In Through The Out Door イン・スルー・ジ・アウト・ドア
Sales Date:1979.8. | 1. In The Evening | 5. Carouselambra |
Produce:Jimmy Page | 2. Sound Bound Saurez | 6. All My Love |
3. Fool In The Rain | 7. I'm Gonna Crawl | |
4. Hot Dog |
77年のツアー中のメンバーに訃報が届いた。ロバート・プラントの愛息が亡くなったのである。ツアーはまだ途中だったが、バンドは残りの日程をキャンセルし、活動を休止した。この休止期間中、ジョン・ボーナムも交通事故に遭った。世の中では活動休止=解散か?と騒がれ、ジミー・ペイジはそれを否定するのに必死だった。
レッド・ツェッペリンが第一線から遠ざかっている間に、世界のミュージックシーンは激変した。ニュー・ヨークでムーヴメントとしての鼓動を始め、そしてロンドンに派生して社会現象にまでなったパンク・ロックが台頭してきたのだ。
日常における若者たちの不安と不満が募る中、しかしラジオから流れるロックは、彼らの心情とは無縁なものばかりだった(とその当時は思われていたらしい)。そうしたフラストレーションがたまりにたまり、そしてついにパンクが覚醒した。ストレートでラディカルなアティテュードが、若者たちのスピリットを刺激した。それは同時に既存のロックシーンに対する挑戦でもあった。パンクロックはほとんど全てのロックに対して矛先を向けたが、レッド・ツェッペリンはまさに格好の標的だった。
そうした四面楚歌に近い状況の中、ニューアルバムの制作が進められた。このアルバムはジョン・ポール・ジョーンズがイニシアチブを取って進められ、ツェッペリンの新たな音楽的方向性を示すこととなった。完成したサウンドは、世の中に吹きすさぶパンク~ニューウェイヴシーンに対するツェッペリンなりの回答とも言えるだろう。もしも、この後バンドを襲う最大の悲劇によってバンドがその生命を奪われることがなかったら・・・、ということを考えずにはいられない。
サウンドのベクトルは大きく2つに分かれると思う。1つはレゲエを取り入れた『Fool In The Rain』やエルヴィス・プレスリーを思わせるロカビリー『Hot Dog』など、新たなエキスを注入した小品集の面持ち。そしてもう1つはジョン・ポール・ジョーンズのキーボードによって牽引される大作ナンバーである。私は特にこの後者の方に強く惹かれる。
『In The Evening』には、沈黙を打ち破りツェッペリン健在を印象づけるに相応しい勢いを感じる。そしてアルバムB面部分を制圧する3連発。『Carouselambra』は『Dazed And Confused/幻惑されて』『Whole Lotta Love/胸いっぱいの愛を』『Stairway To Heaven/天国への階段』『The Song Remains The Same/永遠の詩』『Kashimir』『Achiles Last Stand』の系譜を継ぐ、ツェッペリン全曲の中でも名作にして代表作の部類に仲間入りできる壮大さと密度の濃さを備えている。ライヴではほとんど演奏されていないことも関係しているのか、どうしてこの曲が話題にされないのかと個人的には残念でならない。更に追い討ちをかけるように、『All My Love』『I'm Gonna Crawl』が続き、濃密な時空を漂わせたままアルバムは終わりを告げるのだ。
今回のアルバムは、茶色のペーパーバッグに包まれた。全体がセピア色で、バーカウンターに男がたたずんでいるジャケットは全部で6種類存在し、実際に購入してみなければどのジャケットなのかわからない仕組みになっていた。パンクだニューウェイヴだとツェッペリンにとって逆風が吹き荒れる中、このアルバムは全世界で売れた。特にセールスを伸ばしたのはアメリカで、需要はツェッペリンの過去のアルバムにまで波及した。ビルボードトップ200圏内にツェッペリンの全アルバムがランクインする。これは75年に最も多くのアルバムをランクインさせたバンドの記録を破った。そしてその「記録を破られた」バンドというのは、他ならぬレッド・ツェッペリンだったのである。
このアルバムは78年12月には完成していたが、発売はバンドがライヴステージに立つのに合わせる戦略が取られた。復帰のステージとなったのは、79年8月のネブワース・フェスティバル。もちろんフェスではツェッペリンここにあり!という健在ぶりを打ち出し、そしてこれが更なるツェッペリン躍進の足掛かりとなるはずだった。
しかし・・・。