初恋(2006年)
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最終更新日:2022/12/10
邦画
三億円事件の犯人は女子高生だったという大胆な設定が施されているが、タイトルからわかる通り、事件の謎解きが焦点ではなく、切ないラヴストーリー作品である。
昭和40年代。親に捨てられたみすずは親戚に引き取られて暮らしていたが、その親戚ともうまくいってはおらず、学校でも友人を作ろうとしない。あるとき、別々に暮らしていた兄の導きで新宿のジャズ喫茶に出入りするようになったみすずは、そこを溜まり場にしている連中に安心感を覚えるようになる。その中のひとり、東大生の岸に現金輸送車を襲撃する計画を持ちかけられる。
三億円事件は、当時は今以上の貨幣価値を持つ大金がいとも鮮やかに強奪され、結局犯人が見つからないまま時効になってしまったという、非常にショッキングかつミステリアスな実際の事件である。この事件を元にしたドラマは今までにも数多く作られてきたが、本作がそれらと一線を画しているのは、事件を単なる手段としてしか描いていない点にある。みすずが実行犯になったのは、岸に「必要だ」と言われたからだった。
親の愛を知らないみすずが愛に飢えていたというのはまだわかるが、ジャズ喫茶に出入りしていた連中のキャラクターがしっかりと描ききれておらず、学生運動などの当時の空気感を彩っているに過ぎない。岸にしてもそうだ。三億円事件の犯人が女子高生というのはかなりのインパクトがあるが、それをキャッチフレーズにしすぎていて舞台の設定や登場人物の個性が浮かび上がってこないのは非常に残念。作品トータルとしての印象は薄い。
しかし事件が実行された後の終盤に、大きなクライマックスがあった。岸の帰りを待つみすずが岸の残したメモを読むのだが、そこにはみすずに対する想いが書かれてあった。この映画のタイトルである「初恋」とは、みすずの初恋である以上に岸の初恋でもあった、ということなのだ。みすずは現在大河ドラマで主人公篤姫を演じている宮崎あおいが、岸は小出恵介が、それぞれ演じている。
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