ボブ・ディラン(Bob Dylan)@Zepp Divercity 2014年4月5日
昨日に引き続いてのボブ・ディラン。今回は土曜ということもあり、開場時間に現地入りして、Aブロック中央に陣取った。場内アナウンスが2回入ったが、WOWOWのことを、1回目は「ウォウウォウ」、2回目はちゃんと「ワウワウ」と言っていて、ウケた(笑)。
定刻より5分ほど過ぎ、客電が落ちると同時にアコギのリフがかきならされる。昨日は意表を突かれて気持ちが出遅れてしまったが、今回は大丈夫だ。スチュ・キンボールがステージに背を向けてギターをかきならし、その間メンバーが配置につく。最後に登場したディランは、ステージ前方に出る直前に帽子をかぶった。
オープニングは『Things Have Changed』。ディランはやはり白いスーツ、ほかのメンバーは黒のスーツ姿だ。ステージセットは、後方に6つの大きめのライトが吊るされ、両サイドにも小型のスポットライトがいくつか設置されている。音は、会場の設備かそれともディランサイドの技量なのかわからないが、クリアで素晴らしい。
『She Belongs To Me』では、後半にブルースハープを取り出して吹き上げる。4年前の来日時も、今回も、ディランはギターを手にすることはないのだが、ブルースハープは披露してくれる。デビューの「フォーク期」からの最大の「相棒」かもしれない。『Beyond Here Lies Nothin'』からピアノ前に陣取り、立って弾きながら歌う。4年前にも観ているのだが、キャリア40年を数えているのにギターからピアノへの移行って、どんだけチャレンジングなんだろう。
軽快な曲調の『Duquesne Whistle』に続き、昨日はなかった『Pay In Blood』を(1日と3日は演奏された)。今回の「数少ない」ベストヒット曲のひとつ『Tangled Up In Blue』は、最初のワンコーラスはスチュのセミアコに合わせてディランが歌い、続いてフルバンド編成になるという具合。ディランは中盤までピアノを弾きながら歌っていたが、終盤でステージ中央に移動していた。
第1部ラストは『Love Sick』で、演奏が終わるとディランは「Thank you」と言い、インターバルに入ることを告げてステージを後にした。これが、全体を通じて唯一となるディランのMCだった。
約20分の休憩を経て第2部に。第1部と同様、客電が落ちるのと同時にスチュがリフをかきならし、『High Water (For Charley Patton)』で幕開けとなる。続いて原型をとどめない『Simple Twist Of Fate』を経て、「現在進行形」ワールドに突入だ。
スチュとチャーリー、2人のギタリストは、曲によりギターを使い分けている様子だった。ソロを担うのはほぼチャーリーで、スチュはイントロで勝負といったところ。まるで、ロン・ウッドとキース・リチャーズのような分担だ。バンド最古参のトニー・ガーニエは、曲によりウッドベースも使い、弓で弾くこともあった。ジョージ・リセリのドラムは、安定してリズムをキープしている。
ステージ向かって右奥に陣取るドニー・ヘロンだが、多くの曲ではペダルスティールを弾きつつ、マンドリンやバンジョーもこなす器用さを発揮。もちろんどのメンバーも重要な役割を担っているのだが、『Tempest』をはじめ最近の作品に見られるトラッドな雰囲気のステージ構築において、この人は影の功労者なのではないかと思う。
昨日の第1部で世界初ライヴ演奏となった『Huck's Tune』は、今回は第2部に放り込んできた。客のノリは昨日よりもいいように思え、ここでのリアクションも上々。この公演は2公演の追加の後に発表された再追加公演で、つまり最後に発表された日程なのだが、土曜日ということもあるのか、熱心なファンが多く集まったのだろう。そして、1曲1曲が丁寧に、そして重厚感を帯びてきている。
『Spirit On The Water』『Scarlet Town』と、曲が進むに連れて場内の雰囲気は尋常ではなくなってくる。そして、それが最高潮に達したのが、第2部ラストとなった『Long And Wasted Years』だ。短いフレーズを繰り返す曲調はこの人の持ち味のひとつだが、繰り返されるたびにギアが一段上がった感覚になり、まだ行くか、まだ登り詰めることができるのかという緊張感と、歓喜とが交錯する。このライヴのハイライトは、この瞬間だった。そしてこの曲、21世紀版『Desolation Row』になりうる可能性を秘めている。
アンコールは『All Along The Watchtower』『Blowin' In The Wind』で、前者はピアノを弾きながら始まり、後半はブルースハープを吹きこなすディラン。後半のインプロヴィゼーションは、昨日とは少し違う展開になった気がする。そしてオーラスの後者だが、こちらもアドリブが効いているように思え、そして終盤になるとディランは中央のマイクスタンド前に立ってブルースハープを披露。こうして、全てが終わった。
セットリスト
1.Things Have Changed
2.She Belongs To Me
3.Beyond Here Lies Nothin'
4.What Good Am I?
5.Waiting For You
6.Duquesne Whistle
7.Pay In Blood
8.Tangled Up In Blue
9.Love Sick
(Intermission)
10.High Water (For Charley Patton)
11.Simple Twist Of Fate
12.Early Roman Kings
13.Huck's Tune
14.Spirit On The Water
15.Scarlet Town
16.Soon After Midnight
17.Long And Wasted Years
・(encore)
18.All Along The Watchtower
19.Blowin' In The Wind
ライヴハウスでの公演や、ギターから鍵盤への移行など、スタイルは4年前の来日公演から継続している。しかし今回、いや、またしてもと言えばいいのか、ディランは観客を裏切り、置き去りにした。新譜をはじめ最近作を中心にしたセットを組み、キャリア総括などどこ吹く風といったライヴなのだ。
「ボブ・ディランのすごいところは、彼の最高傑作はこれから作られるかもしれないと思えることだ。」これは故ルー・リードによるコメントだが、この人の活動はまさにこのことばの通りになろうとしている。まさに先駆者にして異端、そして、現役、だ。
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