プリンス『サイン・オブ・ザ・タイムズのすべて』
1987年にリリースされた、プリンスのアルバム『Sign ‘O' The Times』。2020年10月には、未発表音源や映像を満載したスーパーデラックスエディション(以下『SOTTSD』)がリリースされたが、それにリンクした書籍も出版された。著者は日本人で、関係者が出版した書の翻訳でもなく、この人が文献やウェブサイトや音源などを独自に調査してまとめあげたものだ。
構成はドキュメンタリー調になっていて、1985年後半から1987年までのプリンスの活動を、かなり細かく記している。映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』の撮影を終えたところから話が始まり、『Parade』のレコーディングやPV撮影と、この辺りは表だった活動にリンクする。
続いて、『Dream Factory』『Cammile』『Crystal Ball』のアルバムを次々にレコーディング。しかしそれらはそのままの形式では日の目を見ることなく、紆余曲折を経て『Sign ‘O' The Times』へと至っている。更に、87年後半には『Black Album』をレコーディングしていた(こちらもお蔵入りとなり、94年に期間限定で発売)。
この時期の創作上の強力なパートナーだったのが、ギターのウェンディ・メルヴォワンと、キーボードのリサ・コールマン、つまりザ・レヴォリューションの女性メンバーふたりだった。プリンスは何もかも自分で考えて決めて、その通りに動くミュージシャンを求めているかと思いきや、彼女たちの意見を尊重し生かす面もあったようだ。
しかし、『Parade』のツアー終了と同時にプリンスはザ・レヴォリューションを解散させる。当時はプリンスの独断という報道がされた記憶があるが、その真相は彼女たちが脱退の意志をプリンスに伝えたからだった。彼女たちにしてみれば、やはりプリンスとの活動を続けるのは、色々な意味でストレスだったのだろう。
また、プリンスはこの時期ウェンディの双子の姉妹スザンナと交際・同棲していた。当時の彼女はミュージシャンかというと微妙だが、レコーディングに参加してコーラスを担ったり、曲作りのアイディア出しにひと役買ったりと、プリンスの音楽性にかなり踏み込んでいる。そのスザンナとも別れた後に、『Sign ‘O' The Times』は完成に向けて一気に加速する。
シーラ・Eは歌えるパーカッショニストとして自身のソロ活動をしていたが、ドラマーとしてプリンスの新バンドに加入。激しいダンスを踊る、キャットも加入した。ウェンディ&リサと入れ替わるようにして、ふたりがプリンスをサポートするようになったのは、興味深い。
プリンスは自身の活動だけでなく、他のアーティストへの曲提供やプロデュースもおこなっている。この時期では、バングルス『Manic Monday』、シーナ・イーストン、ジル・ジョーンズ、ザ・タイムなど。プリンスの創作ペースが尋常ではないことは認識していたつもりだが、改めてそのすごさを思い知らされる。
その最たるが、マイルス・ディヴィスとのコラボレートだ。マイルスがプリンスと共演したがっているという話を聞きつけたプリンスは、『Can I Play With U ?』を書いてテープを送った。マイルスはオーバーダビングをして曲を完成させるが、新譜を聞いたプリンスは、他の曲から浮いているからはずすべきと助言。結果、収録されなかったという。SOTTSDには、この曲のプリンス版が収録。また、同梱のDVDの1987年12月31日のライヴに、マイルスは飛び入りしている。
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