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フィリップ・K・ディック『シミュラクラ』

フィリップ・K・ディック『シミュラクラ』

21世紀半ば。世界は、ワルシャワを中心とする共産圏と、アメリカ・ヨーロッパ合衆国(USEA)のふたつの国家群で成り立ち、また火星への移住が始まっていた。アメリカ大統領は4年ごとに交代するが、ファースト・レディつまり大統領夫人は常にニコル・チボドウで、実権は彼女が握っていた。

大統領は、国民投票で選ばれてはいるが、実は作られた模造人間(シミュラクラ)だ。ニコルは、ふつうに考えれば90歳以上になっているはずだが、若さと美貌は変わっていなかった。彼女は人間だが、女優など容姿の似た人が代々務めていて、今のニコルは4人目になる。彼女の背後には国家を支配する組織が存在し、一握りの階級(Ge)が一般大衆(Be)を統治している(Beのほとんどはその図式に気づいていない)。

の長編小説だが、プロットがかなり複雑で、なかなか頭に入ってこない。ストーリーの本筋は上記と思われるが、それが見えてくるのは早くて中盤から。そこに至るまでに複数のプロットが同時進行していて、交錯するのは終盤になってからだ。登場するキャラクターが40人以上いて、とにかく多すぎる。そして最終的な決着もつかず、混沌としたまま終了。

この時代では「フォン・レシンガー時間移行機」という時間を超えられる装置(つまりタイムマシン)があり、イスラエルの首相が歴史の改変を依頼する。第二次世界大戦時のゲーリングを説得し、ヒトラーを倒してユダヤ人を救うというもの。しかし、この件は結局うやむやになってしまう。クーデターでニコルの正体が世の中にバラされてしまい、彼女の身が危うくなると、未来に連れて来られたゲーリングはあっさり処刑されてしまった。

ワタシが入手したのは2017年に刊行された「新訳版」になる。てっきりディック晩年の作品かと思いきや、執筆活動初期の1966年の作品だった。2017年に新訳版が出たのは、同年に『ブレードランナー2049』が公開されたことに伴うフェアであったことが、あとがきに書かれていた。

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