Primal Scream 2000.2.11:赤坂Blitz

追加公演が日程的に日本公演初演になってしまうのはままあることだが、今回のライヴほどそれをラッキーに思ったことはない。そして、何度となく赤坂Blitzには足を運んでライヴを楽しんでいるが、この日のライヴほどBlitzが狭いと感じたことはなかった。いい意味でも悪い意味でも。





 開演時間ほぼきっかりに客電が落ちる。が、テクノ系のSEが引き続き流れるばかりで一向にステージ上はがらがらの状態。これが10分近く続き、あらららどうしちゃったんだろう、って少し不安になったときにおもむろにメンバーが走ってステージに姿を見せる。もっと演出効かしてカッコよく出てくるものとばかり勝手に想像していたので、なんだか肩透かしだ(笑)。でも、こうした飾らないところもプライマルの良さのひとつ。


 ボビーの「マザーファッカーーー!!」「アーユーレディーーー!?」などのMCがあった後に『Exterminator』でスタート。ボビーを中心にするようにしてg×3人+マニが取り囲む。ドラムセットは奥の右側に、keyが左側に、管楽器コンビが中央に陣取る。私は顔を知らないのだがもしかしたらマイブラのケヴィン・シールズもこの中にいるのか。このメンバーがずらりと並び立つ姿を見ただけで、もういいようのない感動に襲われる。90'sを駆け抜けた歴戦の勇士プライマル。2000年になった早々に私たちを震撼させた力作『XTRMNTR』を放ったプライマル。続いての『Shoot Speed / Kill Light』で場内はタテノリに。ステージの両脇には小さなスクリーンが設置されていて静止画像が映し出されているが、それが曲が替わるのに併せて差し替わる。私の体はどんどん発汗している。体温が上昇しているのでは、と感じる。興奮しているのだ。ぞくぞくしているのだ。


 更には『Burning Wheel』へ。嫌でもフジロック'98を思い出してしまう。あのひたすらクソ暑かったベイサイドスクエア。そして2日目グリーンのトリ前ステージを務めたプライマル。そのフジでも、今回も改めて感じたこと。マニの加入はバンドそのものが生まれ変わったかのような新たな血の注入だった。後のプライマルはひたすら上昇の気運にあり、『Vanishing Point』はそののろしであったはず。それは今回の『XTRMNTR』にて更に開花し、バンドはまさにキャリア最高の状態にあることを感じさせてくれる。そしてそれは、それまでの作品もまるで別の曲に変貌させてしまった勢いがあるのだ。ステージは赤いスポットライトが飛び交い、幻惑されたような錯覚に陥ってしまう。『If They Move,Kill'em』では管楽器コンビのフルートとサックスの音色がエレキサウンドと妙に噛み合って不思議な味わいを見せる。ボビーはマラカスを手にステージ上を右に左に軽やかに動き回る。


 そのボビーは相変わらずひょろひょろ。髪を切り、こざっぱりとした風貌になって少し凄みを帯びているように見える。そしてマニ。今更ローゼズ時代と比較するのもナンなのだが、やたらアグレッシヴで、とても自由にライヴを楽しんでいるようだ。入場時にラッキーストライクの試供品と一緒に、折り曲げると青く光るプラスティック製のブレスレットが配られた。それが、ライヴ開始時から絶えずステージ上に投げ入れられる。dsの顔に当たったりもしていて、個人的にはあまりいい気はしなかったのだけれど、拾ったりキャッチしたりして投げ返すボビーやマニ。このへんは余裕なのか。





 『XTRMNTR』は『Vanishing Point』で会得したデジタル的アプローチがベ−スになってはいるが、同時にこれまで変幻し続けてきた過去の作品全ての要素を集約した集大成的な様相も見せている。そして決定的なのは、この作品がパンクのスピリットを感じさせることだ。『Pills』で「fuck」を連発するボビー。『Kill All Hipples』で放たれる高らかな叫び。インストナンバー『Blood Money』で連れ去られる錯綜の世界。その全ては怒りに帰結している。それは浮き沈みを繰り返してきたバンド自らのあり方に対して向けられているのか。それとも、自分たちを認めようとしなかったメディアやファンに対して向けられているのか。


 イノヴェーターは時に時代に先んじてしまい、我々凡人の理解の及ばぬところにまでブッ飛んでしまうことがある。70'sのデヴィッド・ボウイがそうであったように。80'sのプリンスがそうであったように。90's初頭のU2がそうであったように。そしてこれらの偉大な先人たちは、やがて時代にリンクし、時代をリードし、そして自らのオリジナリティーを打ち出した傑作アルバムを打ち出すことで落とし前をつけてきた。プライマルにとっては『XTRMNTR』がまさにそれであり、コレ1枚によってプライマルは90'sに乱立したUKロックバンドからアタマ1つ飛び抜けることに成功したのだ。というか、最早UKだアメリカだという枠組を考えることさえバカバカしく思えてくるくらいのパワーを備えている。今この"音"に触れずして、この"音"を聴かずして他に何を聴く。


 今やバンドの代表曲にのし上がった感のある『Rocks』。場内の温度が、熱気が急変する。U2がどこまで走っても『Pride』を失わないように、プライマルのこの1曲といったらやはりコレになるのか。しかし、敢えて言うならばこれも新たな血を輸血されて生まれ変わった曲だ。更には今回の先行シングルとなった『Swastika Eyes』『Kowalski』に、いよいよクライマックスが到来したことを感じさせる。場内の空気が濃い。密度が濃い。息が詰まりそうになる。額から汗が流れ落ちる。ステージは『Accelerator』でいったん幕を閉じる。曲が終わるや否やさっと引き上げるメンバー。














 アンコールは『Higher Than The Sun』で幕を開ける。今更改めて言うまでもない、91年に打ち立てた金字塔『Screamadelica』からである。このアルバムは90'sを代表する名盤にはなったが、しかしその後のバンドのあり方には大きなプレッシャーにもなったのかもしれない。そこでバンドは色々と試行する必要があった。実験に走る必要があったのかもしれない。しかし、こうした経緯を経た今のプライマルは無敵だ。不沈艦なのだ。そして『Movin' On Up』へ。序盤は最新作『XTRMNTR』から攻めて、後半はシングルヒットの連発。そしてアンコールはこれだ。出来過ぎだろう。やりすぎなんじゃん(笑)。














 ここでライヴが終わっても不思議ではない状況だった。出口に向けてぞろぞろと人が歩き出す。・・・だけど、客電はまだつかない。まさか?ひょっとして・・・?


 再びのメンバー登場!そして放たれたのは、なんと『Kick Out The Jam』!!問答無用のMC5の代表曲である。プライマルのバンド名をそのまま冠したセカンドアルバムがガレージロックなのは今更説明不要だが、そのファクターが最早こんなトコロで飛び出すなんて!さすがはプライマル。予定調和を自らブッ壊す痛快さ。こうでなくっちゃ。そう来なくっちゃ。



































 ライヴ会場というのは果たして狭ければ狭いほどいいのだろうか。そりゃ狭い方がより近くでアーティストを観ることができるけど。今回のライヴをBlitzで観れたことはよくもあり、そして同時に息苦しくもあった。ビートルズやストーンズがライヴハウスで演ったら恐らくこんな感じなのでは、というくらいに息苦しかった。プライマル・スクリームのライヴには、最早ライヴハウスは狭すぎると思う。例えば2年前のプロディジーのときのような幕張の会場や、もしくはいっそ野外で演ってしまってもよかったと思う。密閉された空間よりも、解放された空間で何千人も何万人もが集まってひとつになる、という方がより楽しめると思うのだ。




(2000.2.12.)































Primal Screamページへ





Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.