Physical Graffiti フィジカル・グラフティ
Sales Date:1975.2. | Disc 1 | Disc 2 |
Produce:Jimmy Page | 1. Custard Pie | 1. In The Light |
2. The Rover | 2. Bron-Yr-Aur | |
3. In My Time Of Dying | 3. Down By The Seaside | |
4. Houses Of The Holy | 4. Ten Years Gone | |
5. Trampled Underfoot | 5. Night Flight | |
6. Kashmir | 6. Wanton Song | |
7. Boogie With Stu | ||
8. Black Country Woman | ||
9. Sick Again |
アトランティック・レコードとの契約が満期となり、メンバー及びマネージャーであるピーター・グラント(5人目のビートルズは数多くいるが、5人目のツェッペリンといったらグラントしかいない)の構想によって、ツェッペリンは独自のレーベルを発足させる。その名を「スワンソング」といい、ツェッペリンのレコードのみならず、他のアーティストを売り出すことも目論んでいた。実際は、マギー・ベルという女性シンガーや、元フリーのポール・ロジャースが中心になって結成されたバッド・カンパニーなどがリリースを果たしたが、思惑ほどの成果は果たされていない。
「スワンソング」には"臨終の歌"という、あまり縁起のよくない意味合いがあったが、ジミー・ペイジの「白鳥は死ぬ前に、最高に美しく鳴く」という説明でケリがついた。もともとはジミー・ペイジが作った曲の名前であり、次のアルバムタイトルの候補でもあったという(渋谷陽一氏の番組制作会社も同名だが、ココから引用したのは想像に難くない)。
ツェッペリン6枚目のアルバムは、当初このスワンソングの第1弾として発表されるべく73年の暮れにレコーディングが始まったのだが、開始早々にジョン・ポール・ジョーンズが病気したために延期。レコーディング終了後もジャケットデザインの遅れなどで、結局発売は75年の2月にまでズレ込んだ。そして完成したのは、ツェッペリン初の(そしてオリジナルでは唯一の)ダブルアルバムである。
目玉はやはり『Kashmir』ということになるだろうか。前作で『The Song Remains The Same』という新たな代表曲を放ったばかりなのだが、このツェッペリンの創作意欲の凄まじさといったらただただ舌を巻くしかない。この曲はジミー・ペイジとジョン・ボーナムの手で形作られ、東洋的な神秘さに包まれ、なおかつ壮大なスケールと力強さを兼ね備えた大作ナンバーだ。アイディアの元はヤードバーズ時代の『White Summer』のギターリフだという。
しかし、大作はそれだけに留まらない。『In My Time Of Dying』は、ボブ・ディランもファーストアルバムで取り上げたトラディショナル・ナンバーだが、正直ディランの方はメリハリがなくて物足りない(コレはコレで味わいなのかもしれないが)。それに対してツェッペリン版は『Kashmir』と双璧を成すほどに壮大なナンバーに生まれ変わっている。終盤、ロバート・プラントが「Jesus」を連呼する辺りは印象的で耳に残る。
もともと6枚目のアルバム用として書かれた曲は8曲だった。が、前述の2曲をはじめ大作ナンバーが並びすぎたためにアルバム1枚の容量では収まり切れなくなり、過去のアルバムのアウトテイクやセッションで作られた7曲をミックスし直して編集して出来上がったのが『Physical Graffiti』である。というわけで、『Bron-Yr-Aur』『Down By The Seaside』は『Ⅲ』より、『Night Flight』『Boogie With Stu』は『Ⅳ』からの抜擢である。"Stu"は、ローリング・ストーンズのイアン・ステュアートのことで、『Rock'n Roll』のセッションに参加していた。ルックスが悪いためにストーンズのメンバーに入れてもらえなかったという可哀相な人だが、その人柄の良さは多くのミュージシャンから慕われた。『The Rover』『Houses Of The Holy』『Black Country Woman』は前作から。『Houses ~』アルバムタイトルとして収録されるはずだった。そして、今回もまたジャケットは秀逸だ。館の窓がくりぬかれており、その窓に当たる部分にはメンバーの女装姿などが確認できる。
だいたい2枚組アルバムともなると、目玉になる曲と、それを引き立てる曲とにはっきり色合いが分かれてしまい、全体としては間延びした退屈なイメージになってしまうものが多い。が、このアルバムはもちろんそんな問題は難なくクリアしているし、過去のアルバムのアウトテイクを用いているにもかかわらず、つぎはぎの違和感を感じることもない。そして、今までの5枚のアルバム、『Ⅲ』の後半部を除けば聴く方にも緊張感を強いる、何か常に張り詰めたモノが突き付けられるような内容だった。それが、この2枚組大作は、リラックスして、安心して音に浸れるような温かさを持っている、と感じている。