Manic Street Preachers 99.2.7:赤坂Blitz

なんと公演日1週間前に手に入れたチケットでライヴに臨んだこの日の私。結構大胆だと自分でも思う。しかし、相手ははや5年ぶりの来日となるマニックス。しかも5年前とはバンドの置かれている状況も、音楽性も大きく異なっている。そして昨年発表の新作『This Is My Truth Tell Me Yours』はバンドのキャリア最高作。まさに今がピークと言えるだろう。逃すわけにはいかない。


 久々にBlitzの1階スタンディングのフロアに足を踏み入れる。すし詰め状態だ。私はPAのすぐ左側に陣取ってみる。客層が今1つわからない。革ジャンを着た中年のイカしたおばさまもいる。カップルも結構いる。ファーストからのファン、新作からのファン、いろいろと混在しているように見える。


 定刻の午後6時をだいぶ回っているのに、一向に始まる気配がない。場内で流しているテープも1周し、マリリン・マンソンの『Beautiful People』を2度も聴くハメになってしまう。6時35分を過ぎた頃だろうか、ふとPAの方に目をやるとスタッフがヘッドフォンで何か聞きつけ、機材を操作する。するとテープのヴォリュームが下がった。いよいよ登場か。





 ジェームス、ニッキー、ショーン。ニッキーは向かって右。そしてサポートのkeyが向かって左に位置する。スタートは『Everything Must Go』。ジェームスいい声だ。場内大合唱、そして大モッシュとなる。ボディーサーフも発生している。前日が横浜アリーナだったせいもあり、やっぱりライヴハウスはめちゃめちゃステージに近い。こんな近くでマニックスを見れるなんて・・・。思わずじぃんとしてしまう。それは、ここにいる全ての人にとって同じ想いのはずだ。わずかな間奏の間にも歓声が沸く。





そう、



みんな、



この日を、



この時を、



ずっと、



待っていたのだ。



 続いては新作からの『You Stole The Sun From My Heart』。明るい希望、未来、前進。新作の曲は、全てバンドの今のあり方を暗示しているように感じるのは、深読みしすぎだろうか。サビに入る前、ジェームスの「イチ、ニッ、サンシ」の呼び声がかかる。そこでまたまた大モッシュ。激しい。最初から激しい。ジェームスはくるくる回っている。あまりカッコよくない(笑)。




「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、Kevin Carter~」


 ジェームスは、どうやら全曲を演奏前に紹介するらしい。なんて親切な(笑)。私は、正直4作目の『Everything Must Go』は、ピンときていなかった。やはり、リッチー失踪と、その不在に対しての明確な対処、明確な見解が出せないままに制作された作品だから、だろうか。しかも、皮肉と言っていいものか、この作品は全英で大ヒットしてしまい、マニックスは本国のファンに"認められた"のである。そういった背景を把握した上でアルバムを聴く限りでは、どうしても首をひねりたくなる。がしかし、ここでこうしてナマで聴くこの曲は、切れ味がいい。今のバンド、私が危惧するよりもはるかに上を行っているのか。


 BeatUKの掲示板で2/5の大阪公演のセットリストを知っていた私だが、しかし、この次の曲には「え?」と思った。なんと、ファーストからの『Stay Beautiful』!これは大阪では演奏されていない曲だ。正直ビックリである。今回のツアー、かなり日本向けになっているのか。しかし、客の反応はすこぶるいい。初期からのファン、やはり多数を占めているのだろうか。初期のマニックスは、アメリカン・ハード・ロックのような曲調が多いのだが、ライヴ向けであろう。


 そしてサード『The Holy Bible』のトップを飾っている『Yes』。このときはまだリッチーが在籍しており(いちいちこんな注釈をつけてしまうのが情けない)、前2作からもひと皮むけた、「○○のような」とか「××っぽい」という形容を許さない、マニックスサウンドが最初に結実した作品だと思っている。そして、この曲は今回のツアーでは地元でも演奏されていなかったらしい。まさに日本向け、なのか。ジェームスが安部公房や三島由紀夫の熱心な読者であるということは昨年10月のジェームス単独のプロモ来日の折に知ったが、思いの他親日家なのだろうか。


 続いては『Tsunami』『Ready For Drowning』と、新作からの曲が続く。新作『This Is My Truth Tell Me Yours』が発表されたとき、正直私はよくわからなかった。この時点での私のマニックスに対するイメージといえば、初期の2作品だけだったからだ。あまりに異なる音楽性、そして、CDショップの試聴機で聴くには1曲目の『The Everlasting』は静かすぎた。そして、長すぎた。この曲を6分も突っ立ったまま聴くことは、苦痛でしかなかった。それが、初回限定プレスに惹かれて買ってしまい(下衆な動機だ)、夜眠るときのBGMとして聴くと、この『The Everlasting』がいやに心に染みるのだ。毎晩のように繰り返し聴いた。繰り返して聴くうちに、この作品が得難い作品、奇跡の傑作のように思えてきた。今回の来日公演、『The Everlasting』は大阪のみで以後演奏されなくなってしまって少し残念だが、このアルバムの曲はどれをとっても聴きどころのある曲が多い。


 ジェームスが「old song・・・・sweet home Alabama」とか言っている。まさか、と思ったらほんとにイントロからやってやがんの(笑)。そして、『Baby Love』(ダイアナロス&シュープリームス)を経て『Motown Junk』へと至る。場内大歓声。が実は、『Baby Love』~『Motown Junk』へと至る過程は、ライヴビデオ『Everything Must Go』でも確認でいるので、きっとツアーでは必ずやっていることなのだろう。そして、『Motorcycle Emptiness』へ。このあまりにも典型的と言える初期の代表曲を今のマニックスが演奏してしまうこと、そして、それに過剰に反応してしまう観客。私は逆に、醒めてしまった。ジェームスは、ニッキーは、これらの曲を今でも演奏することに抵抗はないのだろうか。それとも、もう吹っ切れたのだろうか。乗り越えたのだろうか。克服したのだろうか。





 あの「解散宣言」、そしてその撤回。4REAL事件。その「事件」そのものは、今はもう時効だろう。しかし、彼らは、本当に吹っ切れたのだろうか。本当に克服したのだろうか。なんのためらいもなく、初期の曲を演奏できるのだろうか。それともう1つ、私は、新作が渾身の力作であり、それまでの4作品とはまるで次元が違うところにブッ飛んでしまったと思っている。新作からもっと選曲されてもよいのではないか、という違和感を感じた。どうしてどのアルバムからも満遍なく選曲されているのだろうか。どうして新作が1/5なのだろうか。私の勝手な想いだけど・・・。


 そして、その新作からの第1弾シングルにもなっている『If You Tolerate This Your Children Will Be Next』へ。イントロを聴いた途端、背筋に電流が走ったような衝撃を受ける。決して激しい曲ではないのだが、ここには圧縮された美しさがある。彼らの、魂が、にじみ出ている。それを、ひしひしと感じる。前作『Everything Must Go』では明確にできなかったこと、踏み出せなかったこと、それが、ここにはあると思う。


 ここでジェームスを残し、他のメンバーは袖に消える。ジェームス1人だけのアコースティックコーナーとなる。『Black Dog On My Shoulder』だ。先ほどまでとは一転して場内は静まり返り、息を殺すかのようにしてgの音色に、ジェームスの歌声に聞き惚れる。そして、その最後に何を思ったかワム!の『Last Christmas』をワンコーラスだけ歌う。さすがに場内は反応する人も多く、そして笑いも漏れていたが、私はちょっと笑えなかった。というか、マニックスのセカンドや4枚目の中で、これジョージ・マイケルがバンドやってるんじゃないの?と思えるような曲が何曲かあるからだ。あるいは、それを見越してのジェームスのジョークなのか。続いてのアコースティックは、『Small Black Flowers That Grow In The Sky』。こうして書きながら思うのは、マニックスの曲にはやたら長ったらしい曲名が多い(笑)。





 そして再びメンバー勢揃い。『Nobody Loves You』。これこそ日本向け選曲の真骨頂だろう。本国のツアーでは確かほとんど演奏されていないはずだし。日本ではCMに起用されたこともあり、それを知ってか知らずか、とにかくありがたい。というか、この曲が本国でライヴ演奏されないことの方が不思議なのだが。サビでは大合唱となる。


 そしてラスト。『You Love Us』!またまたファーストからの曲。というか、この曲だけはどんなことがあっても、バンド結成以来ずっと演奏され続けてきた曲なのかもしれない。なぜかニッキーが縄跳びしている。縄跳びしながらステージ上をかけ回る。場内は最後のモッシュとなる。




みんな、弾けていた。



みんな、この一瞬を精一杯に生きていた。



みんな、この一瞬を確かめたかった。























 選曲にはいくつかの疑問が残ったが、トータルとして見た場合、コンサートとして非常に満足の行く内容だった。というか、あの曲を演ったとか、これをまだ演るのかとか、どうしてあの曲を演らないんだとか、そんなことは、実は大した問題ではないような気がしてきた。私のこだわりすぎかもしれない。


 私たち日本のファンにとっては93年以来の、そして、私個人としては初めての生マニックスであった。本当は、私は95年2月19日にリキッドルームでマニックスを見ているはずであった。しかし、それはご存知の通り、ワールドツアーの日程そのものが延期になったためにキャンセルとなり、そのすぐ後に"あの事件"が起こってしまったのだ。




私自身にとってのマニックスは、そこで凍結してしまった。



凍りついてしまった。



止まってしまった。



そして、そこから掘り起こすのは、



そこからよみがえらせるのは、



並ではなかった。



渾身の力作と呼ばれた新作にも、最初は抵抗があった。



受け入れられなかった。



退屈に感じただけだった。



 しかし、彼らは、間違いなく、疑いなく、復活したのだ。吹っ切れたのだ。ジェームスはインタビューで「ピストルズになれないってわかったから、クラッシュになろうって決めたんだ。」と答えたそうだが、マニックスは、ピストルズでも、クラッシュでもない、マニックスという、英国を代表するバンドに、なったのだ。




(99.2.14.)
















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