XTRMNTR(Exterminator)

Sales Date:2000.1.19 1. Kill All Hippies 7. Keep Your Dreams
2. Accelerator 8. Insect Royalty
3. Exterminator 9. Mbv Arkestra
(If They Move Kill'em)
4. Swastika Eyes
(Jagz Kooner Mix)
10. Swastika Eyes
(Chemical Brothers Mix)
5. Pills 11. Shoot Speed / Kill Light
6. Blood Money 12. I'm 5 Years Ahead Of My Time






 はじめに不満の方をきっちりと書かせてもらう。良く言えばフレキシブルに、悪く言えば節操なく、1作毎にスタイルをガラリと変えてきたこれまでのプライマル。それが、さすがに今回ばかりは前作『Vanishing Point』で打ち出したデジタル路線の流れを継承している。時代に敏感といえば聞こえはいいが、音としてはそれほど真新しいとも思えず、せめてアンダーワールドやケミカル・ブラザーズが出てくる前にこのアルバム出してりゃな、という突っ込みを入れたくなる(ケミカルはM-10にMixで参加)。


しかし、そんな不満を差っ引いたとしても、このアルバムは圧倒的だ。このアルバムは感動的なのだ。冒頭『Kill All Hippies』のイントロがスピーカーから流れ出た瞬間から、歓喜の幕は切って落とされる。電子音の洪水と炸裂する強烈なビート。応戦するボビー・ギレスビーのシャウト。時にはファルセットで。時にはストレートでエモーショナルに。プライマル、プライマル、ついにここまで来たか。ついにここまでやってしまったのか。





70'sにはデヴィッド・ボウイがいた。この頃のボウイは、まるで変化することが自身のテーマであるかのように異なるキャラクターを表現し続けた。グラムロック時代~ディスコチューン~ソウル傾倒と、音楽的にもアルバム2~3枚毎に大変貌を遂げた。それはやがてベルリン時代に結実し、世の中ではパンク旋風が吹き荒れる中、珠玉の大傑作『Low』を放った。極論だが、90'sのロックが成り立っているのはこのアルバムがあったればこそだ。私はこの作品を「ロックの果て」だと思っている。


80'sにはプリンスがいた。『Purple Rain』でポピュラリティを獲得したプリンスは、やろうと思えば難なくできた同じ路線の繰り返しをせず、商業的な成功と名声をあっさり捨て去った。『Around The World In A Day』『Parade』という実験性溢れるアルバムを立て続けに発表し、やがてそれは『Sign 'O' The Times』という理想郷に辿り着いた。もちろんプリンスの底辺にあるのはブラックミュージックだが、そのR&B路線に依存し切ることなく、逆にボーダーラインの決壊をブラックの側からやってのけた。プリンスの音楽は、ロックでもソウルでもダンスでもなく、しかしその全ての要素を包含した「Music」であると思う。





では90'sはどうだったのか。一般的にはベックがイノベーターとして認知されつつあるが、ベックが開花したのはプリンスが残した轍があったればこそ、という気がしてならない。確かにあの才能は凄いのだが。オルタナティヴをメインストリームに押し上げたニルヴァーナも(ニルヴァーナ登場時、パンクかメタルか、といった論議が成されていたのがなつかしい)、非常に残念ではあるがカートの死によって引き裂かれてしまった。カートの死は、多くのミュージシャンに宿題を残したはずだ。


もう私が言いたいことはおわかりだと思うが、90'sのイノベーターは、このプライマル・スクリームだったのではないだろうか。ガレージロック調のアルバムを放ち、その次にはアシッドハウスを凝縮した名盤『Screamadelika』を発表してみせる。かと思えば、まるで音楽性の違うアメリカ南部~ストーンズを思わせるサウンドの『give out but don't give up』、ときたもんだ。アルバム毎のここまでの大胆な変貌は、先人たちのペースを大きく上回る。私個人は今でも『give out ~』にはついて行けず、戸惑いを感じるのだが、イノベーターというのはいつの時代も我々凡人の理解を超越したところで攻防を繰り広げているのではないのか。





で、『Exterminator』だ。今までの作品がバンドの音楽性を示す針の振幅、実験と試行錯誤の繰り返しであったとすれば、この作品はその実験が終わりを告げ、ひとつに集約された完成形だと思う。バンドが90'sに打ち立てた金字塔『Screamadelika』が9年の歳月を経て甦り、『Vanishing Point』で会得したテクノ路線の方法論がブチ込まれている、というのが大筋のイメージ。しかし、もちろん単なる原点回帰ではない。時流を意識してチョイスしたデジタルサウンドではもちろんない。さまざまな危機を乗り越えたバンドの確信、それが"怒り"となってアルバム全編を貫いている。何かが覚醒しようとしている瞬間がある。何かが始まろうとしている瞬間を、感じることができる。ここにあるのは楽天的なダンスミュージックではない。あるのは、逆風に向かって鉄拳を振りかざす怒りだ。満たされず、飢え乾いた咽喉から振り絞るようにして叫ぶ怒りだ。





私個人としては、1999年はアルバム不作の年だった(「質」ではなく「数」という意味で)。それが、2000年はしょっぱなからスゴいアルバムに出っくわしてしまった。まさに頭から硫酸をブッかけられたような衝撃だ。そして、タイミングよく彼らは2月に日本を襲う。このライヴ、スゴいライヴにならないわけがない。スゴいことに、ならないわけがないのだ。












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