Radiohead 2001.10.3:横浜アリーナ

会場は人ひとでごったがえしていた。グッズ売り場の前にはうんざりするくらいの長蛇の列ができていて、自販機前はタバコを吸う人が密集して煙たくてしようがなかった。席について辺りを見回してみると、ほぼぎっしりの入り。当日券も出た様子で、スタンド席の上の方の手すりのところにもずらりと人の列ができていた。オープニングのクリニックの途中でグッズ売り場に行ってみると、先程の混雑はすっかり解消されていた。それもそのはずで、Tシャツが全て売り切れてしまっていたのだ。





 クリニックの演奏とセットチェンジをはさみ、午後8時になろうかという時間にやっと真打ちが登場。場内が暗転するとメンバーが走ってステージに現れ、それぞれの持ち場につく。コリンの重低音ベースによって、幕は切って落とされた。今回のツアーの顔とも言っていい『The National Anthem』だ。イントロを引っ張りに引っ張り、ようやくトムの声が場内に響いたときに一段と歓声が沸く。ステージ後方にはシルバーの幕が降りていて、細長い蛍光灯が無数に並べられ、曲に合わせて閃光する。


 フロントには3人のギタリストが揃い踏みだ。中央にトム・ヨーク。向かって左がエド。長身でかなり大柄だ。向かって右はジョニーで、長髪で表情がよくわからない。ラジコンのプロポのような機材をいじり、キーボードを駆使して電子音を発している。後方中央がドラムのフィル。その左手前に陣取り、客席から見ると半身の格好になっているのがベースのコリンだ。


 曲は『Hunting Bears』を経て『Morning Bell』へ。序盤は直近2作の世界観が繰り広げられる。コリンによる重低音が、引き続きサウンドの核となって迫ってくる。が、それも長くは続かない(続けない)。『O.K.Computer』からの『Airbag』『Lucky』につながれるのだが、これが驚異的に説得力を備えている。バンドは『Kid A』によって一段上の高みに行き着いたと思っているのだが、このライヴではそれ以前のナンバーにも新たな生命が吹き込まれているのだ。





 『Kid A』『Amnesiac』で繰り広げられた世界観。これをライヴでどう構築していくかが今回のツアーの見どころのひとつであるはずだ。が・・・、壮大な音楽宇宙にまで到達したはずなのに、当人たちは以前と変わらず、あまりに等身大すぎるのだ。ギターバンドを脱皮して、もっと自由でもっと多彩な表現方法を手に入れたはずなのに、ライヴでは相変わらずギターバンドのままなのだ。これって、どういうこと?


 直近2作からの曲、ここでの演奏の精度が特に悪いことはないのだが、観ていて聴いていて今ひとつ内面に食い込んでくるものがない。やはりあの世界観は、何度もレコーディングを重ねて練りに練った末にはじき出した、スタジオ作業だからこそ成し得たのだろうか。対して『No Surprises』や『Just』といった『Kid A』以前の曲だが、ほとばしるエネルギーといい密度の濃さといい、凄まじい限りだ。客の反応もこちらの方に対して敏感なのだが、これは正しいと思う。というか、こうまで温度差がはっきりしてしまうのは、これが現時点でバンドが成し得るライヴの臨界点だからなのだろうか。


 実はこの日のライヴはミスも多かった。曲の出だしを2度もトチっていたし、トムが投げやりっぽく歌う場面もあった。声は高音も伸びがあったけど、時折苦しそうに絞り出して歌うように見えたこともあった。移動日1日だけをはさんでの大阪~東京(横浜)という日程で、メンバーはちょっと疲れてへばり気味なのかな。





 『Pyramid Song』『Paranoid Android』といったヒットナンバーが並び、いよいよ終盤を予感させる。そして『Kid A』の中でも重要な曲のひとつ、『Idioteque』へ。トムのエモーショナルな歌い方に、尋常ではない空気が漂う。間奏でまるで阿波踊りのような踊りをして(笑)客を煽る。ステージには複数の三脚が立てられていてそれらにはカメラが設置。その映像は両サイドの巨大スクリーンにモノクロで映される。これがなかなか効果的だった。演奏しているメンバーの楽器や指さばきがアップになり、トムがピアノやオルガンを弾くときはその顔がどアップになり、また曲によってはぼかした映像になっていて、このままPVにしてしまってもいい出来になっている。そして・・・、


 トムのオルガン、ジョニーのコンピューターによるイントロ。『Everything In It's Right Place』!!『Kid A』の冒頭を飾り、聴く者を別世界へと誘ったこの曲が、ついに紐解かれた!しかし、CDではジャケットの氷山のように冷たく荒涼としたイメージだったのに、ライヴでは手拍子が自然発生し場内を一体感に持って行く、温かみを帯びた曲に生まれ変わっている。別世界ではなく、今ここに自分が、そしてライヴを観るために集まったみんながいることを実感させてくれる。『Kid A』の世界観は、予想外の形ではあったがここに構築された。これだ!これなんだ!私が観たかったのは。私が感じたかったのは。これまで私が自分の中でもやもやうだうだやっていたことが、ここで吹っ飛んだ。


 曲が終盤になるとトムはオルガンを離れ、手拍子で客を煽りながらステージを動く。まずは向かって右の方に。スピーカーを伝い、スタンド席の直前まで歩き、ピースサインを出しまくる。今度は反対側の方へと歩き、やはりスタンド席まで歩み寄る。この後バンドはトムを筆頭にステージ袖の方に消えて行くが、エドとジョニーが粘りに粘って、感動を少しでも長く維持させようとする。その感動のアウトロは、延々と続いた。





 アンコールは『Like The Spinning Plates』を経て『My Iron Lung』へ。この曲は私がレディオヘッドを聴くきっかけになった曲なのだが、痙攣するようなギターノイズも、敢えて聴き取りにくくしているサビの箇所も、そうしたことからにじみ出る美しさも、色褪せるどころかむしろ厚みを増している。『How To Disappear』でこのアンコールは締めくくられるが、これでもかこれでもかというヴォリューム感たっぷりの演奏に、圧倒されっぱなしである。


 そして2度目のアンコールへ。まずは『Karma Police』なのだが、ここまで演奏されてきた『O.K.Computer』からの曲は、いずれもが凄まじかった。CDで聴くと淡々と続いているように思えたのに、実は1曲1曲それぞれの中にドラマが凝縮されていた。そしてラストはなんと『The Bends』からの『Street Sprit』。いつのまにか、レディオヘッドはすっごい懐の深いバンドになっていたんだなあ。順調と言ってしまうのは簡単かもしれないけど、アルバムを1枚リリースする毎に着実に前進し、成長を遂げてきた稀有のバンドなんだなあ。そしてたっぷり2時間のライヴは、ついにこれで幕を閉じた。





 3年半ぶりの来日は、待ちに待ったライヴのはずだった。なのに開演直前まで私の気持ちは不思議と高ぶらず、むしろ不安の方が先行した。万が一、ライヴがしょぼかったらどうしよう・・・。実際は、前半こそあれこれ考え込んでしまったところもあったけど、後半のテンションの高さはそれを打ち消して余りある密度の濃さだった。最終となる4日の公演は、更に凄いことになりそうだ。やっぱすげえわ、こいつらは。




(2001.10.4.)































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