The Prodigy 2002.2.6:東京Bay NKホール
プロディジーの来日は98年以来約3年半ぶりで、会場はその98年のときよりも幾分コンパクトになってベイNKホール。なのに、アリーナはともかくスタンドはがらがら。少し複雑な思いがしたが、それでも場内は開演前から早くも薄いスモークが漂い、既に異様な雰囲気が出来上がりつつあった。
まずはオープニング。日本のバンド、マッド・カプセル・マーケッツだ。ステージバックにはバンドのロゴの垂れ幕が下がり、序盤からデジタルビートが炸裂。マッド目当てのファンも結構いた様子で、アリーナは拳振り上げの大熱狂状態。メンバーはヴォーカル、ギター、ベース、ドラムというオーソドックスな編成にプラスして、プログラミングの人がステージ左奥に陣取っていた。約30分のステージは全編に渡って重低音が響き、曲によってはレーザー光線がきらびやかに場内を彩った。
セットチェンジの作業が始まると、いつのまにかステージ右手前にDJブースが用意され、BGM代わりのプレイが始まった。作業が終わってもDJは続き、いつのまにか場内は薄暗くなってDJタイムと化していた。これが約30分続いて、いよいよ場内が暗転する。
最初に姿を見せたのは、リアムとサポートのドラマー。ステージバックにはプロディジーの新しいロゴ("O"の字の中が星型にくり抜かれていた)と、人の頭部にミサイルが描かれた垂れ幕が下がる。まずは2人だけでのイントロ。軍隊のマーチのようなメロディに重いビートがかぶさり、徐々に激しさを増す。ここで黒いコートをまとったマキシムと、黒に赤いラインが入ったぴったりスーツを着たキース、それにサポートのギタリストが登場。そして『Their Law』が始まった!
マキシムは仁王立ちしながらMC。一方のキースは少しふっくらしたように見え(スーツのせいかも)、ステージ上をちょこまかと動き回る。この2人がステージのフロントに陣取る。後方は一段高いセットになっていて、そこでリアムがプログラミング機材やキーボードを操り、その左横にドラムセットがあるという具合だ。曲が終わるとステージが一瞬だけ明るくなり、アリーナのオーディエンスが照らされて、早くも場内のヴォルテージが上がっていることが明確になる。
続いては(たぶん)新曲。重低音をベースにし、キースのヴォーカルパートが増えている。引き締まったデジタルビートで、ダンスチューンとは一線を画したように思える。新曲は恐らく3曲前後演ったと思うのだが、『The Fat Of The Land』のような何もかもをブチ抜いたような爽快さや斬新さはなく、かなり地味なように思えた。ステージ左後方にはミサイル(ロケットかな?)を模したセットが登場。オープニングのイントロといいロゴといい、これが新しいプロディジーのコンセプトなのだろうか。
新曲が地味に思えてしまうのもある意味仕方のないことで、それは『The Fat Of The Land』が如何に革命的で如何に優れた1枚だったかを裏付けているのだ。そしてその素晴らしさが発揮されるのは、CDよりもなんと言ってもライヴ。『Breathe』はサビで大合唱となり、『Smack My Bitch Up』ではいつのまにかコートを脱いだマキシムがステージを降り、アリーナのエリアに突入。アリーナはブロック分けされていて、前方の向かって右がAブロック、左がBブロック。そして後方がCブロックという配置。マキシムはAとBの間の細い通路を歩き、Cブロック前まで来てしまった。その間、ステージではキースがひたすら踊りっぱなしだ。
『The Fat Of The Land』を引っ提げての世界制覇の後、バンドは約2年ほどの休息期間に入った。その間マキシムのソロプロジェクトやリアムのリミックスアルバムのリリースなどがあったが、いざ活動再開というときにダンサーのリロイが脱退~ソロ転向を表明。これはリロイが自ら申し出たものらしく、曰く今後のプロディジーにダンサーは不用だと感じたから、だそうだ。プロディジーが"ダンスバンド"から"バンド"へと変貌したことを、リロイはクールに捉えていたことになる。
この日のライヴがまさにそうだが、ドラムやギターといった生楽器が重要なファクターのひとつになり、デジタルビートをロックサウンドで仕上げているように思う。そしてバンドとしてはより一層まとまりを見せ、機能的なダンス/ライヴ集団になってきている感がある。これは良し悪しだと思っていて、次に何が飛び出すのか予測がつかないという緊張感や期待感が薄れてしまったように思えるし、逆に言えば、活動を続けていくにつれて大人のバンドになったのだろう。
『Poison』では、今度はキースがステージを降りた。セキュリティを引き連れながらアリーナの外側を歩いてCブロック前方の通路に現れ、オーディエンスとタッチを交わす。ひと回りすると今度はAとBとの間を通り、ここでまたまたもみくちゃになる。この間マキシムはステージ上で仁王立ちし、ひたすらシャウトだ。
そしてあの沸き起こるようなイントロが響き、『Firestarter』となる。キースはマイクスタンドを持って現れて歌い、ステージはフラッシュライトで閃光。スモークが立ち込め、いよいよ場内はクライマックスへ。デジタルサウンドやダンスビートの弱点は"飽きられる"ことにあると私は思うのだが、この圧倒的とも言える瞬間を目の当たりにして、飽きなど来ようはずがない。
ここで本編終了となるが、ほとんど間を置かずにメンバーは再登場し、余韻に浸る暇もない。そして『Fuel My Fire』へ。再びマキシムがステージを降り、まずはAブロックの前方へ。ここでしばしシャウトすると、今度はBブロックに行ってシャウトだ。こうして長いようであっという間にライヴは終了。最後にリアム・ハウレットがステージ右前方に出て、両手を挙げて挨拶した。キースやマキシムが好き放題やっているようでいて、後ろで束ねているのはやはりこの男か。
私がプロディジーのライヴを観るのはこれが3度目で、過去2回は98年1月に幕張で行われた単独公演と、その年8月のフジロック'98だった。この2回のライヴには、いずれも前年嵐で中止になったフジロック'97のリベンジをするんだという雰囲気があったように思う。今回はそうした気負いもなく、ストレートに彼らのライヴを堪能。過去2回ではステージがどうこうよりも、自分がその中にいることに満たされていたところがあったが、今回は落ちついて彼らの動きやステージの様子を観ることができた。ただ・・・、
NKホールへ来ていつも思うのは、ここは広いようでいて狭い。いや、正確にはアーティストのライヴが凄すぎる余り、場内が狭く息苦しくなり、圧迫感を感じてしまうのだ。2年前のナイン・インチ・ネイルズも、その前のジェフ・ベックもそうだった。今回のライヴを観て、プロディジーがバンドとしてコンパクトにまとまりすぎていたように思えてしまったけど、これが野外であればもっと開放的になれるのかもしれない。彼らも、そして私たちも。
(2002.2.7.)
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