Mogwai 2001.4.25:赤坂Blitz
本国イギリスならともかく、ここ日本でモグワイが占める位置はまだまだカルトバンドの域を出ていないのだと勝手に思っていた。会場に入るまでは。がしかし、ウイークデーにもかかわらず場内は満員に近い入り。これもフジロック効果なのかと感じたが、かく言う私もそのひとりだ。こうして再来日してくれたことを素直に嬉しく思うし、そしてライヴに対する期待は嫌が上にも高まっていく。
客電が落ちて場内は真っ暗に。何か意味があるのかそれとも洒落なのか、私の知らないハードロックナンバーがSEとして約5分響く(ブラック・サバスの曲だそうです)。この曲が終わるか終わらないかというときにやっとメンバーが登場。フロントマンのステュアートのギターからアンビエントを思わせるイントロが発せられる。なんといきなりの大作ナンバー『Mogwai Fear Satan』!!意表を突かれ、度肝を抜かれ、思わず声が出てしまった。
もし明日地球が滅ぶとしたら、最後の夜にオレたちはこういうライヴを演るんだ。。。そんな悲壮な決意など彼らがしているはずはないが、この表現が決して大袈裟にはならないテンションの高さと凄まじさだ。続いては『Stanley Kubrick』。穏やかでけだるい出だし、そして徐々にドラマティックに展開されていくサウンドは、モグワイの十八番といったところだろう。場内は相変わらず暗いままだが、それがかえってパフォーマンスに神秘性を与えている。
ステージは中央にステュアート。フジロックのときはサッカー日本代表のユニフォーム姿。最近雑誌で見るフォトではなぜか新日本プロレスのTシャツ姿だったが、今回はスポーツとは関連性のないラフな格好だ。ステュアートの向かって右にひとり、左にも1人で計3人のギタリスト。向かって右のギタリストは曲によって後方のキーボードを弾いたりフルートを吹いたりと八面六臂の活躍。彼は恐らく、『Rock Action』から正式にクレジットされたバリー・バーンズと思われる。そしてそのキーボードセットの横にドラムという配置だ。特段凝った装飾はないが、天井からは大小無数のミラーボールがぶらさがっていて、それが曲調に合わせてきらびやかな光を放つ。
新作からの『Take Me Somewhere Nice』はステュアートがヴォーカルを取る、モグワイが新たなフィールドへの挑戦を打ち出した曲のひとつだ。私は初めて『Rock Action』を聴いたとき、レディオヘッドの『Kid A』に通ずる世界観を感じた。トム・ヨークのヴォーカルは人間の肉声から転じて楽器のひとつとして機能しているが、ここでのステュアートのヴォーカルも同等だと思う。ただトムはロックの終焉、アンチロックの構築のためにこうしたアプローチをとっているが(そしてこれこそがまさにロック的という逆転論法になっている)、モグワイの場合はロックをより一層強く肯定するためのアプローチとしてヴォーカルを導入しているように思える。
もっと『Rock Action』からの曲を中心にして今のモグワイを打ち出して行くのかと思ったが、日本先行でリリースしたとはいえ、それが浸透するには時間の経過を要することを自覚しているのだろうか。よって選曲は意外や新旧満遍なくセレクトされ、キャリア集大成的なライヴとして仕上がっている。静から動への転化が素晴らしい『Xmas Steps』、怒涛のギターノイズとそれにシンクロしたスポットライトの閃光で別世界を作り上げた『Helicon 1』。メドレー演奏はほとんどなく曲と曲の間はすっぱりと切れてはいるが、なにせ1曲1曲が備えている重みが凄すぎる。
本編が終了し、アンコール。大音量が轟き閃光が視界を壊す世界はなおも続く。ラストではdsのマーティンがドラムセットから出てバリーと2人してキーボードを弾き、ステュアートはギターを放り出してステージにうずくまり、機材をいじってノイズを出す。やがてバリーもそれに加わる。ソニック・ユースも顔負けの音の洪水が流れ、幻惑された世界が生み出される。序盤に書いた「もし明日地球が滅ぶとしたら、最後の夜にこういうライヴを演る」という言い回し。観ている方としては、このことを何度も痛感したくなる壮絶パフォーマンス。しかし彼らにとっては、これがほとんど毎夜のことなのだ。
モグワイがスペシャルな存在であり非常に優れたライヴバンドであることに対し、私たちはそれを驚きや感激を以ってでなく、ごく当たり前のこととして受け入れてもいいのではないか。この日のライヴを観て、私はそう思った。今回はBlitzという密閉された空間を完全に自分たちのモノにした彼ら。そして出入り口には、この時点でオフィシャルサイトでも発表されていない、フジロック'01の2日目ホワイトステージ出演の報が手書きで書かれた模造紙が貼り出されていた。
今度は、野外だ。
(2001.4.26.)
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