The Jon Spencer Blues Explosion 2002.6.8:Zepp Tokyo

単独公演以外にも、プロモやフェスなどといった形でほとんど毎年のように来日しているジョンスペ。なので、今や来日してくれることのありがたみが薄れつつあるバンドのひとつになってしまった感がある。個人的にはこれまでに2度ライヴを観ているのだが、それでも今回の公演には足を運ぶことにした。それは最新作『Plastic Fang』が、私にとって快心の出来だったからだ。





 まずはオープニングアクト。ベルレイズという4人組で、ギター×2、ドラムという編成の中、フロントは黒人女性のヴォーカリスト。所属レーベルは、あのアラン・マッギーのポップトーンズなのだそうだ。入場時にもらったビラには"ストゥージズ meets ティナ・ターナー"なるキャッチフレーズがあって、なるほどこの黒人女性はアフロヘアーで体格もどっしりしている。声量もたっぷりだ。


 曲と曲との間をほとんど切らさず、次から次へと演奏。スタートから15分くらいまで一気に突っ走ったが、ここまで5曲、いや7~8曲は演っただろうか。ひと息入れた後はまた同じ調子で再開。音の方はもろガレージロックだが、ストゥージズというよりは、むしろダムドの方を思い出させる。バンドの顔は黒人ヴォーカリストになるのだろうが、サウンドの核になっているのは実はギタリストの兄ちゃんだ。演奏は35分程度で終了。どの曲も同じに聴こえてしまい、飽きられるかもというリスクも背負っていて、評価は分かれるかもしれない。が、オープニングアクトとしての役割はきっちり果たしたと思う。





 約20分に渡るセットチェンジの後、BGMが『The Train Kept A Rollin'』のイントロになったところでジョンスペが走って登場。そして挨拶もそこそこに早速『Attack』で蹴散らす。機材はステージ前方の中央部にぎゅっと固められ、ジョンが向かって右に、ジュダが左に、2人の間の少し後方にラッセルとドラムセットがあるという配置だ。ジョンはブルーのシャツにまるで宇宙服のような(笑)銀ラメのパンツ。ジュダは肩のところがエンジ色になっている黒(もしくは紺)のシャツ、ラッセルは黒か紺のシャツだ(私の位置はステージからかなり後ろの方だったので、メンバーの衣装は光の当たり具合からこのように見えた。実際は違うかも)。


 続くは『Ghetto Mom』。音割れがひどく、ジョンのヴォーカルがほとんど聴き取れないありさまだが(これも観た人の位置にもよるのかも)、しかしそんなのお構いなしとばかりにバンドはブッ飛ばす。そしてオーディエンスも暴れまくりだ。ステージは基本的に暗く、ラッセルの左後方のスポットライトをはじめ、左右や天井のライトが曲のサビに合わせるようにして閃光する。時には一瞬だけ客電もつけてしまうありさまで、爆音のみならずこうした光の世界にもよって、自分の気持ちが高揚してくるのがわかる。





 曲と曲の間を切らすのもほんの一瞬で、ジョンもジュダもギターを換えることをせず、すぐさま次の曲をおっ始める。よく弦が切れずに持ちこたえられるものだ。ジョンは足を屈伸させて膝をつくというアクションを何度も繰り返し、片やジュダは、これだけの爆音を発している張本人とは思えないほどに涼しいただずまい。体を左右に小刻みに揺らしながら、軽快にギターを弾く。2人の静と動がくっきりしているが、逆に言えばジョンがこれだけ好き放題できるのも、ジュダがいればこそなのだろう。そしてその2人を後方から見据える形で雷鳴のようにドラムを叩くラッセル。3人を結び付ける信頼感は、大木よりも太い。


 選曲は新作に偏らず、新旧満遍なくセレクトされているようだ(というより、そもそもジョンスペのライヴにセットリストなどあるのだろうか)。『Wail』ではフロア全体がモッシュ状態となり、『Blues X Man』から『Afro』へとなだれ込んだところは圧巻だった。逆に言えば、ライヴではここまでの表現ができるのに、どうしてこのグルーヴ感をアルバムの中に注入できないのかと、私は今まで不満で仕方がなかった。アルバムを聴いただけでは、ジョンスペの真の魅力はわからない。ジョンスペを知るには、やっぱりライヴを体感しなくっちゃ・・・なのか?でもそれじゃ、ちょっと寂しいよね。





 本編ラストは『She Said』。5分程度の間があって、アンコールのスタートは『Sweet N Sour』となり、『Plastic Fang』の曲がライヴパフォーマンスの中でもかなり重要なポイントになっていることが伺えた。私にとっては、上記の不満が初めて払拭できたのが最新作『Plastic Fang』で、バンドの代表作となりうるべき1枚だと個人的には勝手に歓喜している(笑)。この作品は、言わばライヴパフォーマーとしてのジョンスペに、サウンドクリエイターとしてのジョンスペが追いついた作品なのだ。


 ジョンの暴れっぷりは更に続く。機材の上にちょこんと置かれていた、小さなテルミンを操って電子音を発し、やがてはそのテルミンを抱え込んで股間に挟んでしまう始末。そして『I Wanna Make It All Right』となり、元々はミディアム調で迫力を欠いた曲だと思っていたのだが、ここではジョンが何度となく咆哮し、ワイルドで危険な雰囲気が漂っている。そしてラストは『Magical Colors』。この曲こそ気の抜けたビールのような歯切れの悪い曲で、私が『Acme』を聴いてなんじゃあこりゃあ!?と思ってしまったその中核に位置する曲だった。ところがどうだ。ここでは原曲とは似ても似つかない、爆音に包まれた壮絶な仕上がりになっている。


 ステージのジョンの右側には大きなスペースがあって、ジョンは拝むように手を合わせながらそこにひざまづく。そして起き上がり、中央前方に戻って今度はそこで寝転がってシャウトし、マイクをかじらんばかりの勢い。そして自身はそこで満たされてしまったのか(笑)、ジュダとラッセルを紹介しサンキューベリマッチと言い放つと、ギターをしょったままでステージ袖の方に消えてしまった。残されたジュダとラッセルは2人だけで演奏を続け、ジャムセッションのようなインプロヴィゼーションが少しの間続いた。





 毎年のように日本にやってきては驚愕ライヴでオーディエンスを蹴散らし、レコード会社から来日記念盤を出したいというオファーがあれば、てんこ盛りの未発表音源を提示して、これで充分かと平然と言い放つ。人に頼まれると、イヤだとは決して言えない。自分たちが必要とされているのであれば、いつどこへでも馳せ参じる。ライヴパフォーマンス自体はめちゃくちゃやっているジョン・スペンサーだが、この人は実はとてもいい人で、誠実な人なのではないか。そんな愛すべきジョンに対し、(英語では果たしてこれに該当する表現があるかわからないが)、日本語でこんな言い回しをしたい。











 男の中の男だわ、アンタ。




(2002.6.9.)































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