがほとんどわからない。もしかするとただ座ってるだけなんじゃという(笑)ようにも見える。そしてこれまた例によって例の如くなのだが、演奏中のフリップには青紫のスポットが当てられていて、このライトが暗いのでいよいよ動きがわかりにくくなっている。耳に意識を集中させながらブリューの手の動きを見て、ああこのフレーズはフリップが弾いているんだなと(笑)、イマジネーションを働かせながら観る具合だ。
そしてフロントのブリューなのだが・・・、頭部は2年半前にも増してやばい状態になっていて、まるで御茶ノ水博士のよう。そして衣装は・・・、なんと、は、肌着!?いくらクリムゾンがメンバーの見た目を売りにはしていないバンドとはいえ、こんなオッサン丸出しでださださの格好のアーティストを、私は今までに観たことがない。ブリューさん、いったいどうしちゃったのだろう?
しかしそんな見た目とは裏腹に、演奏の精度は相変わらず恐ろしいほどに高い。曲は新作からが中心となっているのだが、これまでのようにそのときそのときのインプロヴィゼーションバトルといった風ではなく、CDに収められた演奏を完璧に再現することを目指しているかのようだ。そして目を閉じて聴いてみると、物語のような流れを感じることができる。ルー・リードは「耳で聴く映画」というコンセプトで『Berlin』を作ったが、このライヴこそがまさに耳で聴く映画そのものではないだろうか。
今回は以前のクリムゾンの曲を封印し、最も古いところでも、『One Time』『Dinasour』といった、ダブルトリオ期の曲に留められている。個人的には70'sのヘヴィーメタル期が大好きだし、前回の来日公演では80'sの曲の素晴らしさを再認識させてくれたので、今回ここまで最近の作品に徹されるのもなあと、やや複雑な気持ちにもさせられる。ただ逆に考えれば、前回や前々回でそうしたことはやり尽くしてしまったので、今回は純粋に今のバンドのみのポテンシャルで勝負するんだ、という意気込みにも受け取れる。
フリップは現在のクリムゾンのコンセプトとして、「ヌーヴォーメタル」というキーワードを掲げている。私はこれが新しい試みというよりは、むしろフリップ自身のソロやコラボレーションのキャリアをもぶち込んだ集大成であり、そしてこのメンバーで成し得るクリムゾンの総決算になっているのではないかと感じている。
前者はブライアン・イーノやデヴィッド・シルヴィアンとのコラボレートで展開したような、アンビエントの要素を包含したサウンド。後者はヘヴィーメタル期をベースにしつつ、贅肉を削ぎ落とし磨き上げたサウンドだ。前者の代表格が新作のタイトル曲でもあり、断続的な組曲風の構成になっている『The Power To Believe』。そして後者の代表格は、大作『Larks' Tongues In Aspic Part IV/太陽と戦慄パート4』だ。個人的には、本編ラストとして演奏された『戦慄』が、このライヴのハイライトだった。
アンコールは2回あって、ラストは『VROOM』で締めた。演奏を終えると4人はステージ前方に歩み寄り、横一列に並ぶ。これまで一切明るいスポットの下に身を置かなかったフリップも、ここでやっとその表情がわかるようになった。手をかざしてオーディエンスの様子を眺めつつ、口元からは笑みがこぼれていた。演奏中はずっと座って聴いていた場内も、このときはスタンディングオベーションでバンドに応えた(海外でのクリムゾンのライヴも、こうなのだろうか?)。カメラが数台入って撮影していたけど、今回のライヴもいずれ放送されたり、あるいは映像作品としてリリースされたりするのかな。
会場入りしたとき、スピーカーから流れていたバンドの演奏を、CDによるBGMだと勘違いしてしまった。冒頭に書いたことだが、これがこの日のライヴを象徴していると思う。ロバート・フリップの指揮の元、ひたすら修練を続けてきたキング・クリムゾンだが、今回の作品である意味究極の形にたどり着き、ツアーではその究極が更に研ぎ澄まされて行っているように感じている。
(2003.4.19.)
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