Summer Sonic 2006/Day 2-Vol.2 Arctic Monkeys/Fort Minor/Muse
クークスのライヴの最中から人が増え出し、終了すると更に増えた。結局、前日のダフト・パンクに続いて入場規制となったようで、こういう事態を引き起こした張本人はアークティック・モンキーズだ。超大型新人とか、UKロックの救世主とか、そんな過剰な紹介のされ方をしていて、更には先輩アーティストからも賛辞される存在に。来日も去年11月と今年4月に果たしているが、いずれも完売するほどの盛況ぶりだったようだ。
メンバーは4人で、うちギター2人というオーソドックスな編成。ベーシストは脱退したはずだが、サポートを入れているのかな。曲は2本のギターを軸としていて、メロディアスではあるが野太さも備えている。さすがに演奏には若々しさが溢れているが、大きなアクションというのは特になく、淡々とこなしているという印象が強い。確かに「何か」を感じさせ「次」を期待していいと思わせるバンドではあるが、決定的な曲あるいはわかりやすいリフやフレーズというのが見当たらなくて、それが個人的には物足りない。とはいえ、フロアのオーディエンスは終始熱狂しまくりだったけど。
この日のマリンステージのヘッドライナーはリンキン・パークだが、MCマイク・シノダのソロプロジェクトであるフォート・マイナーが、それに先駆けてマウンテンステージに出演する。出演時間もあまり離れておらず、働き者だなあと思う反面大丈夫なのかなという心配もしてしまう。そしてフロアだが、リンキンファンが大挙押し寄せて引き続き満員になるのかと思いきや、アークティック・モンキーズのときの半分くらいにまで減ってしまった。リンキンファンは、もうマリンの方でスタンバッているのかな。
ステージ後方には「FM」の文字が縦横ランダムに書かれた幕が下がっていて、そしてバンド編成も興味深い。シノダ以外に2人の黒人MCがいて、ドラム、コーラスが2人、更にはストリングスが3人いるという具合。ライヴはドラムビートを基盤としつつ、シノダと2人のMCが代わる代わるリードを取ってライヴを牽引する。たたずまいはもろヒップホップなのだが、脇を固めるストリングスの音色が妙に新鮮だ。とにかくリンキン・パークがやっている高性能ラップメタルとは大きく異なっていて、たとえ熱心なリンキンファンであったとしても、よほどのシノダファンでない限りこのプロジェクトには手が出ないなあというのが正直なところだ。
この後、自身今回初めてアウトドアに繰り出した。導線に従い歩いて行くが、途中川べりにリバーサイドガーデンというコンパクトなステージがあって、そこでkatという女性アーティストがライヴをしているのを通りすがりにちょこっとだけ観た。顔はもろ外人なのだが歌詞をよく聞くと日本語だったので、もしかしてハーフだったのかな。もう少し歩くと、今度はアーバン/ダンスステージの横を通りかかったのだが、すると女性の歌声によるナールズ・バークレイの『Crazy』が聴こえてきた。カヴァーしていたのはネリー・ファータドだったということが、後になってわかった。
そしてマリンステージにたどり着き、構内の売店で夕食を買って2階席についた。ステージでは、ちょうどミューズのライヴが始まったばかりだった。スタンド席にはまだ結構空席が見られたが、アリーナは前方ブロックはすし詰め状態だった。リンキン待ちの人もいたかもしれないが、それにしてもすごい人だ。
そしてすごかったのは、ミューズそのものも同じだった。たった3人なのに音圧が凄まじく、スタジアムという会場をまるごと飲み込んでしまうかのような強烈な勢いを放っている。新譜『Black Holes And Revelations』からの曲も早々に披露され、そしてそれらはまるでクイーンのようにドラマティックな展開をする曲だった。ギター&ヴォーカルのマシュー・ベラミーは、熱唱しながらもギターを躍らせるようにしてギターをかきむしっていて、どうやったらあんなプレイができてあんな音が出せるのだろうと、びっくりしてしまった。また曲によっては、マシューは純白のピアノの鍵盤に指を滑らせていて、この人もともとクラシックの素養があったんじゃないかななんて思ってしまった。
ライヴが始まった頃にはまだ陽が落ちる前で明るかったのだが、時間が経つにつれて少しずつ暗くなり、やがて陽が落ちて漆黒の中でのステージとなった。バンドの演奏にシンクロするかのような壮絶なライティングも美しく、それが彼らのパフォーマンスを更に迫力あるものにした。そしてハイライトになったのは、やはり『Plug In Baby』だった。大袈裟な展開を見せる曲が多いミューズにあって、この曲はシンプルでわかりやすく、サビでノリやすい曲だ。そのサビに差し掛かったときは当然アリーナは大モッシュ状態になり、それを観ているのは壮観だった。
私がミューズを観るのは今回が3度目で、過去2回はいずれもフェスだった。特に思い出深いのは初めて観た第1回サマーソニックで、そのときはアウトドアステージのトップバッターとして彼らは演奏した。まだ駆け出しだったアーティストが、キャリアを重ねて成長を遂げるさまを確かめられるのもフェスの醍醐味のひとつなのだが、それにしてもミューズはよくやった。次に単独で来日するとしたら、会場はライヴハウスではなく、武道館に進出するのではないだろうか。かつてのスウェードやクーラ・シェイカーといった、UKロックの先達が到達しえなかった領域に、ミューズは足を掛けつつあるのだと実感した。
(2006.8.18.)
Back(Vol.1) | Next(Vol.3)