史村翔原作・池上遼一作画『サンクチュアリ』
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最終更新日:2023/09/04
池上遼一
カンボジア政変の混乱によって家族を失った少年、北条彰と浅見千秋。ふたりはなんとか帰国したものの、一見平和に見える日本は、人々が生きる気力を失った「ぬるい」国家になりさがっていることを痛感する。
ふたりは、日本社会を表と裏から変えることを決意。表とは政界、裏とは極道だ。どちらの役割にするかを決めたのは、ジャンケンでだった。浅見は民事党代議士の秘書を経て議員に立候補し、北条は極道の世界で成り上がりつつ、資金面で浅見をバックアップする。
ビッグコミックスペリオールで1990年から1996年まで連載された、社会派マンガになる。原作者の史村翔は、『北斗の拳』などの原作者武論尊の別名。池上遼一は、『男組』などを執筆する劇画マンガ家だ。
とにかく、全編を貫くエネルギーの大きさに読んでいて圧倒される。北条は高校2年で中退した後渡海興業に乗り込み、渡海に認められる。義理人情、腹の探りあい、愛憎、裏切りなどが交錯する中でのし上がり、相楽連合会の総長となる。更には極道をビジネスマンとして機能させ、華僑ならぬ「和僑」として海外に進出し、戦争によらない世界平和の構想を持つ。
浅見は東大法学部を卒業し、国会議員になった後には、政党を越えた若くそして志を同じくする議員たちと組み、新党を結成。首相公選制をはじめとする憲法改正を掲げ、与党民事党をはじめ旧世代打倒を目指す。しかし浅見は、カンボジア時代に浴びた枯葉剤のため病に冒されていて、残された時間は限られていた。
ふたりの脇を固めるキャラクターも、魅力的だ。武闘派で女好きの渡海は、北条とは兄弟分の関係のはずが、いつしか自分を追い抜いていることに一時は苛立つものの、やがて後見人を買って出る。六本木署副署長の石原杏子は、犯罪の証拠を残さず前科のない北条をマークするうち、いつしか心を奪われてしまう。
民事党、というより日本の政治を実質的に支配している、幹事長の伊佐岡。権力の保持に走り、浅見ら新世代を排除しようとする。ただ、単に政治を司るというより、戦後の日本復興、諸外国との対峙を考えた伊佐岡なりの論理があり、肝がすわっていないと見れば首相でも容赦なく叱責する。
北条が成り上がる中でやがて行き当たったのは、裏の世界を牛耳る市島だ。北条を気に入った市島はさまざまな助言を与えるが、実は伊佐岡とは旧知の仲で、ふたりで戦後の日本を作ろうと誓いを立てていた。このふたりには、北条と浅見がダブってくる。
ビッグコミックスペリオール連載時、最終回ラストシーン見開きはカラーページだった。新連載で巻頭に掲載されるマンガがカラーというのが通例の中、ラストがカラーになったというのは、当時この作品がどれだけ特別だったかと伺わせる(担当編集者の主張だったとのこと)。ただ、浅見がひとつの目的を達成する直前まで来たところで幕というのは、政治を扱った作品の限界とも思ってしまう。
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