Lou Reed 2000.10.25:赤坂Blitz
チケットの売れ行きが苦戦しているとの噂だったが、それはほんとうに噂にすぎなかったようだ。ウイークデーにもかかわらずBlitzの1階フロアはすし詰め状態。ルー・リードのファンはこんなにいたのかと妙に感心し、そして安心する。
開演時間を5分ほど過ぎて客電が落ちる。ルー・リード自ら先陣を切ってステージに姿を見せる。が、その格好にまずびっくり。黒い革パンツに黒いTシャツ。袖からは引き締まった上腕がのぞき、その上には黒いベスト。つまり全身黒づくめだ。この格好、ルーの気合いの入りようを表わしている。
『Paranoia Key Of E』でスタート。ノイジーでメタリックなイントロはアルバム収録の原曲を更にスケールアップさせていて、これだけで観ていてゾクゾクして体が震える。g、b、dsとgを持ったルーという最小にして最強のバンド編成が、出だしから異様な緊張感を生み出している。そしてこれがいきなり10分を越える大作に。このテンションの高さ、この気合いのみなぎりよう、いったいどうしたというのだ。
ここ数年のルー・リードのライヴは、直立不動で淡々と演奏をこなししかしその視線は鋭く光り、というストイックな感じだった。まるで修行僧のようなその姿は、幾多の音楽活動を経て到達した90'sのルー・リードのあり方はこうなんだなという説得力を備え、それはそれでカッコよかった。
しかし今ここにいるルーは違う。今やアルバム『Rock'n Roll Animal』でしか聴くことができない、ギラギラした危険な香りのするアグレッシヴでストレートなスタイルだ。70'sの若き頃のルーはきっとこんなだったに違いないと思わせるに充分。しかし、この全身から発せられるパワーは何なのだ。3曲目の『Modern Dance』は、もうこれでライヴが終わってしまうのではと思えるくらいの渾身のパフォーマンス。この場に居合わせた私たちは、とんでもないものを目の当たりにしている。そしてこれから、もっととんでもないことが起こる予感がする。
『Ecstacy』ではルーはギターを持たず、まずはオーディエンスに背を向ける。リズムに合わせてヒップをパンパンと叩き、そして振り返るとくわえタバコだ。もう20世紀も終わろうというこのとき、ここにある空間はヴェルヴェッツの時代や『Berlin』のときのような、場末の酒場のような雰囲気だ。ルー・リードは今年58歳になるが、25歳は若返ったかのではないかと錯覚するくらいに凄まじい。
中盤には意表を突く『Smalltown』。原曲はルーとジョン・ケイルによる静かで落ち着いた曲調だが、ココではパワフルでノイジーなエキスが注入され、新たな別の曲に生まれ変わっている。そして『Romeo Had Juliette』。現在のルーのスタートライン的位置付けの曲だと思っていて、だけどこの曲も原曲から大きく変貌。テンポが引き上げられ、それに合わせてマシンガンのように歌詞を連発するルー。ライヴアルバム『Take No Prisners』でも見せていたように、現在世に乱立するラッパーの元祖はこの人に違いない。
今年発表されたアルバム『Ecstacy』は今だ現在進行形であることを立証してみせた渾身の力作で、その勢いがそのままライヴにも持ち込まれている。ライヴもこの新作からの曲が中心になって進むのだが、どの曲も充実していて見応え聴き応えたっぷりだ。『Rock Minuet』『Tatters』という、比較的穏やかに始まる曲までもが演奏が進むに連れてスケールを増し、いつライヴが終わってしまってもいいくらいの圧倒的なエネルギーを放っている。このままライヴ収録してライヴアルバムにして発表してしまってもいいだろうと思えるくらいの素晴らしいライヴだ。
本編ラストは『Set The Twilight Reeling』。静から動に転化し緊張感が増していくさまはこの日のライヴ中何度も見られたことだが、それを凝縮したような1曲になった。そしてアンコール。ここまでがあまりに完成度の高い内容だったので、まだ続きがあるのかと逆に疑ったくらいだ。『Sweet Jane』『Vicious』、今まで数限りなくルーのライヴで演奏され続けて来たであろう、必殺のナンバーだ。
そして2度目のアンコール。最近のライヴで定番ナンバーになっている『Dirty BLVD.』。そしてラストは『Perfect Day』だ!!この曲は代表作『Transformer』に収録されてはいるが、当時はそれほど重要視された曲ではなかった。それがデュラン・デュランが95年にカヴァーした辺りから再評価の気運が高まり、97年にはチャリティー曲としてボノやブレット・アンダーソン、更には本人をも含む総勢30人にのぼるオールスターキャストでシングルカットされた。多くの若きミュージシャンにリスペクトされ、ルーが成し遂げてきた仕事がどれだけ重くそして意味のあるものだったかが、またしても証明されたのだ。
92年に発表された3枚組Box Set『Between Thought And Expression』のライナーノーツに、『Berlin』をプロデュースしたボブ・エズリンのコメントが寄せられている。ルー・リードほど過小評価され続けて来たアーティストはいない、と。全くその通りだ。たとえ年齢がいくつになろうともこの人は曲を書き続けるだろうし、アルバムを発表した後はツアーに出るに違いない。私はロックを聴くことでルー・リードにめぐり合えてほんとうによかったと思っているし、こういう人こそ報われるべきなのだと勝手に盛り上がっている。
(2000.10.26.)
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