Skunk Anansie 2000.2.16:Club Quattro
フジロック99で私が観ることのできたバンドの中で最高と思えるパフォーマンスを見せてくれたスカンク・アナンシー。私を凍りつかせ、驚愕させ、そして感動させてくれたスカンク・アナンシー。その単独再来日公演がなんとクラブギグだ。極近で見れると喜んでよいものやら、日本ではそんなに売れてないのかと悲しんでよいものやら。
客電が落ちSEが鳴り響く中、なぜかサンダーバードのカウントダウンが始まる。そして『Charlie Big Potato』のイントロに。メンバー登場。歓声が一層高くなる中、最後に登場したのがスキン。まるでボクサーのような漆黒のガウンをまとい、フードをかぶっていて表情が見えない。うおおおおおっ。ついに「来た」。ついに「始まる」んだ。
ロックは生音に優るものはない。『Charlie Big Potato』は荒れ狂う猛獣のような「動」と凍りつくような「静」とが交互に繰り返される曲調なのだが、これがCDで聴く以上にはるかにメリハリが効いていてゾクゾクする。途中でフードを取り、顔面をあらわにするスキン。弓のようにしなやかな体型ながら軽快なステップで縦横無尽に動き回り、マイクスタンドをブン投げ、スピーカーによじのぼり・・・と、まるで挑発するように仕掛けてくる。いったいこんな細身のどこにこんなエネルギーが潜んでいるのか。
続いて不協和音のようなリフで始まる『Selling Jesus』。デビューシングルでもあり、今なおバンドの"顔"的位置付けの曲である。突き刺すようなギターのリフ。突き刺すようなドラムとベースのリズム。突き刺すようなスキンの歌声。突き刺すようなステージパフォーマンス。bのキャスとgのエース、それにスキンの3人でジャンプを決める。か、かっこいい~♪ここでスキンはガウンを脱ぎ、ノースリーヴのシャツ姿になる。
この「刺す」という感覚が、スカンク・アナンシー最大の魅力だと思う。それが最初から炸裂しているのだ。注目はどうしてもスキンにばかり集まるが、他の3人も屈強な体からあらん限りのパワーを自らの楽器に、ステージに叩きつけている。スカンク・アナンシーは出し惜しみしない。最初からフルスロットルだ。今世界で、こんな熱いライヴをやってのけるバンドが他にいるか。こんな凄いライヴをやってのけるバンドが他にいるというのか。場内は最早沸点に達している。しかし、そんなのは当たり前のことなのだ。
日本で今ひとつブレイクし切れてないことを羨むより、今間近でこの炎のようなライヴを体感できていることを喜ぶべきだ。bのキャズは『Twisted』でフロントに立ってベースラインを効かせ、曲がクライマックスに差し掛かるとドレッドヘアを振り乱しながら激しいバトルを繰り広げる。片やgのエースも負けておらず、大きな体をのっしのっしと前後に揺らして動く動く。エースはかぶっていたニットの帽子をスキンに剥ぎ取られてスキンヘッドをあらわにされ、そしてそのアタマに噛みつく素振りを見せるスキン。最後方のドラムセットに巨体を収めて窮屈に見えるロビーだが、リズムの要としての役割を充分以上に果たしている。『Weak』では乾いたドラミングが炸裂しまくりで、前3人に少しもひけを取っていない。つまり4人が4人とも凄すぎるのだ。レイジをクラブで観たらきっとこんなだろう、と思うぐらいの凄まじさである。
『Tracy's Flaw』『We Don't Need Who You Think You Are』では、静から動へのせり上がり、そして再び静に引き戻される叙情の世界を突き付けられる。そこでなんとオーディエンス最前の柵に足をかけて上がり、そのまま歌い続けるスキン。慌ててセキュリティーが走ってきてスキンを後ろから支え、そしてスキン直下のオーディエンスもスキンの足にしがみつくようにして支えている。
戦闘モードを思わせる『I Can Dream』。半身になって身構えながらシャウトするスキン。まさにライヴの場でこそその真骨頂が発揮される素晴らしい曲で、ここでついにダイヴ発生。とにかく、ここまで1曲1曲がズシリズシリと重く、満足感というか満腹感というか、とにかく異常なまでに濃いのだ。もうココでライヴを打ち切られても文句も出ないくらいの密度である。
一転してスロウな『Secretly』に。私がフジロック99の"歌"として挙げさせてもらった、凍りつくような妖しさを備えていながらもはかなく、そして美しいバラードである。そしてステージはスキンとアコースティックギターに持ち替えたエースの2人だけとなり、『You'll Follow Me Down』へ。手拍子に包まれる中、リラックスした様子でgを弾くエース。そして優しく包むように歌い込むスキン。場内は、何か肩の力の抜けた、アットホームな雰囲気に一転する。サビのトコロでは手拍子が止み、スキンの声だけがクアトロ中に響き、染み渡る。
再び他のメンバーが戻り、スキンにはgが手渡される。『Lately』である。私が勝手に"希望の歌"と名付けている、前向きで未来を目指すかのようなアップテンポの曲だ。細身の体にg(リッケンバッカーに見えた)は重そうに見え、それでもスキンは直立不動ではなくアグレッシブに動きながら歌う。『Milk Is My Sugar』ではキャスとエースがお互いを刺激するようなバトルを見せ、それがスキンの「sweet,sweet,sweet...」という妖しい囁きとエロティックな腰使いに集約される。『The Skunk Heads』ではまたもや柵の上に立ち、不安定な足場をものともせずにシャウトするスキン。オーディエンスにマイクを差し出して一緒に歌うようにあおった。さっとステージを後にし、本編はここで終了する。
アンコールは『We Love Your Apathy』でスタートだ。先程と同じくオーディエンスに向かってマイクを差し出す。アクティヴにステージ上を右に左に動き回る。と、間奏に入ったそのとき・・・、
整理番号が早かった私はステージ真正面のかぶりつきには向かわず、ステージ向かって左のカウンター最前に陣取ってずっとライヴを楽しんでいた。その私の目の前のカウンターにスキンが足をかけて、なんと上がって来ようとしているのだ。
スキンを引っ張り上げようとして必死で足を掴む。私の後ろの人も、手を差し出して引っ張り上げようとする。セキュリティーも慌ててスキンを支える。これがもし重心が後ろにかかってスキンが転倒でもしたら大変だ。絶対に引っ張り上げなくてはならない。
そのままカウンターの上を歩くスキン。既に場内の真ん中辺りまで来ている。未だかつて、クアトロのカウンターをこんなふうにして伝ってきたアーティストなど皆無だろう。そして曲が再開。どうやら女のコがひとりカウンターに上がり、スキンと肩を組みながら踊っているらしい。歌うスキン。マイクを差し出すスキン。応える場内。熱くなる場内。なんという光景なんだ。なんという瞬間なんだ。こんなことがあり得るのか。こんなことが、起こり得るのか。
曲が終わり、歩いてきたカウンター席を戻ってステージに向かうスキン。そのときに私の前をもう1度通り過ぎる。ちなみに私はカウンターに上着を置いていて、それはものの見事にスキンに踏まれていた。ライヴ中、汗をぬぐうために絶えず手に持っていたハンカチも、スキンが飛び込んで来たそのときにほっぽり出してしまっていた。
ステージに戻ったスキンを迎え、『Hedonism』を切々と演奏する。先程の騒ぎがウソのように場内は静けさに包まれる。この後スキンのMC。ヴァージンジャパン(つまりEMI)に対する感謝、そしてフジロックどうこうと言う(去年のことを言っているのか、それとも・・・?うまく聞き取れなかった)。その後、なぜか「バイバイ」と言ってステージを後にしようとする。他のメンバーもステージを去ろうとする。しかし、みんな笑みをうかべている。もちろん場内は拍手と歓声でメンバーを引き戻そうとする。
再びそれぞれの位置に戻るメンバー。半身になり、場内を静めさせるスキン。ラストはもちろん『Little Baby Swastikkka』だ!「See you tomorrow~」のスキンの最後のセリフで、この日のライヴは幕を閉じた。
帰宅した私は嫁をスキンに見立てて、「スキンがこうやって目の前のカウンターに上がってきてさぁ~」と、子供のように無邪気にしゃべりまくっていた。その少し後にNHK-BS2でグラストンベリー99の再放送があった。放送順からいって恐らく大トリだったと予想できるが、『You'll Follow Me Down』『Little Baby Swastikkka』の2曲がオンエアされていた。深くなった夜の闇と何万人ものオーディエンスを前にして弾けまくるパフォーマンス。それはまぎれもなく、わずか2~3時間前は目前で観ていたあのスカンク・アナンシーだった。
(2000.2.19.)