Atari Teenage Riot 99.10.1:赤坂Blitz
久々の会社帰りのライヴで、スーツ姿のまま午後7時過ぎに赤坂Blitzにたどり着く。場内はTシャツ姿の軽装の客がほとんどだ。今回はShizuo、Feverを従えての"Revolution Action Japan Tour"としての来日。ステージでは既にライヴが始まっているらしく、グッズ売り場まで音が漏れてきている。2階席のチケットを取っている私は汗だくの顔をハンカチで拭き、入り口でもらったチラシに目を通しながら少し休む。メインデイッシュのアタリまではまだそうとう時間があるはずで、序盤からチカラ入れてると最後まで持たない。7時半ぐらいに席につく。ステージ上には、voというかラッパーの人とマシーンを操る人の2人組。私はShizuoもFeverも全く知らないのだが、今回の来日記念として発売されたマキシシングルのライナーから察するに、彼らはFeverらしい。音の方は、強烈なビートが炸裂するハードコア、という感じとは程遠く、けだるいリズムにヒッピホップをかぶせたような感じに思えた。Feverのライヴは約50分ほど。続いては8時過ぎに登場したShizuo。"シズオ"なのに、どう見ても日本人じゃない(笑)。こちらの方は金切り声のようなメタリックノイズが響いている。Feverのときはオーディエンスの反応はあまりなかったが、Shizuoのときは1階フロアでは結構モッシュが発生し、歓声も湧いていた。
Shizuoのライヴも終わり、ステージ上の機材入れ替えが済んで時刻は既に午後9時。翌日が土曜日で、会社が休みであることをありがたく感じる。しかし、なかなかアタリは登場しない。10分...。20分...。な、長いな。なんでこんなに待たされなくっちゃいけないのか。なんかトラブルでもあったのか。まさかまだ会場入りしていないんじゃ?ノイジーなSEが鳴り響くものの、なんだか眠くなってきた。ああ、ここまで散々待たされて、アタリがショボかったらどうしよう・・・、と、考えが悪い方悪い方へとばかり進んでしまう。早く出てきてくれえ。
午後9時半。ついに客電が落ちた。オーディエンスの「オイ!オイ!オイ!・・・」という歓声に応えるようにして、雷のようなノイズが氾濫し始める。そしてアレック・エンパイアとハニンが最後に登場する。
「アターリィー・ティーーン・エイィーージ、
ラアアアアイィイイーーー!!」
ハニンの甲高い声が響く。アルバムまんま、いやそれ以上のインパクトだ。マイクにはエコーがかかっているようだ。ノイズの音量だけでも物凄く、これだけでもうFeverもShizuoも吹っ飛んでしまいそうなくらいに圧倒的なのに、ハニンの肉声はこのノイズに全然負けていない。アタリがショボかったら、だなんて邪推もいいとこで、とんだ取り越し苦労だった。
"Destroy"というのが彼らのアティテュードを示すキーワードの1つのようだが、今まさに体験しているこのライヴに、まさにそれをつくづく痛感させられる。このノイズは洪水だ。この音量、この情報量、とても両耳では受け止め切れない。鼓膜が破れてしまいそうである。ステージ上は、港を照らすサーチライトのような照明が無数に放たれ、そしてフラッシュのようにびかびかと閃光する。これには視神経がヤラれてしまいそうだ。おのれの体がブッ壊されてしまうんじゃ、っていう危機感に襲われてしまう。
しかし、アタリはサンプラーを駆使した単なるオペレーターではない。政治的なメッセージ性を帯びたその叫びはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンにも通ずるであろう。コソボに対するNATOの軍事介入に反対するデモに参加して警察に逮捕されてしまったというニュースは記憶に新しいところである。そしてこのステージ上でも、政府のいいなりになるくらいなら死んだ方がマシ、というキツいメッセージを投げつけている。ここに来るまで、ライヴはハニンの独壇場的な感じだったが、アレック・エンパイアの発することばの節々に、つたない英語力ながらもシビアな空気を感じ取ってしまう。
「Revolution!!」
「Action!!」
「Revolution!!」
「Action!!」
「Revolution!!」
「Action!!」
アレックとハニンの掛け合いが続き、それに追随するようにしてどらを叩き鳴らしたかのような爆裂ビートと無数のフラッシュライトが場内を襲う。新作『60 Second Wipe Out』のトップであり、顔的な曲であり、そしてある意味アルバム中最もキャッチーな『Revolution Action』だ。
私が数多くコンサートに足を運ぶのは、客電が落ちてから繰り広げられる日常と遮断された異空間、別次元に連れ去られてしまったような感覚の中にいるのが大好きで、今や病みつきのようになってしまっているからだが、このアタリのパフォーマンスほど私のこの想いに対してぴったりなライヴはないような気がしてきた。アタリはフジロック'97にも'99にも出演しているのだが、私は'97のときはレイジとバッティングしていたために見れなかった(というよりこの頃はアタリの存在をまるで知らなかったのだが)。今年の春、フジロック'99出演決定のニュースと限定ボーナスディスクに釣られる形で『60 Second Wipe Out』を買って聴いたのがファーストコンタクトだったのだが、'99ではケミカル・ブラザーズを見ていたために、アタリのライヴはここまで体験することがなかったのだ。
事前に『60 Second Wipe Out』や『Future Of War』を聴いてみたとき、私はふとあるアルバムを取り出して聴いてみたくなった。それは、ルー・リードの『Metal Machine Music』である。1975年発表の当時は2枚組のアルバムで、しかしその内容は全編電子音の洪水で、発表当時はクズ扱いされ、ルー・リード自身も後に謝罪したとまで言われているアルバムである(これには否定説もある)。ルー・リードといえば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代の各アルバムが"早すぎた傑作"として語られることが多いが、片や『Metal Machine Music』は早すぎたどころかロック界から抹殺されかり、このアルバムについて語ることもはばかられていた時期があったほどである。
その『Metal Machine Music』が90'sに入ってついに市民権を得てCDとして復刻を果たしたが、それはすなわち90'sのミュージシャンたちがこのアルバムに込めたルー・リードのスピリットを継承していることの証明に他ならない。そしてこのアタリのライヴ。私の勝手なイメージではあるが、アタリもまた『Metal Machine Music』の文脈を継承しているのではないか。『Metal Machine ~』の邦題は「無限大の幻覚」だった。そして、今眼前で繰り広げられている『Future Of War』の絶叫と閃光と軋みの交錯は、そして断続的に響くサイレンの音は、まさにここがどこなのかを忘れさせ、私たちを終わりなき幻覚へと誘っているのである。
本編は1時間ほどで終了したが、「オイ!オイ!・・・」という歓声に迎えられてメンバーが再登場。ハニンの「ドゥー、ユゥー、ワーン、モォー!?」という挑発的な叫びでアンコールが幕を開ける。そしてまたもや不協和音の洪水へ。そしてまたもや閃光が炸裂する幻惑の世界へ。
ラストの曲が終わり、他のメンバーはステージを後にする。だが、アレックだけはそこに留まり、マイクスタンドを持って最前のオーディエンスに向ける。
アターリィー・ティーン・エイージラアイィ!!
アターリィー・ティーン・エイージラアイィ!!
アターリィー・ティーン・エイージラアイィ!!
アターリィー・ティーン・エイージラアイィ!!
マイクを向けられ、それを掴んだオーディエンスが口々に叫ぶ。1人。1人。また1人。おのおのがおのおのの肉声で、アタリ・ティーンエイジ・ライオットと連呼する。アレックはサンプラーに戻り、ノイズを出し始める。そして拳を振り上げ、オーディエンスを煽る。煽る。そのままアレックはステージを去るが、オーディエンスの叫びはやがて合唱となり、場内が明るくなってもしばらくの間続く。これは再度のアンコールを求める叫びではなく、あまりにも密度の高かったパフォーマンスに対する歓喜の叫びだった。
(99.10.3.)