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『オッペンハイマー』を観た(少しネタバレ)

『オッペンハイマー』を観た(ネタバレ注意)

大学で教鞭をとる物理学者ロバート・オッペンハイマーは、米軍将校のグローヴスからマンハッタン計画の開発リーダーに抜擢される。時は第二次世界大戦中で、ナチス・ドイツよりも先に原子爆弾を開発することが使命だった。オッペンハイマーは研究のための施設をニューメキシコ州ロスアラモスとし、関係者を家族ごと移住させて研究に勉める。

1945年5月、ドイツが降伏したため、原爆は未使用に終わるかと思われた。しかし、日本は降伏する兆しを見せないため、7月にトリニティと名づけられた核実験が敢行され、成功する。そして、原爆は研究者たちの手を離れて軍の指揮下に入り、8月6日に広島に、9日に長崎に、投下されてしまう。オッペンハイマーは、それをラジオで知った。

欧米では昨年7月に公開されて大ヒット、しかし日本では、時期や原爆を扱ったと言われる内容から、公開の目処が立たない状態だった。そして今年3月末に公開が決まり、アカデミーで作品賞をはじめ5部門を受賞。結果的に、そこそこいいタイミングでの公開になった。

ストーリーは、主に3つの時間軸を行き来している。ひとつめは、オッペンハイマーが科学者として原爆を開発するまで。2つめは、戦後オッペンハイマーが密室で尋問される聴聞会。3つめは、ストローズの公聴会だ。劇中、カラー映像とモノクロ映像があるが、前者はオッペンハイマー中心、後者はストローズ中心での描写だ。

ストローズはオッペンハイマーを原子力委員会の顧問に迎えるが、水爆開発に反意を示すオッペンハイマーと袂をわかつことに。ストローズはオッペンハイマーを悲劇のヒーローにすらさせないため、尋問を非公開の聴聞会にするよう仕向ける。オッペンハイマーの弟や夫人のキティ、元婚約者で不倫相手のジーンは、元共産党の党員。自身は入党しなかったが、交流があったためソ連のスパイの容疑をかけられていた。

まる3時間の大作で、登場人物がやたらと多い。会話劇が主となり、そして彼らの大半はインテリであるため(キティは生物学者、ジーンは精神科医、グローヴスも高学歴)、専門的なことばが交わされる。しかし、それらはマニアックにならず、エンターテインメントの中に留まっている。

今回で観たが、特に効果的と感じたのは2点。ひとつは、核分裂をイメージしたと思われる抽象的な映像で、序盤から何度となく挿入される。未知の領域に挑んでいく、オッペンハイマーをはじめとする科学者たちの脳内映像をビジュアル化したものと理解している。もうひとつは音響面で、物理的そして心理的な恐怖感のイメージを表していると思う。

キャストは、これまで作品に出演してきた面々のほか、大物にして初となる顔ぶれも少なくなく、超豪華だ。

まずは初出演組だが、キティに、ジーンにフローレンス・ピュー、ストローズにロバート・ダウニーJr.。フローレンス・ピューは『デューン 砂の惑星PART2』で観たばかりだが、本作は黒髪でビジュアルイメージが変わり、オッペンハイマーを奔放する魔性の女を演じている。ロバート・ダウニーJr.は今回は言わば悪役だが、クセの強さは『アイアンマン』のトニー・スタークから通じている。

オッペンハイマーに助言するアルベルト・アインシュタインはトム・コンティ(『戦場のメリークリスマス』のローレンス役)、グローヴスの部下だがオッペンハイマーを危険視していたニコルスはデイン・デハーン、聴聞会でオッペンハイマーを嚴しく詰問するロッブはジェイソン・クラーク、マンハッタン計画参加者で公聴会で証言するヒルにラミ・マレック。

出演歴があるのは、グローヴスに、オッペンハイマーの恩師的な存在ボーアに、ニコルスと同様オッペンハイマーを危険視していたバッシュにケイシー・アフレック。トルーマン大統領がだったが、特殊メイクが施されすぎていて劇中では気付けなかった。

そして、オッペンハイマーを演じたのはだ。ノーラン作品の準レギュラー的な人だが、主人公を務めるのは本作がはじめてだ。オッペンハイマーを再現するというよりは、現時点から捉えうるオッペンハイマーを演じたのだと思う。

バットマン・ビギンズ』でブルース・ウェイン役のオーディションを受けた際、結果に決まったものの、ノーランはこの人のための役スケアクロウを用意し、3部作すべてに出演。その後も『インセプション』『ダンケルク』と出演が続き、また個人的には『タイム』『トランセンデンス』でも観ていた。アカデミー主演男優賞を受賞したのを見て、ついにこの人が報われるときがきたと思った。もっと早く、認められていい人だった。

それにしても、クリストファー・ノーランはすごい。今までも、『ダークナイト』『インターステラー』をはじめとする作品でその手腕に唸らされてはきたが、今回もだ。巨大なテーマに挑み、それをぼやかすこともはぐらかすこともせず、ストーリーと映像の両面から描き切った。本作も、もちろん観るべき作品だ。

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