Bob Dylan's Discography 80's Album

Saved
Sales Date:1980.6. 1. A Satisfied Mind 5. Solid Rock
Produce:Barry Beckett, Jerry Wexler 2. Saved 6. Pressing On
3. Covenant Woman 7. In The Garden
4. What Can I Do For You ? 8. Saving Grace
9. Are You Ready

 『Slow Train Coming』発表後にディランが行ったのは、その名も"ゴスペル・ツアー"。過去の曲は一切排せられ、改宗後に書かれた曲だけが演奏された。このインパクトたるや、65年にディランがエレクトリック・ギターを手にしてフォークロックを放ったときにも匹敵する。ただし65年のときは時代を背負わされていたのに対し、今回はディラン自身のあり方の結果としての選択だ。そして本作。地から掲げられた手に応えるように、天からも手が差し伸べられているジャケットからして、いよいよ宗教色が色濃くなってきていることが感じられる。詞は全曲が神について歌われ、サウンド面ではツインになったkeyや女性コーラスにそれは顕著だ。お馴染みだったはずのハーモニカですら、ゴスペル調の音を形作る役割を果たしている。







Shot Of Love
Sales Date:1981.8. 1. Shot Of Love 6. The Groom's Still Waiting At The Altar
Produce:Bumps Blackwell, Chuck Plotkin 2. Heart Of Mine 7. Dead Man, Dead Man
3. Property Of Jesus 8. In The Summertime
4. Lenny Bruce 9. Trouble
5. Watered-Down Love 10. Every Grain Of Sand

 "ゴスペル・ツアー"では過去の曲を一切演らなかったが、『Saved』発表後のツアーでは往年のヒット曲も取り入れた折衷案が取られた。そしてキリスト教3部作完結編となる本作。歌詞は相変わらず神について歌われた曲が多い。が、サウンドの方はディラン自らが弾いたピアノが底辺に位置しつつ、ゴスペルとディラン本来のロックンロールが融合したような形になっていて、まさに締めくくりの様相を感じさせる。『Heart Of Mine』はリンゴ・スターがdsで、ロン・ウッドがgで共演するという豪華さ。個人的には、下品なジャケットのためにずっと敬遠していたアルバム。ディランはこの時期、ジャケットの作画を横尾忠則に依頼していたが、多忙のため横尾はこれを断ったという逸話もある。







Infidels
Sales Date:1983.11. 1. Jokerman 5. Man Of Peace
Produce:Bob Dylan & Mark Knopfler 2. Sweetheart Like You 6. Union Sundown
3. Neighborhood Bully 7. I And I
4. License To Kill 8. Don't Fall Apart On Me

 "異教徒"あるいは"無神論者"という、なんとも意味深なタイトル。最早神について歌うこともなくなり、少なくともディランはキリスト教から離れたように見て取れる。サウンドもフォークロックに戻っていて、聴いていて安心してしまう。そしてこのアルバムは、80'sのディランの出発点に位置しているのだ。ミック・テイラーとマーク・ノップラーがgで参加し、マークはディランとの共同プロデュースも務めている。前作でのリンゴ・スターやロン・ウッドといい、ビートルズ~ストーンズ人脈をも取り込んだレコーディングは豪華すぎる。私は94年の来日公演で初めてナマのディランを観たが、このとき全ての公演のオープニングは『Jokerman』だった。個人的には思い出深い曲のひとつであり、ディランが自らの立ち位置を確認するような曲にも思える。







Real Live
Sales Date:1984.12. 1. Highway 61 Revisited 6. Tangled Up In Blue
Produce: Glyn Johns 2. Maggie's Farm 7. Masters Of War
3. I And I 8. Ballad Of A Thin Man
4. License To Kill 9. Girl From The North Country
5. It Ain't Me, Babe 10. Tombstone Blues

 『Infidels』にも参加したミック・テイラーがgで、keyにはフェイセズのイアン・マクレガンというバンドメンバーでツアーを行い、公演によってはジョーン・バエズやヴァン・モリスンもゲストとして参加した。本作はヨーロッパの複数の公演からピックアップして発表。60'sの名曲が多く選曲されているのが意外でもあり、しかし聴いていて嬉しくもある。『It Ain't Me, Babe』での、サビをディランとオーディエンスが合唱するさまは感動的。『Tombstone Blues』にはカルロス・サンタナがゲスト参加している。ここでのディランは、gにしてもハーモニカにしても攻めの姿勢が見える。物量ではもちろん『Before The Flood』『At The Budohkan』に及びはしないが、他のアーティストなら生涯に1枚出せるか出せないかというくらいの質の高いライヴアルバムだ。







Empire Burlesque
Sales Date:1985.6. 1. Tight Connection To My Heart (Has Anybody Seen...) 6. Trust Yourself
7. Emotionally Yours
Produce:Bob Dylan 2. Seeing The Real You At Last 8. When The Night Comes Falling From The Sky
3. I'll Remember You
4. Clean Cut Kid 9. Something's Burning, Baby
5. Never Gonna Be The Same Again 10. Dark Eyes

 ブルース・スプリングスティーンが初来日公演を行っていたのと同時期に『Tight Connection To ~』のPVを日本で撮影していたこともあって、日本のファンには馴染み深いアルバム。PV撮影には沢田研二や佐野元春、岩崎宏美など日本のミュージシャンも参加したが、完成版には賠償美津子だけが採用されたとのことだ。しかしアーサー・ベイカーがミックスを手がけたこともあってか全体的にサウンドが安っぽく、ディランのアルバムとしてはかなりキツい方の部類に入る。個人的にはマイク・キャンベルがgで参加し、ドラマ性を備えたサウンドの『When The Night ~』に聴き応えを感じる。この年は1月にUSA・フォー・アフリカの『We Are The World』のレコーディングに参加。そして本作発表の2ヶ月後にライヴエイドに出演する。







Knocked Out Loaded
Sales Date:1986.8. 1. You Wanna Ramble 5. Maybe Someday
Produce: 2. They Killed Him 6. Brownsville Girl
3. Driftin' Too Far From Shore 7. Got My Mind Made Up
4. Precious Memories 8. Under Your Spell

 この頃は世界的に"エイド"ブームであり、ディランはライヴエイドにはキース・リチャーズとロン・ウッドを従えて大トリ前に登場。自らもファームエイドを提唱し、またマーチン・ルーサー・キング牧師の記念集会やアムネスティ・インターナショナルに出演もしている。こうした背景を受けての本作だが、「救済」をテーマにするに当たり、再びゴスペル調のアプローチが目立つようになった。子供たちのコーラスにびっくりさせられる『They Killed Him』はクリス・クリストファーソンの曲。『Brownsville Girl』は11分にも及ぶ大作であり、本作のハイライトと言っていい。南部志向の『Got My Mind Made Up』はトム・ペティとの共作。この年ディラン単独としてはトム・ペティ&ハートブレイカーズを従えてツアーしていて、8年ぶりとなる来日も果たしている。







Down In The Groove
Sales Date:1988.5. 1. Let's Stick Together 6. Ugliest Girl In The World
Produce: 2. When Did You Leave Heaven ? 7. Silvio
3. Sally Sue Brown 8. Ninety Miles An Hour (Down A Dead End Street)
4. Death Is Not The End 9. Shenandoah
5. Had A Dream About You, Baby 10. Rank Strangers To Me

 前年、レコードとCDの売り上げが逆転。ついにCD時代に突入するわけだが、そうした流れに抗うかのような30分そこそこのシンプルなアルバム。そしてその内容は、『Self Portrait』以来といってもいい他人の曲のカバーがほとんどを占める企画ものだ。『Death Is Not The End』は『Infidels』のアウトテイク(マーク・ノップラー参加)、エリック・クラプトンやロン・ウッドが参加した『Had A Dream About You, Baby』は映画『ハート・オブ・ファイヤー』のサントラ盤に収録されている。この頃ディランはグレイトフル・デッドとツアーしていて、その合間をぬってのレコーディングだった様子。この年の1月、ディランはロックン・ロール・ホール・オブ・フェイムに殿堂入り。授賞式のスピーチは、ブルース・スプリングスティーンが務めた。







Dylan & The Dead
Sales Date:1989.2. 1. Slow Train 5. Joey
Produce:Jerry Garcia 2. I Want You 6. All Along The Watchtower
3. Gotta Serve Somebody 7. Knockin' On Heaven's Door
4. Queen Jane Approximately

 日本では86年にフォークやニューミュージックのアーティストが一同に集い"All Together Now"と題したフェスティバルが行われ、吉田拓郎がオフコースと組んだり、桑田圭佑と佐野元春がツインで歌ったりしたことがあった。また同じ年、当時爆発的に売れていた安全地帯が、デビュー前にバックバンドを務めていたという井上陽水と1夜限りのライヴをしたこともあった。そしてその1年後、海の向こうではディランとグレイトフル・デッドという黄金コンビでの"アローン&トゥゲザー"という名のツアーが行われた。デッドはこの年アルバム『In The Dark』を発表し、これが商業的成功を収めてシーン第一線に返り咲きを果たしている。ここに収録された曲は全てディランのもの。会場にはいわゆるデッド・ヘッズが多数集結したようだが、それでもディランが放つメッセージは彼らの心を揺さぶっている。







Oh Mercy
Sales Date:1989.8. 1. Political World 6. Most Of The Time
Produce:Daniel Lanois 2. Where Teardrops Fall 7. What Good Am I ?
3. Everything Is Broken 8. Disease Of Conceit
4. Ring Them Bells 9. What Was It You Wanted
5. Man In The Long Black Coat 10. Shooting Star

 80'sのディランはデッドやトム・ペティなど完成したアーティストと共にツアーしたり、アルバム製作にも豪華ゲストを迎えたりしていたが、そうした中で最も成果を挙げたパートナーだと言えるのが、本作をプロデュースしているダニエル・ラノワだろう。U2やピーター・ガブリエルを手がけて傑作を輩出したその手腕は素晴らしく、ディランを引き立たせ80'sという時代にリンクさせることに成功している。『Everything Is Broken』は、曲名が当初アルバムタイトルにも予定されていた。『Ring Them Bells』は後年ハートがカヴァー。『Shooting Star』は、トラベリング・ウィルベリーズで共演もしたロイ・オービソンに捧げた曲とも言われている。この年はローリング・ストーンズとポール・マッカートニーがそれぞれ重要作を発表し大規模なワールドツアーを敢行。時代はまた、動き始めようとしていた。













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