宇多田ヒカル 2000.8.23:千葉マリンスタジアム

レイジ以来の幕張。そして会場は、先週はB'zのライヴが雨のため途中で中止になってしまった千葉マリンスタジアム。夕方になっても蒸し蒸ししていて顔面からは汗が出っぱなし。千葉で海沿いといえども苗場や富士急のように夜は涼しく、とはならないんだなあということを痛感する。そして白い雲が立ち込める空。雨降らんでくれよ。





 まだ完全に陽が沈み切らない中、客電が落ちる。モニターにパソコン画面のCGが表示され、宇多田ヒカルからのメッセージがタイプライターのように打ち込まれる。そして意外とも言える激しいギターソロが響く中、いつのまにか宇多田ヒカルがステージ中央に立っている姿が確認できた。


 オープニングは『Addicted To You』。TVの歌番組とほとんど違わない、あのちょっとかすれた声がスタジアム内に響く。しかしこの曲のイントロは、まんまブランディー&モニカの『The Boy Is Mine』だ。シングルカット当時、なぜ話題にならなかったか不思議だ。


 序盤は『タイムリミット』『Time Will Tell』などのシングルのカップリング曲を披露。宇多田ヒカルが今までに発表したシングルのカップリングはシングル曲のリミックスやカラオケバージョンでお茶を濁されることが多い。そうした中のこの2曲はなかなかの佳曲だと思っていて、ライヴを構成するファクター足りえているのも納得である。





 最初のMC。この日がツアー最終であること、曲の出し惜しみをしないこと(笑)などを話す。宇多田ヒカルは黒いキャミソールに短いパンツ姿。動きやすさ重視か。そして、父親でマネージャーのテルザネ氏は、ステージの袖の方からライヴの様子をチェックしているのだろうか。


 バンドは結構大所帯。dsはなんとツインだ。そしてダンサー3人がステージを彩る。洋楽R&B系アーティストを強く意識したような流れだ。そしてライティングも鮮やか。曲が終わると場内は暗転し、始まるとステージは明るく照らされる。このように、序盤は歌そのものよりも視覚を重視した内容になったと思う。これはこれで素晴らしいが、果たして3万3千のオーディエンスは退屈しないだろうかという不安もよぎる。


 a~ha『Take On Me』のカバーには、歌そのものよりも場内が反応してざわつくのが見ていて面白かった。中盤には衣装換えタイムがあり、その間ダンサーがデュラン・デュラン『Notorious』に併せて踊る。





 最終ということで本人も気合が入っているのか、ツアー中にわずかしか演らなかった『はやとちり』を披露。そしてここからはなぜか"昭和の歌"コーナー。まずは尾崎豊の『I Love You』。が、途中で歌詞を間違えてしまい、自ら「わーごめんなさーい」と言って中断。応援の拍手がこだまする中再開し、今度はちゃんと歌い切る。続いてはなんと山口百恵の『プレイバックPart.Π』。『Take On Me』は我流というか、サビの歌い上げに無理を感じたが、コチラは原曲に忠実で、かなりハマっている。


 意外というか、まるで幕の内弁当のようなにぎやかな選曲の後は、『Movin' On Without You』でしっかりと引き締める。序盤の少しまったりとしたムードはここで完全に払拭。そして個人的には、ココがライヴのハイライトであったのではないかと思う。宇多田ヒカル自身、デビューから今に至るまでその変貌ぶりは激しく、そのスピードも速い。メディアにさらされ話題にのぼる中、実は彼女自身の方がその一歩も二歩も先を行っているのではないか、とも思う。振り回されてるのは私たちの方なのかもしれない。


 さすがにMCも頻繁で、その中でも恒例になりつつある?モノマネコーナー。山崎まさよしは本人が封印したとのことで、椎名林檎のマネで『罪と罰』の出だしを歌う。…あまり似てない(笑)。


 スーパーウルトラゲスト(笑)なる彼女からの紹介があって、出てきたのはジミー・ジャム&テリー・ルイス。プリンス・ファミリーのひとつ、モーリス・デイ率いるザ・タイムの元メンバーであるが、むしろその名はジャネット・ジャクソン『Control』やマイケル・ジャクソン『History』のプロデューサーとして馳せている。そしてジミー・ジャムはkey、テリー・ルイスはbとしてバンドに加わり、この2人がアレンジャーとして参加した『Wait & See』が本編ラストを飾った。





 アンコール。なぜかバンドメンバーがコスプレで登場。dsがセーラー服、ターンテーブルがエルヴィス・プレスリー、などなど。彼女もコスプレしたく、ミニスカポリスの衣装を用意したそうだが、動きづらいのでやめたのだそうだ。機会があったら写真は公表したいとのことである。


 フレディ・マーキュリーのカバー『Living On My Own』などを含め、いよいよラスト。『First Love』のアップテンポバージョンだ。ダンサー含め、ぴょんぴょん飛び跳ねながら歌う宇多田ヒカル。そして歌が終わり、バンド全員が整列して肩を組みながら挨拶する中、球場の外から花火が上がった。モニターからはスタッフのクレジットが流れる中、花火は延々と続く。続く。10分近くも続き、ライヴの最後の幕を飾った。














 ツアーそのものがアリーナクラスの会場。そして追加3公演は千葉マリンスタジアム。優秀なスタッフやブレーンが彼女をバックアップしていたとしても、デビュー2年、そして若干17歳ということを考えれば、これだけの規模のコンサートを成立させ、そしてオーディエンスを満足させてしまうのだからやっぱり宇多田ヒカルはすごいな、と素直に思った。この後は振替公演となる徳島が残ってはいるが、彼女はコロンビア大学へ。大きく環境が変わったところで、新たな便りと新たな彼女の歌が届けられるはずだ。




(2000.8.25.)



















Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.