Oasis 2000.3.7:横浜アリーナ

横浜公演最終日のこの日は、初日の29日に続いてノーザン・ブライトのオープニングアクトでスタートした。ステージは黒い幕で覆われ、彼らの機材はその幕より前に設置。vo&gの青年が控え目にMCして1曲1曲丹念に演奏するさまには好感が持てたのだが、UKギターバンドに触発されてバンド始めました~というように受け取れるサウンドは、果たして市場にニーズがあるのだろうかという不安もよぎらせた。アルバムが翌日に発売されるそうだ。


 機材撤去とステージ整理に時間を要し、時刻は早午後8時に。ワタシの座席は、5日の公演を更にしのぐセンター席4列目の、今度はGEM&アンディ側である。後ろを振り返って場内全体を見渡すと、2階席には空席が目立つ。チケットが余るなんて、オアシス来日以来初めてのことなんじゃないか。しかし、この日はもう始まる前から雰囲気が違っていた。開演前から自然発生的に拍手の渦が巻き起こる。オーディエンスの"気"が充満しているのだ。「何か」が起こる予感がする。


 客電が落ちる。『Fuckin' In The Bushes』が流れる。歓声が怒号へと変わる。まさに導火線に着火した瞬間だ。メンバー入場。ノエルはラフなTシャツ姿。リアムは、adidasのジャージに赤いスカーフ。顔色良さそうだ。そして『Go Let It Out!』へ。














 って言うか、ちょっと待ってくれ。














 何なんだ。どういうことなんだ。














 5日のときはハラハラしっ放しだったリアムのノドの調子が最早全快に近いのは言うまでもなく、そのリアムのハイパー・ヴォイスが最初から場内を貫いている。そればかりかノエルのgも、アラン・ホワイトのドラミングも、アンディもGEMも、つまりはオアシスがバンドとして、ライヴパフォーマーとして見事に"機能"しているじゃないかっ!!アルバム『Giants』はライヴ映えする曲が少なく、これを今後どう克服して行くかも彼らに課せられた課題だろうと痛感したばかりなのに、それが早くも成し遂げられつつあるじゃないかっ。そのまま『Who Feels Love?』へと繋ぐが、この全身を襲う衝撃は何だ。このこみ上げてくる感動は何なんだ。


 私は5年半もかかって、私にとってのオアシスが何であるのかを5日の公演のときにようやく探し当てた。同時にその5日の公演は、バンドが生きるか死ぬかを賭けた壮絶な戦いだった。それはマラソン最中に骨折し、ふくらはぎから骨が飛び出たランナーが、顔面を蒼白させながらもなんとか完走を果たした姿に酷似していた。あるいは、配色が濃厚だった試合を土壇場で引き分けに持ち込んだような状態に酷似していた。勝利も、記録も、そこにはなかった。だけど、オアシスが再び世界をかけめぐるために踏み止まらなければならないギリギリの特俵で、彼らは持ちこたえて見せた。


 5日の公演で自己の立ち位置を再確認し、目指すべき照準をしっかりと定めたオアシスは、以後はひたすら驀進するだけなのだ。私は6日の公演は観ていないが、恐らく5日よりは締まったライヴになったものと想像する。そして今夜。もうオアシスは無敵だ。不沈艦だ。迷うものも、ためらうものも、もう何もないのだ。ひたすら突き進むだけなのだ。





 そしてこの日はオーディエンスのテンションも高かった。共に素晴らしい時間と空間を共有するためにこの場に集まった、愛すべき仲間たちだ。これまで私が体験したどのオアシスのライヴでも、すきま風が吹くようなどこかスカスカな雰囲気があった。それを払拭できないバンドが悪いのか、それとも周囲に煽られてオアシスを観に来ていて、実はオアシスのことをよく知らない輩が多いのか、とにかくこれだけはいつも残念でならなかった。それが、今夜はそんなすきま風など吹き込む余地すらないのだ。


 新メンバーであるGEMとアンディ・ベル。2人にはほとんどピンスポットが当たらない。アンディは終始うつむき加減で、ステージに背を向けている場面も結構見られる。GEMの方はそれでも若干のステージアクションと、オーディエンスに対して愛想を振り撒いたりしていて少しいじらしい。ツアーはまだ始まったばかりで、彼らが自分がオアシスのメンバーだと自認できるようになるまでには、まだ相当の時間を必要とするのかもしれない。オアシスのメンバーとしてプレイできる喜びというよりは、何とか食いっぱぐれなくて済んだ安堵感の方が勝っているのかもしれない。


 5日のときのリアムは、自分が歌わないときはしゃがみ込んだり、うろうろとステージ上を徘徊したりしていて、それは見様によってはやる気のない腑抜け状態、惰性に流されたような様にも受け取れただろう。だけど、もともとがリアムはこんな性分だし、過去に観たライヴでもこんなだったし、別に昨日今日に始まったことでもないし、むしろ私は好感を持っていた。変わってないんだなコイツ(笑)。バンドがどんどんビッグになり、取り巻く周囲の状況が激変しても、本質的にはコイツはデビューのときのまんまなんだね、って。


 それが、だ。この日のリアムといったらどうしたことか(笑)すこぶる機嫌が良いようだ。目の前のオーディエンスを指差して直立不動は止めようぜ、もっと踊ろうぜ楽しもうぜ、というような素振りを見せていたり、ノエルとのふた言み言のやりとりやアンディとのアイコンタクトもあったりして、やたらリラックスしているように見える。そして肝心の歌の方はというとこれがまるでバケモノ、鬼神のような存在感を示している。リアムこそがオアシスの中心核、というのが私が辿り着いたオアシス像であり、同時にそれはオアシスはライヴバンドにあらず、というひとつの結論の根底ともなった。しかし、そんなゴタクはものの見事に突き崩されてしまったのだ。今持って底知れぬパワーを感じさせる稀有のヴォーカリスト。そして私にとってはエディ・ヴェダーと並ぶ、90'sを代表するヴォーカリストである。


 『Acquiesce』のサビ、及び"ノエルコーナー"の2曲にはますます磨きがかかり、ストーンズのキースコーナーやエアロスミスのジョーペリーコーナーとは最早段違いであることを痛感させる。リアムの出来がバンド全体の出来を大きく左右する舵取りならば、ノエルコーナーはライヴの最低ラインをキープするためにあるような気がしてきた。














 ライヴ後半は怒涛の代表曲攻撃で一気に攻め、本編が終了する。そしてアンコールは前夜も演奏されたという『Helter Skelter』だ。コレはノエルがvoを取って進められる。終盤にて"バンド"オアシスのコンビネーションが冴え渡る中、不意にリアムがステージに登場。向かって左側のアリーナ席にふらふらと歩み寄り、何人かのオーディエンスと握手を交わす。そしてステージ中央に舞い戻って最後に放たれたのは『Rock'n Roll Star』!!


 「今夜、オレはロックンロールスターなんだ!」そうだ!その通りなんだ!これでもうライヴが終わってしまうという寂しさが、バンド渾身の集中力によってかき消される。最後の最後、リアムはステージ中央の手前スピーカーにまで踏み込み、両の腕を真横に突き出してガッツポーズをとる。この日は最初から全開、どの曲も異様なまでに高いテンションが維持されて突き進んできたが、このラストの瞬間こそが臨界点、至福の瞬間だった。横浜アリーナが、今夜だけはアールズコートに化けた。ウェンブリー・アリーナに、化けたのだ。





























 ニューアルバム『Standing On The Shoulder Of Giants』は、そして新生オアシスのワールドツアー幕開けとなった今回の来日公演は、我々ファンにとっての踏み絵だった。試されていたのは、状況が激変した中でリスタートしたバンドだけでなく、実は私たちもそうだったのだ。ここでオアシスから離れるか。それともとことんまで付き合っていくのか。





























私は思い知った。私にとってオアシスがどれほど切実なバンドであったのかを。





























そして私は決めた。確たる信念を持ってオアシスを徹底的に支持することを。





























最高の、夜だった。





























(2000.3.8.)
















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