Paul McCartney Discography　Album 90's ～ Now

　『Flowers In The Dirt』で自信を取り戻したポールは、新たにバンドを編成し世界ツアーを敢行。日本のファンが長い間待ち焦がれていた来日公演も、90年3月に遂に実現した。そしてその内容たるや、ビートルズナンバーが過半数を占めるという、驚異的な選曲。今作はツアーを記録したライヴアルバムで、日本公演の音源も4曲収録。カヴァーも5曲収録されていて、興味深い。90'sの幕開けを高らかに告げたのは、同じく復活を遂げたローリング･ストーンズとポールだった。

　世界ツアーのために編成したバンドと共に、レコーディングした作品(ドラマーは交代)。『Mistress And Maid』と『Lovers That Never Were』がエルヴィス･コステロとの共作で、全般的に『Flowers In The Dirt』ほどの気負いはなく、リラックスした作風に仕上がっている。逆に言えばそれが少し物足りないのだが、ポールが復調したことをアピールするにはまずまずの内容だ。

　『Off The Ground』に伴う世界ツアーの模様を収録したライヴアルバム。特にビートルズナンバーにおいては、前回のツアーとかぶらないように選曲が成されている。ジャケットはもちろん『Abbey Road』のパロディで、『Abbey Road』ではポール死亡説が出ただが、今回はそれを逆手に取った具合だ(タイトルもそう！)。3年半ぶりとなった来日公演も大盛況で(今作のリリースとシンクロする格好になった)、『Live And Let Die』でのマグネシウムが炸裂する演出は圧巻だった。

　ELOのジェフ･リンは、これまでジョージ･ハリスンとは一緒に仕事をして来てその手腕を認められていたが、ビートルズのアンソロジープロジェクトに加わることにより、ポールの信頼も得て今作で起用された。リンゴ･スターがドラムで参加しているほかはポールひとりでの録音で、個人的には『McCartney Ⅲ』に当たる宅録路線の作品だと思う。タイトルは、「燃えるパイ」(ジャケットにもイラストがある)がビートルズと名付けたんだと言った、ジョン･レノンのジョークを拝借。

　公私共にポールをサポートし続けてきたリンダを失い、ポールは再び自らの立ち位置を確認すべく50'sのオールディーズをカヴァー。こうした動きは88年の『Choba B Cccp』や、ジョン･レノンの『Rock N' Roll』にも相通ずるものがあり、かつデビュー前にハンブルグで精力的にライヴ活動を行っていた頃のビートルズも彷彿とさせる。3曲の新曲は、オールディーズに混じっても少しも違和感を感じさせない。レコーディングには、ピンク･フロイドのデイヴ･ギルモアが参加。

　トータルでやや地味な感は拭えないが、しかし今なお創作意欲が衰えず、自分のありようを世に問うという姿勢を続けていることの方に感服する。リンダとの別れはあったが、今度はヘザー･ミルズとの出会いがあった。『Magic』はリンダと初めて出会ったときのことを歌った曲。10分オーバーの大作『Rinse The Raindrops』は圧巻だ。ラストの『Freedom』は日本オンリーのボーナストラックで、対米同時多発テロに触発されて書き、コンサート･フォー･NYのラストで歌われた曲だ(エリック･クラプトンがギターで参加)。

　2002年4月から行われている、全米ツアーを収録したライヴアルバム。『Here Today』はジョン･レノンに、『Something』はジョージ･ハリスンに、『My Love』はリンダに捧げられている。今のポールは失った愛する人たちのために歌い、そして世の中の人々を元気づけ、勇気を与えるために歌っているように思える。個人的には、『Every Night』『Maybe I'm Amazed』といった、ソロ第1作『McCartney』からの曲が入っているのが嬉しい。今作は9年ぶりの来日公演に合わせ、世界に先駆けて日本先行で発売された。