Radiohead 2001.10.4:横浜アリーナ

前日はグッズ争奪戦に惨敗したので(笑)、この日は午後5時過ぎに横浜アリーナに到着。しかしなんたることか、既に入場待ちの長蛇の列ができていた。とても開場前とは思えない人の多さに唖然。ましてやウイークデーだというのに。結局入場してすぐにグッズ売り場にダッシュ。少しだけ並んだものの、目星をつけておいたTシャツを無事購入することができた。レディオヘッド恐るべしと改めて痛感する。





 午後7時になり、まずはクリニック。今回レディオヘッドの全公演のオープニングアクトを務める4人組で、バンド名よろしく手術着のマスク姿。ヴォーカリストまでマスクしているのだが、どうやら切れ目が入っているらしく、歌うことに支障はないようだ。このヴォーカルの人が核になっている様子で、曲によりキーボードも弾いたり、ピアニカを吹きながら歌ったりする。ガレージパンクのような、ちょっとポップな、とよくわからないグレーな音楽性。約30分のライヴで、この後セットチェンジに約30分が費やされる。





 そして午後8時過ぎ、『The National Anthem』でライヴは始まった。私のポジションは、前日はセンター席14列目。比較的前方ながらステージもスクリーンも見える位置だった。ただ前は通路で、ライヴ中も人が行き来していてそれが気になってもいた。この日は少し前進して7列目の向かって右側。近すぎるステージ。メンバーの細かい動きもはっきりと見てとれ、これだけでもう大興奮だ。音もクリアで、フィルのバスドラも心地よく耳に伝わってくる。トムはギターの弦を切ってしまった。スタートからテンションが高い。


 曲が終わるとステージ上は一瞬だけぴかっと光り、その後明るくなってスタッフが機材の出し入れをする。トムが弾くオルガンを中央まで運んだり、ジョニーやエドのギターを交換したり、だ。前日はこの作業が間延びしているように思えたのだが、この日は手際よくこなしている。よって曲と曲の間がぶつ切りにならずに済んでいる。


 だけどこれは手際のよさだけでなく、演奏そのものが充実しているからだと思う。メンバー全員の集中力が高まっていて、それが有機的に結合して緊張感を持続したライヴが成り立っているのだ。トムが熱唱する『Morning Bell』に続き、前日はアンコールに配されていた『My Iron Lung』『Karma Police』が早くも序盤で放たれてしまう。前日は『Kid A』以後の曲と、以前の曲との温度差に面食らってしまった私だが、この日はそれを感じない。むしろ自然な流れのように思えてしまう。1曲1曲がズシリと重く、クライマックスの連続になっている。こいつらはやっぱり凄かった。レディオヘッド、お前たちはいったいどこに行こうとしているんだ!?





 この日は最終ということもあってなのか、メンバー自身の調子もよさそうだ。ジョニーはコンピューター操作にギターかきむしりにと変幻自在の大活躍。対して一見地味なエドはバックヴォーカルが映えている。フィルとコリンのリズム隊もしっかりしていて、波動が足元からも伝わってくる。そしてトムだが、何かが乗り移っているんじゃないかと思えるくらいに歌にギターにとエモーショナルだ。


 『The Bends』からの『Fake Plastic Trees』。EP盤『My Iron Lung』にしか収録されていない『Permanent Daylight』。更にはまさかまさかの『Pablo Honey』からの『Lurgee』など、日替わり選曲も次々に飛び出す。しかしこれがレアでマニア向けにはなっておらず、ライヴの熱気を分厚くすることに成功し、密度一層濃くしている。


 そして『Pyramid Song』。こんな重苦しい曲をよくもシングルとして切ったものだと最初は思った。だけどそれは彼らだからこそできるワザなのだということに、後で気付かされた。大洪水で水没した世界を戦艦から観たというイマジネーションから生まれた曲なのだそうだが、トムのヴォーカルはここでも冴え、背筋がゾクゾクっとするくらいに美しい。


 『Kid A』で極点に到達したのだから、もっと強気でもっと傲慢に振る舞ってもいいと私は思っていた。ファンもメディアも突き放し、オレたちはもう次のレベルに行ってるぜ、と見下してもいいと私は思っていた。だけど彼らはそうはしなかった。あくまで等身大なのだ。あくまでファンと同じ目線を保持し続けるのだ。彼らはギターバンドであることをやめたのではなく、ギターバンドであり続けながらトータルな表現力を備えたバンドであろうとしている。そうすることこそが実はとてつもなく困難なことであり、今目の前にいる彼らはそれを成しとげんとしているのだ。





 トリプルギターが炸裂した『Paranoid Android』に続き、いよいよ『Idioteque』。打ち込み音が響き渡り、ステージ後方は閃光し、またしても尋常ではない空気が漂う。トムは間奏でマイクスタンドを持ち上げ、客席の方にマイクを向ける。ヴォルテージが高まり、そして阿波踊りのような踊り(笑)。続いてトムはオルガンを前にし、呼吸音がマイクを通して場内に伝わる。先程の踊りが如何に激しかったかをうかがわせ、トムがそこまでやってくれたことに喜びがこみ上げる。


 淡々とした無機的なイントロにぞくぞくし、心が踊る。本編ラストとなる『Everything In It's Right Place』。終盤でトムはオルガンを離れ、スピーカーを伝って向かって左側のスタンド席の方へ。手拍子で煽り、数人のオーディエンスと握手を交わす。ステージ中央に戻り、マイクを握って咆哮。ロッキンオン11月号にトムのインタビュー記事があって、一番調子が出るのは自分でも何をやってるかわからなくなって、体だけが勝手に動いているとき、と語っている。ここでのトムは、まさにそうした状態にあったのだろう。





 最初のアンコールは、前日は聴けなかった『Optimistic』に大感激。寒気をもよおしそうなイントロと、別世界に連れ去られそうなメロディ。『Kid A』を形成する重要ナンバーのひとつだ。続く『You And Whose Army ?』では一転して場内静まり返り、ピアノを弾きながら時折ユーモラスな仕草をするトム。マイクスタンドはピアノの上に置かれているのだが、そこにもカメラが設置されていて、スクリーンはトムを頭部から映している。そして『How To Disappear』のイントロのとき、トムは小さな紙をメンバーに配って歩いていた。あくまで推測だが、2度目のアンコールで予定している曲を変更するのではないだろうか(小さい紙に見えたのは封筒のようです。手紙の内容が気になりますね)。


 その2度目のアンコール。全員グラスを手に登場し、ステージ前方に集まって乾杯し、シャンペーンを飲み干す。来日公演も最終で、ここまでやった、やりとげたという自信と満足感が彼らをそうさせたのか。曲は前日はラストだった『Street Sprit』に続き、なななななんと『The Bends』!!!これは日本のファンに対するプレゼントなのだろうか。確かに場内のテンションは終始高かった。最初は私のポジションが恵まれているからそう感じるんだなと思いこんでいたのだけど、そのテンションは落ちることなく持続していた。それはきっとメンバーにも伝わったのだと思うし、彼らは何かの形でそれに応えたかったのではないだろうか。


 そしてドラマは最後の最後まで続いた。トムが「Neil Young's song ...」と言って始めたラストになる曲は、『Cinnamon Girl』だったのだ!!!フジロックでの怒涛のパフォーマンスも記憶に新しく、また先日のテロ事件チャリティー番組でもひときわ大きな存在感を放っていた、大御所ニールの曲を持ってくるとは!これがほとんど原曲に忠実なアレンジで、彼らの音楽性の一端と懐の深さを垣間見た。











 私を含めこの日会場に足を運んだ人の多くは、観に来てほんとうによかったと満たされて家路についたことだろう。その一方で、レディオヘッドがどれほど凄いバンドなのかを知っていながら、事情があって残念ながら会場に来られなかった人は、後に各所でこの公演のことを伝え聞いて悔しがるに違いない。ほとんど文句のつけようのない、まさに至福のライヴだったのだ。




(2001.10.5.)































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