Bob Dylan 2001.3.3:東京国際フォーラム ホールA

東京初日となるこの日の公演は、個人的にはステージに最も近い座席位置となった。向かって右側で、つまりトニー&チャーリー側。4年前はアンコールでステージ前にオーディエンスが集結して大変なことになった国際フォーラムだが(しかしライヴとしては最高で生涯忘れられないものになりました)、今回はそれを防ぐためか警備員の数がやたらと多く、ちょっと物々しい。


 そしてこれは見なければよかったと後悔しているのだが、なんと1階席後方はガラガラだった(泣)。2階席も同様なのだろうか。秋田では客席が半分も埋らなかったそうだが、東京のディランファンも最終武道館のチケットを取りに行き、国際フォーラムの追加公演は切ってしまったのだろうか。しかしディランの素晴らしさを知るファンであれば、この日ここに来なかったことを絶対悔やむ、そんなライヴをディランはしてくれるに違いない。





 開演時間になるとステージからスモークがわき、15分を過ぎた辺りで客電が落ちるのも今までと同じだ。オープニングは『Duncan And Brady』で、以後は大宮と同じ曲が続く。やはり前日の横浜は異例の大胆な構成だったんだなと自分に言い聞かせつつ、メンバーをチェック。この日のボブ・ディラン一座、ラリーとトニー、チャーリーはカーキ色のスーツ(横浜では確か黒だったと思う)。今までドラムセットに埋もれてほとんどその姿を拝むことができなかったデヴィッドはかろうじて頭部だけを確認できて、クリーム色のテンガロンハットを被り、サングラスをしていた。ディランはお馴染み黒いスーツで、白いラインは模様が並んだものだということがわかった。


 チャーリーは彫りの深い顔立ちをしていて、アイドル時代の面影を残している。あまり客席の方を向かず、うつむいてギターを弾いていることが多い。トニーは上体を前後に揺らしてリズムをとり、笑みを浮かべて楽しそうにベースを弾く。"職人"ラリーは表情こそ長髪に隠れてよくわからなかったが、ディランに忠誠を尽くすが如く、どの楽器を弾くときでも"座長"ディランをしっかりと見ている。





 5曲目からエレクトリックに移行。ここでまたまた変えてきた・・・。リズム隊がしっかりしたロックナンバー。私はその場では全くわからなかったが、『Down In The Flood』だったのだそうだ。原曲はアコースティックだし、反応できずともムリはないか。続くは『Tonight I'll Be Stay Here With You/今宵は君と』。う~む、マニア向けというか、かなりハイレベルな出題だ(笑)。


 この日は東京初日だし、オーソドックスなセットリストに戻したんだななんてアコースティックのときは思っていたが、見当違いもいいとこだった(汗)。そして『Tombstone Blues』!私が聴きたかった曲のひとつで、これはとっても嬉しかった。原曲とも『MTV Unplugged』とも違うアレンジで、コチラもサビが歌われるまでわからなかったのだけど(苦笑)。


 ディランのステージアクションだが、特に左足がブラブラと動く。見様によっては内股にも見えるが(笑)、あれがディラン独特のリズムの取り方なのだろう。ギターを持つ位置はラリーやチャーリーに比べてもかなり高い。そしてこの日は、心なしかステージ上をアグレッシヴに動き回っているように感じた。





 この日は中盤以降はエレクトリックが中心になったが、そうした中で名曲のひとつがアコースティックで炸裂した。『Master Of War』!!なぜか私自身としては、ディラン本人より『30th Anniversary』でエディ・ヴェダーが切々と歌い上げた姿の方が頭にこびりついているのだが、ついに本家をナマで観ることができた。原曲は張り詰めた緊張感がびしびしと伝わるような曲調だが、ここでは少しはぐらかしたようにやんわりとしている。もし私がディランの自作ベストアルバムを年代順に並べて作るとしたら、この曲をアタマに持ってくると決めている。それくらい好きな曲なのだ。続く『Love Minus Zero/No Limit』はラリーのラップスティールが冴え渡り、ディランは優しくしっかりと温かく歌い上げている。


 再びエレクトリックに戻り、いよいよ終盤。『Drifter's Escape』に似たロックビートで押し切る曲は、実は『The Wicked Messenger』だった。ラストではブルースハープを披露。ハープはディランの真後ろの機材の上に用意されていて、ひとしきり歌いギターを弾いた後ディランはギターを右手に抱え、客席に背を向けてハープを手に取り振り返って吹きまくる。そして本編ラストは『Everything Is Broken』!!日替わりは60'sの曲が多かっただけに、これまた意表を突かれてしまった。





 『Love Sick』で第二幕スタート。演奏の精度が日を追うに従って上昇し、曲が更に磨かれ研ぎ澄まされていると感じるのは私だけなのか。ディランはここに来てまだ進化を続け、ディランの曲も進化している。ステージが赤く染まり、ライトがメンバーの足元から照らされて、ディランの大きな影がステージバックに映る。華奢で小柄なディランだが、ほんとうのこの人の大きさはバックに映る影よりも大きいのだ。


 ここでやっとメンバーを紹介し、続けて場内の空気を一変させる必殺の『Like A Rolling Stone』!!この曲も観るたび聴くたびにイメージが変わる。この日が初めてだった人は違った感想を持ったかもしれないが、私にはバンドがリラックスし楽しむようにして演奏しているように見えた。それでも「how does it feel?」には背筋がゾクゾクしたのだけど。


 『If Dogs Run Free』。大宮や横浜では私が気付かなかっただけなのかもしれないが、アコースティックはディランのみで、ラリーとチャーリーはエレクトリックギターだった。場内はジャジーな雰囲気に包まれるが、ここでまた電撃のイントロが炸裂する。


 『All Along The Watchtower/見張り塔からずっと』。94年や97年の来日公演では必ず3曲目に歌われ、今回はアンコールで重要な役目を担う。しっかり調べてはいないものの、もしかしてこの曲はネヴァーエンディングツアーで毎夜歌われ演奏されている唯一の曲なのではないか。94~95年のジミー・ペイジ&ロバート・プラントのツアーでの『Gallows Pole』のように、言わばこの"終わりなき旅"のテーマ曲に位置する曲なのではないか。


 続く『It Ain't Me Babe』は初日の大宮とも違うアレンジ。しかもここで再びディランのブルースハープが披露される。日に日にハープの使用率が高くなっていて、ただただ嬉しくなるばかりだ。この後は『Highway 61 Revisited』『Blowin' In The Wind』の必勝リレーで締めくくられる。トータルの時間は少し短くなってしまったが、それは結果論で、ディランのこの日このときのあり方として、文句などあろうはずがない。











 同じ曲でもアレンジが違ったり歌い方や声が変わったり、というのは今やディランの専売特許のようなもの。だけど、この日の日替わり曲はほんとに原曲を崩しまくっていた。ボブ・ディランは、ずっと昔に書いた曲でも昨日書いた曲のように思うのだという。ライヴに臨むとき、その曲を初めて聴く人のことを思って演奏するのだという。リピーターでもライヴに足を運ぶ度に新しい発見がある。こんな素晴らしいアーティスト、こんな素敵なアーティストって他にいるかい?





(2001.3.4.)
















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