Morrissey Discography　Original Album

　スミス解散の衝撃も醒めあらぬ中、モリッシーは眠りに入らず、走り続ける道を選んだ。ジョニー･マーという、稀代のソングライターにして最高のパートナーを失ったにしては、その痛手を感じさせない上々の仕上がり。行き場のなくなったスミスファンの期待を、真っ向から受けて立つというモリッシーの決意がうかがえる。今作のリリースはスミスの『Rank』と時期が重なり、チャートを競い合う格好になった。

　ステファン･ストリートと別れ、プロデューサーにはコステロやホットハウス･フラワーズなどを手がけたランガー＆ウィンスタンリィを起用。そして新たなパートナーとして、元フェアグラウンド･アトラクションのマーク･ネヴィンとソングライティングコンビを組む。音楽的には脱スミスを目指しているところがあるが、それはこの時点ではまだ成功していない。この年9月、待望の初来日公演が実現。

　またもパートナーを総入れ替えし、プロデュースにはこの翌年に他界してしまうミック･ロンソンを起用。ソロアーティストとしての年数は重ねるものの、脱スミスかそれともスミスファンの期待に応えるかで、結局どちらにも踏み切れていないように見て取れる。『I Know It's Gonna Happen Someday』は、デヴィッド･ボウイが翌年発表するアルバムの中でカヴァー。

　92年8月のパリ公演を収録したライヴアルバム。ソングライティングに関しては、パートナーをとっかえひっかえして試行錯誤を続けているが、ライヴパフォーマンスに関しては、安定した実力を維持し続けていることがうかがえる。ソロとしての活動期間がスミスとしての活動期間を上回ったこともあり、ここまでのキャリアを総括する位置づけにあるように思える。

　スミスの亡霊だとか、スミスファンの思いを受け止めるだとか、ソロアーティストとしてのモリッシーの確立だとか、そうしたゴタゴタを全て丸め込んでしまった、渾身の1作。度重なるパートナーの交代の末、それを成し遂げたのは名プロデューサーのスティーヴ･リリィホワイトだった。冒頭『Now My Heart Is Full』を筆頭に、吹っ切れたモリッシーのたたずまいが全編ににじみ出ている。

　EMIを離れてRCAに移籍。大作があるかと思えばポップで口当たりのいい曲もあり、ポップシンガーとしてのバランス感覚もよみがえってきているように感じる。この年の暮れ、4年ぶりとなる来日公演が実現。ライヴは元より、CDショップでサイン会も開催。人前に立つ自信に満ち溢れているのだと思う一方、あまりにもサービス精神旺盛なモリッシーに、少し困惑もした。

　この時期元スミスのメンバーとの間で裁判していて、結果は敗訴。そして自身の活動だが、RCAとはたった1作限りで、今度はマーキュリーに移籍。「社会不適合者」というタイトルは、自身を皮肉ったユーモアか。音の方は、聴き応えはあるが派手さを欠き、ちょっと物足りないという印象を受ける。そしてこれ以降目立った活動はなく、フジロック'00では、一度出演がアナウンスされながら、開催前に取り消されるというハプニングもあった。