The Corrs 2001.9.23:東京国際フォーラム ホールA

早い時間に会場入りしたのは正解だったようだ。プログラムとポスターの売り場の前には長蛇の列ができていて、慌ててその列に加わってプログラムを買った。結局それらは開場から30分後には完売。昨年暮れはロンドンはウェンブリーアリーナでの公演を成功させている彼らだが(この公演は10月にビデオとDVDでリリースされることが決まりました)、ここ日本でも確かにファンが根付いていることを実感させた。コアーズ恐るべし。





 開演予定を10分ほど過ぎたところで客電が落ちた。壮大なシンフォニーのイントロがそのまま『Only When I Sleep』のイントロへと引き継がれ、ステージを覆っていた幕が落ちる。メンバーが姿を見せた。ステージは意外やシンプルで凝ったセットはなく、いくつかのスポットが当てられているのみ。『Only When ~』はセカンド『Talk On Corners』の冒頭の曲でもあるのだが、どうやらライヴのトップに配されることが多い様子だ。航海の出発を思わせるようななつかしくもどこか哀感漂うメロディで、バンドの立ち位置を確認するための曲のようにも思える。


 続いては『Give Me A Reason』。フロント中央がvoの3女アンドレア、向かって右が長男ジム、左は長女シャロン。後列は中央にdsの次女キャロライン、両サイドにはサポートのgとbという配置。後列は一段高いセットになっていて、客席からは6人全員の姿がよく見える。3姉妹は黒を基調にした衣装で、3人とも髪を後ろに束ねている。フロントのアンドレアは高いキーの声も透き通っていて、聴いていて気持ちがいい。シャロンはサビではコーラスを、間奏ではバイオリンの音色を映えさせる。そしてキャロラインだが、これが男性顔負けのパワフルで存在感溢れるドラミング。実はここまでCDを聴いたり映像を見たりしていた中、次女キャロラインの位置付けを掴めずにいた。しかしその疑問は、2曲目にして早くも解消されたのだ。


 『Irresistible』の後にアンドレアのMC。「コンニチワ~」という日本語の後、東京公演が昨夜に引き続いてのものであること、ほんとうなら2月に来日するはずだったのに、それができなくて申し訳なく思っていること、などを話す。中止の原因はアンドレアの咽喉の不調だったのだが、不完全な状態でライヴを強行するくらいなら、リスケジュールして万全の状態でライヴを演ったほうがましだ。そして序盤からのこの高いテンションに、今こうしてコアーズのライヴを観れていることの幸福感を噛み締める。





 曲は3枚のアルバムからほぼ均等に選ばれている。アルバムに関しては、枚数を重ねるに連れてケルト色は薄くなってきているように思うのだが、目の前のライヴでは随所にケルト色が見え隠れする。インストの『Joy Of Life』ではシャロンのバイオリンとアンドレアのティン・ホイッスルの音色が映える。アンドレアはくねくねと踊りながらステージを右に左にと動き回り、可愛いというより健気に見える。


 そしてアルバムの枚数が進むに連れて、バンドはポップセンスをぐんぐん伸ばしてきているように思っている。『Dreams』は原曲はフリートウッド・マックなのだが、今やコアーズオリジナルと化した感さえあるくらいに違和感がない。更には男性陣の脇役に徹した演奏も見逃せない。ジムは何度もギターを替え、同じ曲の中でもギターとキーボードを巧みにこなす。このさまに、アン&ナンシー姉妹のバンド、ハートを思い出した。自分たちの売りが何であるのかを、しっかりと熟知した上でライヴを進めているように見える。


 しかし、正直コアーズがここまで精度の高いライヴバンドだとは思わなかった。3姉妹のルックスや、ハーモニーの美しさだけではない。各々がそれぞれのパートをこなし、それらが噛み合って至高の瞬間を何度も生み出している。『I Never Loved You Anyway』ではメンバー全員のパフォーマンスがひとつに結集し、前半のハイライトになった。





 続いては椅子が用意され、サポートの2人が袖に消えてアンプラグドのコーナーとなる。まずはキャロラインがキーボードを担当しての『Runaway』。続いてはそのキャロラインも前に出て椅子に座り、3姉妹がフロントに揃う格好になった『All The Love In The World』だ。こうして見ると、末娘のアンドレアがはしゃいでいるのを、上の姉2人が1歩引いてしっかり支えているという図式が浮かぶ。


 最新作『In Blue』のライナーノーツにシャロンのことばが掲載されていて、それによると『Unplugged』は偶然できたアルバムなのだそうだ。MTVからオファーがあり、面白そうだからとやってみたら、これがすこぶる出来がよかった。でもってアルバムとビデオでリリース。これが大ヒットしてコアーズの名前はワールドワイドになったわけだが、その原動力は美人3姉妹という話題性だけではなく、シンプルな演奏の中でも表現力と説得力を備えることができているからだと思う。そしてこのことは、『In Blue』でバンドが大きく飛躍するための格好のステップになったはずだ。





 再び元のスタイルに戻る。『Queen Of Hollywood』はアンドレアの熱唱が光り、曲が持つ深みを一層増幅させていた。次のインストではアンドレアが袖に消え、シャロンがフロントに立つ。これまたケルト色の濃い曲だが、サポートのギターソロなどもあって結構アドリブが利いた仕上がりになっていた。後半になっても一向に落ちることのないテンションは、最新作からのヒットチューン『Radio』『No More Cry』で更に彩られ、本編ラストは必殺の『Breathless』で締めた。


 ほとんど間を置くことなくアンコール。アンドレアがバンドメンバーを紹介。丁寧に、紹介する人の前まで近づいて名前を告げる。ここで新曲。コアーズは10月にベスト盤をリリースするが、恐らくそこにも収録されている曲で、次のシングルに予定されている曲のようだ。『In Blue』はコアーズのキャリアにおいてピークを極めたアルバムであると思うし、ここでベストを出すということは、彼らは区切りをつけて次のステップに行くことを考えていると思われる。そしてこの新曲は、まさにバンドのキャリアを総括するようなスケール溢れる壮大な曲だ。私はこの曲を、バンドが2月に来れなかったお詫びの意を込めてのプレゼントなのだと、勝手に解釈する。


 これまたコーラスが美しい『So Young』では場内手拍子で一体となり、そしてラストは『Toss The Feathers』。シャロンとジムとアンドレアの3人が寄り添いながら各々の楽器を奏で、キャロラインのドラムソロへとつながれる。こうして要所要所に配されたインストナンバーが、ライヴを引き締めることに成功しているように思った。最後は4人が中央に踊り出て肩を組みながら挨拶し、投げキッスを連発する。





 プロモを除けばコアーズの前回の来日は5年前で、そのときの会場はなんとクアトロクラスだったのだそうだ。いくら歳月が費やされたとはいえ、彼らがここまで大きなバンドになるだなんて、予想できた人はいただろうか。開演前のBGMは、同じアイルランド出身の大先輩にして、今や大御所の仲間入りをした感のあるU2の最新作だった。U2がそうであるように、このコアーズもデビュー時から自分たちのスタンスを変えることをせず、着実に成長を続けている恐るべきバンドなのだ。





(2001.9.24.)































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