John Paul Jones 99.12.10:渋谷公会堂
なんだなんだなんだ、グッズがほとんど売り切れてるじゃないかっ!残っているのはポロシャツとベースボールシャツなのだが、これがXXLサイズしかない。そして場内もほぼ満席。先日エリック・クラプトンのライヴに足を運んだときに今回の公演のチケットも売っていたので、やっぱり余ってんのかなと思ってしまったのだが、どうしてどうして。ソロアルバムのプロモで数ヶ月前に来日しているものの、ジョン・ポール・ジョーンズが日本でライヴを行うのは実に72年のツェッペリンの公演以来のことである。筋金入りのツェッペリンファン(敢えてこう言いきってしまおう)が東京は元より各地から集結したということか。
午後7時7分、客電が落ちる。バンドメンバーが姿を見せる。アルバムレコーディング時は、スティックベースにトレイ・ガン(キング・クリムゾン)、ドラムスはピート・トーマス(ジ・アトラクションズ)という超豪華メンバーだったが、さすがにツアーにまで動員するのは困難だったらしい。バンドは3人編成で、最後にピエール・リトバルスキー・・・じゃなかった(笑)、ジョン・ポール・ジョーンズが登場する。場内どよめく。おおっ。ジョーンジーだ。ホンモノだ。生きててよかった(笑)。
暗いステージの中、ジョン・ポール・ジョーンズ(以下JPJ)がベースギターを手に。な、なんとネックのところが光っている!場内再びどよめく。そしてソロアルバムのタイトル曲でもある『Zooma』でスタート。上体を揺さぶってリズムを取りながら重いベースラインを効かせるJPJ。今回のソロアルバムは、全体にキング・クリムゾンを思わせるサウンドで(参考までに、アルバム『Zooma』はロバート・フリップ尊師のディシプリングローバルモービル・レーベルより発表されている)、まるで音が目に見えるような緻密さがライヴでも完全に再現されている。しかし、3人のコンビネーションはどことなくちぐはぐに受け取れた。
続いては『Goose』を演奏。そしてマイクスタンドの前に立つJPJ。挨拶、そして曲の紹介をする。ジミー・ペイジと同様、か細い声で聞き取りづらい。そして『Grind』へ。この曲の演奏途中、JPJはベースをスタッフに手渡し、キーボード盤のような楽器を演奏し始める。キンキンした金属音が響き渡り、パフォーマンスのギアがシフトチェンジしたように感じた。これはキーマと言って、コンピュータと12弦ベースが融合した楽器だそうだ。その盤を支える足には、なんとあのマークが!円と交差する3つの弧、つまり『Led Zeppelin Ⅳ』にあしらわれたJPJのシンボルマークだ。
アルバム『Zooma』は、全曲インストのアルバムである。自分のソロとはいえ、JPJは自分で歌うこともせず、ヴォーカリストを器用することもしなかった。そして、それが功を奏していてとっても聴き応えのある音になっている。クリムゾンがかったサウンドがベースになっているのは既に書いたが、それでも随所にツェッペリンを彷彿とさせるフレーズが飛び出して来るのだ。世の中的にもネット上でも『Zooma』やJPJのライヴはそれほど話題になっていないが、アルバムを手にした人はラッキー、こうしてライヴに足を運んでいる人はもっとラッキーである。キング・クリムゾンとレッド・ツェッペリン。このロック界に燦然と輝く2大巨頭の融合が、間接的ながらも果たされたサウンドだからだ。
そして最初のクライマックスが。もそもそと何をしゃべっているか聞き取れないMCの後、今度はホンモノのキーボード盤の前に立つJPJ。『No Quater』のイントロ!そうだ!そうなんだよ!ペイジ・プラントもこの曲をライヴで演った。MTVアンプラグドのビデオタイトル、そして新曲も併せて収録されたアルバムタイトルは、なぜか『No Quater』だった。だけど、だけど、この曲といったらこの人なんだよ!JPJなんだよ!ツェッペリン再結成にニアリーイコールだったペイジ・プラントのプロジェクトにJPJは声をかけられず、本人はとても悔しい想いをしていたに違いない。その無念を晴らすかのように鍵盤を叩く音が染み入り、場内に響き渡る。ノンヴォーカルで99年に蘇った『No Quater』。感動だ。
ライヴは15分の休憩をはさむ2部構成の形をとっており、『No Quater』の後は3曲ほど演奏して第1部は終了する(うち1曲、『You Shook Me』のブルースバージョンのような曲があったのだが、JPJの曲なのかアレンジを施した曲なのかは結局判別不明。場内も無反応だったし、やっぱ違うのかなあ?)。「This Is John Paul Jones Orchestra!」と言って2人のメンバーを紹介するJPJ。スティックベースの人はなんと元カジャグーグー!ノースリーブで上下つながった黒の衣装。ただし、下はスカートになっている。
第2部。JPJがひとりで登場し、ギターソロをおっぱじめる。なんとこのギターがトリプルネック(もしかするとギターにベースの弦を加えた楽器なのかもしれません)!どこぞのメタルバンドでもこんなの使わないぜ。しかし、次から次へとユニークな楽器が登場するな。もともとツェッペリン時代でも、ベーシストとしてはもとより、メロトロンも奏でていたし(これが既にクリムゾンとの接点だったのか?)、不朽の名曲『Stairway To Heaven』のイントロで笛の音色を入れているのもJPJその人である。
『Base 'n' Drums』では、なんと『Heartbreaker』のフレーズが!いやはや余裕というかなんというか。そして第2の爆弾が!原曲はダイナミックなイントロだが、この日はそれがキーマから発せられ、電子音がかって張り裂ける!『When The Levee Breaks』!!!なんかもう、"!"の大安売りだが(笑)、これを目の当たりにした、目の当たりにできた衝撃と感激といったら表現のしようがない。『Led Zeppelin Ⅳ』のラストを飾る大作であり、ツェッペリン時代にはたった1度しかライヴ演奏されなかった(ペイジ・プラントでは果たして・・・?)、一見地味ながら聴き応えがあり、体の奥底からパワーがみなぎってくるような力強いナンバーなのだ。場内が一気に沸点に達したまま『Tidal』へとなだれ込み、本編が終了する。
アンコール。JPJの登場に数人がスタンディングオベーションで迎え入れ(ここまではほとんどの人が座っていた)るが、テンポ良く歯切れのいいイントロが始まった瞬間に場内総立ちになる。『Trampled Underfoot』!!JPJのキーボードさばきが冴え渡り、本家ツェッペリンナンバーの裏モノ的様相を呈してくる。しかし、この感動はなんなのだ。このテンションの高さはなんなのだ。このライヴ、なんだか童心に返ってしまって、パフォーマンスのひとつひとつに素直に喜び、感動してしまっている自分がいる。が、それでよいのだ。
2度目の、そしてほんとうにこれがラストだ。幕引きを飾ったのは『Black Dog』だ!!ここにはロバート・プラントの野性的なヴォーカルもない。ジミー・ペイジの耳に焼き付くギターリフもない。もちろん、ジョン・ボーナムの破壊的なドラミングもない。しかし、ベースギターと電子楽器を駆使したJPJによる大胆なアレンジはとても素晴らしい。それを必死で支える2人の舎弟も期待以上のテクニックとエモーションをぶつけている。この公演は日本最終公演。そして、JPJ自身の今年最後のライヴなのだ。
私は3年前にペイジ・プラントの武道館公演を5回観た。観たばっかりのJPJのライヴと、歳月の経過と共に記憶が薄らいでいるペイジ・プラントのライヴを単純比較はできないのだが、今回のJPJのライヴの方が満足度が高いような気がする。
ジミー・ペイジもロバート・プラントも、あまりに偉大なツェッペリンのキャリアを重荷に感じてしまい、ツェッペリン的な手法から離れよう離れようとしていた時期が長かった(ツェッペリンのフロントだった2人には仕方のないことなのかもしれないが)。ではJPJはどうだったか。ツェッペリン解散後、プロデューサーやアレンジャーという、自分がフロントに立つというよりはむしろ裏方に徹していた。一方ではライヴエイドやアトランティック40周年記念でのex-ツェッペリンには必ず馳せ参じていた。
つまり、JPJはツェッペリンとしての活動を誇りに思い、いつも大事にしていた。その一方で、時代に対しても敏感であり続けた。その彼だからこそできた『Zooma』。その彼だからこそできた、ツェッペリンナンバーの大胆な解釈。大胆なアレンジ。ツェッペリンのオリジナル最終作となった『In Through The Out Door』は、バンドの新たなベクトルを示した作品だった。その牽引役だったのは、他ならぬジョン・ポール・ジョーンズであったという事実を忘れてはならない。もしレッド・ツェッペリンに悲劇が起こらず、そのままこんにちまでバンドが延命することができていたならば、もしかしてこの日のライヴのようなスタイルになっていたのかもしれない・・・なんて、想いを馳せてみる。
(99.12.12.)
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