Garbage 2002.2.9:Zepp Tokyo

昨年はU2のオープニングアクトとして全米をツアーし、今年はオーストラリアとニュージーランドの主要都市を回る野外フェス、Big Day Outに参戦したガービッジ。精力的なライヴ活動は、新作に対する自信の現れなのだろう。前回はフジロック'98で日本に来ているが、単独となるとデビュー時の95年以来となる様子。つまり今回の来日は、メジャーバンドにのし上がってからの彼らをしっかりと観る、実質的に初の機会という位置付けになると思う。バンドが手に入れた自信とは、果たしてどれほどのものなのだろうか。





 予定時間を5分ほど過ぎると客電が落ち、イントロのSEが響く。場内は更に暗くなり、メンバーがスタンバイしたところでステージがかっと明るくなる。オープニングは『Push It』だ。シャーリーは赤毛ではなく金髪。ショートでリーゼントで、ちょっとマドンナを彷彿とさせる風貌になっている。白いタンクトップに黒いパンツをサスペンダーで吊ったラフな格好で、手には黒革のグローヴをつけている。異様なまでに痩身で、そして肌も異様なまでに白い。曲はそのまま『Special』『I Think I'm Paranoid』と、セカンド『Version 2.0』からの曲がたて続けに乱射だ。


 ステージは、多くのスポットライトが設置されてはいるが、他にはほとんど装飾らしい装飾もなく、いたってシンプル。メンバー配置はフロントにシャーリー、向かって右にデューク、左にスティーヴ。"ブレーン"ブッチ・ヴィグは、シャーリーの真後ろでドラムを叩いている。その右手前には、サポートのベーシストがいるという具合だ。シャーリーはステージ狭しと右に左に行ったり来たりで、身のこなしもシャープ。その存在感がたまらない。





 続いては『Androgyny』『Silence is Golden』と、新作『beautifulgarbage』からだ。私個人としては、3人の職人とシャーリーとの力量がちょうどいい具合で拮抗しているのが前作『Version 2.0』で、今回はポップセンスとシャーリーの女性らしさを前面に出し過ぎているように思う。だがこれはCDを聴いての話で、ここではパワフルでヘヴィーで、見応え聴き応えのある曲に生まれ変わっている。これはとても意外であり、かつ嬉しくもあった。


 パワフルでヘヴィー。そう思わせるのは、なんと言ってもフロントのシャーリーによるところが大きい。アクティヴでありながらストイックにも見えるステージアクションは、エンターテイナーであるマドンナよりは、むしろ80'sに活躍した女性ロッカーであるパット・ベネターや、何年か前のドロレス・オリオーダン(クランベリーズ)の方を彷彿とさせる。CDよりも高いキーで歌うことが多く、ナマで勝負しなければならないライヴという場において、攻めの姿勢で臨んでいるように見て取れる。


 イントロはかなりの箇所をSEに頼っていて、ちょっと残念。しかしだからといってライヴの臨場感が薄まることはない。それは、シャーリーの両脇に陣取る2人の職人の仕事ぶりが凄まじいからだ。特に目立っていたのはデュークで、間奏でギターをかきむしるシーンが何度もあり、曲によってはキーボードも担当。一方のスティーヴはサングラスをかけていてなかなか表情がうかがい知れないが、こちらも時に電子機材を操り、地味ながら存在感たっぷりだ。個人的に新作で最も好きな曲『Breaking Up The Girl』は、メンバーおのおのが見せ場を出し切った、前半のハイライトにもなったと思う。





 今回は、ファーストアルバムからも比較的多く選曲されている。ライヴで初期の曲を演るということは、自らの手で曲をリメイクする作業のようにも思え、なかなか興味深い。レコーディングを重ねてCDパッケージに記録したその当時よりも、バンドとして成長した今の自分たちの方が、曲に新たな命を吹き込むことができる。そういった自信の現れのようにも見える。『#1 Crush』や『Supervixen』ってこんなにいい曲だったっけ?、と、観ていてあせってしまったほどだ。


 随所に職人技は見られるものの、曲そのものの時間が延々と続くということはなく、ほとんどがCDと同等の長さで演奏される。なのでマシンガンを連射するかのようにたて続けに曲が続き、どの曲もポップ。出し惜しみせず、次から次へとこんなに放ってしまっていいものだろうか(笑)。だけどどの曲もコンパクトにまとまり過ぎていて、あまりにコントロールされ過ぎているのではと、少し気になった。





 そうした私の不安は、後半戦に差し掛かったところで払拭される。この日はチケットも完売したようでオーディエンスのリアクションも良く、アーティストを"乗せる"ことにひと役買うことができていたと思う。その気運に呼応するかのように、『When I Grow Up』ではここまでは比較的地味だったブッチ・ヴィグの雷鳴のようなドラミングが炸裂し、続く『Shut Your Mouth』では、またもシャーリーが高いキーで歌い切った。


 『Vow』『Only Happy When it Rains』は重量感を帯び、徐々に場内の熱気を異様なものに変貌させていった。シャーリーの姿を一瞬見失ったが、ステージのへりに腰掛けたか、もしくはステージを降りたかしたような格好で彼女は歌っていた。こうしてまるで1曲1曲がクライマックスという様相を呈し、それは本編ラストの『Cherry Lips (Go Baby Go!)』でピークを迎えた。CDではポップでおとなしめだったというのに、ここではエモーショナルで力強い仕上がりになっていた。


 あまり間を置かずにアンコールに突入。先程のテンションを維持したままに『Not My Idea』が始まり、ラストは『Parade』。こんなにテンションの高い曲だったのかと、またしてもびっくりさせられてしまった。ライヴが終了し、他のメンバーが足早にステージを後にする中、ブッチ・ヴィグがステージ前方に出て来て、場内の様子をデジカメに収めていた。











 セットリストは『Version 2.0』からが4曲と少なく、少し意外だった。だけどこの4曲はもともと曲としての完成度が高く、うち3曲を序盤に持ってくることによって、まずはオーディエンスを引き込んだ。ライヴの大枠を組みたてたのはファーストや新作『beautifulgarbage』の曲となり、こちらはスタジオレコーディングとライヴとのギャップを"武器"として転化できる曲がセレクトされたように思う。


 つまり彼らが手に入れた自信というのは、ソングクリエイターとしての自信と、ライヴパフォーマー=バンドとしての自信の両方なのだと思う。ガービッジ="ごみ"とはとんでもないバンド名だが、そのとんでもないところからスタートして、彼らは着実に成果をはじき出しているのだ。




(2002.2.10.)































Garbageページへ



Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.