Glen Matlock 2000.12.3:On Air West
開演の30分ほど前に会場に入ったのだが、個人的にはロイド・コール以来4年半ぶりとなるOn Air Westはこんなにも狭かったのかというのにまずびっくりし、そしてその狭い場内があまりの人の少なさでスカスカなのに重ねてびっくりしてしまった。こりゃSmashもinvitation cardを配布したくなるわけだ。
とはいえ、場内には革ジャン姿や革パンツ姿の客も多く見受けられ、数が多い少ないではなくパンクに傾倒しパンクを支持しているファンも根強く存在しているのだな、ということを実感。そうこうしているうちに客電が落ち、シンプルでまるで飾り気のないステージセットにメンバーが入場する。
グレン・マトロックは今年フィルシュタインズというバンドを従えアルバム『Open Mind』を発表、ソロ活動を始めたようである。今回はもちろんそれに伴う来日公演。フィルシュタインズは、以前マトロックが活動していたリッチ・キッズのメンバーや、ジョー・ストラマーやニック・ケイヴのツアーバンドを務めたことがあるメンバーなどで構成されている。
ライヴは『Open Mind』からの曲を中心にして進められていると思われ(私は未聴)、革ジャン姿のマトロック本人を含むバンドのテンションは意外なほど高い。そしてバンドの演奏力も驚くほど高く、gの人による早弾きも何度か披露される。サウンドはというと、やはりパンクミュージックを踏襲したロックンロールになっていて、今年はいったい何年なんだろう(笑)と思ってしまう。
たとえばこれがディープ・パープルのライヴであるならば、ここには新しいものは何もないが、しかし失われたものも何もない、と完璧に開き直ることができる。客が求めるのは70's黄金期のナンバーであり、演る側もそのニーズにしっかりと応えたライヴをするだろう。しかし、そういった拡大再生産的スタイルを否定したのがパンクであったはずなのに、その当事者のひとりのグレン・マトロックがかつてのパンクミュージック的手法を今になって用いているのは見ていてあまりにも厳しい。
旧来のロックにツバを吐いて"No"を叩きつけ、バッサリと斬って落としたパンク。ロック史上に瞬間最大風速を巻き起こしながら、しかし自らが仕掛けた罠にかかり、すぐさま衰退していったパンク。その一過性すら潔いとされてきたパンク。そうしたスタイルを「カネのため」という大義名分のもとに裏切った、96年の期間限定オリジナルピストルズ再結成。この最大の"禁じ手"を既に使ってしまっていることで、グレン・マトロックが今パンク・ミュージックを発していることの説得力を見い出すことができない。
そしてどこかで客が期待していたであろう、ピストルズのナンバーもついに飛び出してしまった。序盤5曲目くらいに『Problem』。更に1回目のアンコールに『Pretty Vacant』。もちろん場内の歓声が最も高まったのはこの2曲のときなのだが、私にとっては複雑な想いが一層強くなるだけだった。
酷な見方かもしれないが、グレン・マトロックが自らの名を冠せずに今回のソロ活動を展開していれば、ここまでごちゃごちゃと考えることはなかったかもしれない。マトロックはピストルズのオリジナルメンバー。どうしたって元ピストルズという看板はつきまとうし、そしてそのピストルズはパンクバンドの中でも最も延命を許されないバンドなのだから。結局、パンクロック=ロンドンパンク=ピストルズ、という図式が今なおあまりにも強過ぎるのだ。この夜のライヴはそうした固定観念を覆し、今なおパンクミュージックを発しなければならない必然性を示すまでには至らなかったと感じている。
(2000.12.5.)