武論尊原作・池上遼一作画『HEAT -灼熱-』
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池上遼一
中国、韓国、台湾などの組織、そして日本の極道による縄張り争いの中、ぎりぎり均衡が保たれている新宿歌舞伎町の裏社会。ふらっと現れてホストクラブを乗っ取った唐沢辰巳はまさに異物で、東新宿署署長の栗木は、関西山王会幹部の村雨を使って唐沢を排除しようとする。
唐沢は、現役東大生で闇金を仕切る伊丹をはじめ、資金や権力をめぐる争いの中でアジアの組織の面々とは盟友となり、栗木も唐沢を認めるようになる。山王会の村雨、石倉、藤巻とは、ライバル関係でありつつ互いを認め合う距離感になる。やがては、莫大な資金をもとに裏社会を牛耳ってきた海崎、香港の裏社会を統べるレイモンド・タオなど、新たな敵が浮かびあがる。
武論尊(史村翔)と池上遼一のタッグ『サンクチュアリ』終了から2年後の1998年に、ビッグコミックスペリオールで2004年まで連載された。『サンクチュアリ』とは微妙に世界観が重なっているが、本作では政界は描かれない分ほとんど裏社会が中心になっている。裏社会が舞台であるにも関わらず、唐沢自身は極道ではない(作中では自らを「素人」と言っている)。
その代わり、唐沢はある意味極道以上に型破りな背景を持っている。祖父は第二次大戦中に沖縄でアメリカ兵を素手で倒し、弁護士の父はアメリカで黒人を殺害した白人青年を弁護して無罪を勝ち取った後に青年の頭を撃ち、直後に自分の頭も撃ち抜いた。そして唐沢は、ロスで馴染みの飲食店を襲撃したロシアンマフィアを、ひとりで返り討ちにしていた。
唐沢の恋人中谷里見は、ワタシが読んできたマンガの中で最も魅力的な女性だと思う。そもそも池上遼一の作品ではメインキャラは美男美女で、これは池上が日本人であることを誇りに思ってほしいという思いを込めて描いている(「漫勉」より)。里見は、美貌だけでなく権力にも屈しない芯の強さがあり、そして知的でもある。
里見はアメリカで両親を事故で失い、自身の留学費と日本での妹の世話を海崎が面倒を見ることとなったが、海崎が妹に手を出したことで自殺したのを知ると、帰国後に海崎を撃って刑務所に入る。出所後はレイモンド・タオの息子クーリンに唐沢を追い詰めるための人質にされるが、その一件が落着した後は唐沢から離れ、自身を磨くために渡米する。
彼女が再び唐沢の前に姿を現したときは、日本進出を目論むアメリカのダンテのチームとしてだった。いったんは唐沢と敵対する格好になりはしたが、唐沢や石倉、藤巻の追い込みとダンテ側の腐敗にFBIが動くこととなり、ふたりは和解する。各キャラクターの生きざまと物語の展開が素晴らしい。
大半は日本国内を舞台にしているが、海外まで拡大したスケール感に包まれている。歌舞伎町からスタートすることで序盤からアジア色が豊富になり、唐沢と里見の過去からアメリカとも関連づけられ、終盤ではアメリカやロシアのスパイまで絡んでくる。作中の日本人たちは、彼らに対して怯むことなく、対等以上に渡り合っている。
世論では『サンクチュアリ』の評価が高いが、個人的には本作の方をより気に入っている。『男組』『サンクチュアリ』では踏み込むことができず、現実に配慮した落としどころに着地させたが、本作は理想的な領域に到達することができたと思うからだ。
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